2012 Fiscal Year Research-status Report
抗生物質に対する耐性メカニズムの分子構造論的研究と創薬への応用
Project/Area Number |
23790054
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
近藤 次郎 上智大学, 理工学部, 助教 (10546576)
|
Keywords | 薬剤耐性菌 / 抗生物質 / リボソーム / X線結晶解析 / ドラッグデザイン |
Research Abstract |
本研究は、アミノグリコシド系抗生物質に対する細菌の薬剤耐性獲得メカニズムを分子レベルで明らかにし、耐性菌や感染性原虫にも効く新規薬剤を設計・開発することを目的とする。 アミノグリコシドは細菌リボソームの活性部位に存在するRNA分子スイッチに作用することで高い殺菌効果を示す。これに対して細菌は、分子スイッチをわずか1塩基変異させることで薬剤耐性を獲得する。薬剤耐性菌が持つ変異型分子スイッチのうち、特にA1408GとA1408methyl-Aの2種類が臨床現場で問題となっている。また、リーシュマニア症やマラリアなどを引き起こす感染性原虫は元来A1408G型と同じ分子スイッチをもつので、アミノグリコシドに対して耐性を示す。 平成24年度の第一の課題として、平成23年度に構造解析に成功したA1408G変異型スイッチに結合する新規薬剤の開発を行った。まずアミノグリコシドの中で特に殺菌効果が高いシソマイシンを設計の出発物質として選び、野生型分子スイッチとの複合体の構造を解析した。その結果、シソマイシンの糖環を部分的に改変することでA1408G変異型スイッチにも強く結合しうることがわかった。次に、設計した新規薬剤をカナダ・モントリオール大学との共同研究で化学合成し、変異型スイッチと共結晶化させて構造を解析したところ、この薬剤が予想通り変異型分子スイッチに強く結合することを確認できた。さらに、この薬剤が感染性原虫に対して殺傷効果を示すことを生化学的に明らかにした。 平成24年度の第二の課題として、A1408methyl-A変異型スイッチの構造研究に着手した。これまでに空間群が異なる3種類の結晶が得られ、そのうち2種類の結晶について構造解析に成功した。今後はもう1種類の結晶の構造解析を進めるとともに、この変異型スイッチをもつ薬剤耐性菌にも効く新規薬剤の設計・開発を進める。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の第一の課題としてA1408G変異型分子スイッチに結合する新規薬剤の設計・合成と薬理効果の評価を、第二の課題としてA1408methyl-A変異型分子スイッチの結晶化と構造解析を予定していた。 第一の課題については目標を順調に達成し、査読付き国際学術誌論文2報(うち1報は5月に出版予定)、日本語総説1件、その他の報文1件、招待講演1件、国際学会口頭発表2件、国内学会口頭発表1件とポスター発表2件として報告した。 第二の課題については、これまでに3種類の結晶が得られ、そのうち2種類の構造解析に成功したので、学会などでの成果報告を予定している。 さらに、当初予定していた上記課題以外にも、A1408UおよびA1408C変異型分子スイッチの結晶化に成功したので、今後はこれらについてX線回折実験と構造解析を進めていく予定である。 以上を総合すると、本研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られたA1408methyl-A変異型分子スイッチの3種類の結晶のうち2種類については構造解析に成功したが、残りの1種類については平成25年度中に構造解析を成功させたい。そのために結晶化条件を最適化したのちに放射光X線回折実験を行う予定である。またこれと並行して、この変異型分子スイッチに結合する天然抗生物質をゲルシフト分析・紫外分光法・共結晶化法などを用いて探索するとともに、モデリングによる新規薬剤の設計を行う。設計した分子の化学合成と薬剤耐性菌への殺菌効果の評価は、モントリオール大学のS. Hanessian教授の研究グループと共同で進める。また、平成24年度に得られたA1408UおよびA1408C変異型分子スイッチの結晶については、平成25年度中にX線回折実験と構造解析を行う予定である。 以上の計画を順調に遂行できれば、分子スイッチの変異による薬剤耐性獲得メカニズムの解明という本研究課題の目標を達成できるので、国際学術誌論文や国際・国内学会などで順次報告していく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、A1408methyl-A変異型分子スイッチと結合するアミノグリコシド薬剤の探索・設計と複合体の結晶化・構造解析を、A1408UおよびA1408C変異型分子スイッチについては結晶化条件の最適化とX線回折実験・構造解析を行う。そのために、研究費は主に化学合成RNAや各種試薬、X線回折実験用器具などの消耗品の購入にあてる。なお、平成24年度交付決定額のうち74,644円を平成25年度使用額として繰り越したが、これは化学合成RNA(1サンプル約100,000円)を購入するのに金額が若干不足したためであり、平成25年度請求額とあわせてこの目的のために使用したい。 平成25年度は本研究課題の最終年度となるので、これまでに得られた研究成果を国際学術誌および国際・国内学会で報告するための論文投稿費と旅費にも使用する。
|
Research Products
(10 results)