2011 Fiscal Year Research-status Report
網膜色素変性症を引き起こすスプライソソーム形成の異常とその調節機構の解明
Project/Area Number |
23790068
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 宏 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (60431318)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | pre-mRNA splicing / spliceosome / split luciferase |
Research Abstract |
pre-mRNA スプライシングを担う酵素であるスプライソソームは、100 種を超えるタンパク質と 5 種の低分子 RNA を含む巨大複合体である。この複合体の構成因子の遺伝子変異は網膜色素変性症を引き起こすが、発症機序は不明である。我々はスプライソソーム形成過程に対する原因遺伝子変異の影響を検討することを目的として、分割ルシフェラーゼ法を応用したスプライソソーム形成過程の変化を検出する手法を開発した。これまでにこの手法によりプロテアソーム阻害剤 MG132 処理後に スプライソソームの前駆体であるU5 snRNPが 減少することを見出している。本年度、我々はこのMG132によるU5 snRNP減少がpuromycinとの同時処理により促進されることを見出した。一方、puromycinと同じく翻訳を阻害するシクロヘキシミド処理では同様の反応は見られず、逆にMG132の効果がシクロヘキシミドにより抑制された。puromycinは途中で翻訳が終了した異常な蛋白質を蓄積させること、またこれらがポリユビキチン化されること、さらにMG132はポリユビキチン化蛋白質を増加させることから、puromycinによるMG132の作用の促進にはポリユビキチン鎖の蓄積が関係すると予想された。スプライソソームの反応過程の調節にはユビキチンも関わることが報告されているが、ユビキチンによる調節は他の因子によるものと役割が重複しており、その生理的意義は不明であった。今回の結果から、スプライソソームのユビキチン調節が細胞内ユビキチン量を介してsplicingと細胞の状態をリンクさせる機構である可能性が考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画の目標の1つは、MG132によりU5 snRNPが減少するメカニズムの解明である。研究計画ではMG132処理後にU5 snRNP量が減少する際、通常より少し小さいサイズのU5 snRNPが増大していることが観察されたので、その変化を誘導する未知の因子がスプライソソームに結合すると予想していた。そのため、そのような因子の同定を研究の中心に据えていたが、阻害剤を用いた現象の詳細な検討により、未知因子の結合ではなく、U5 snRNP因子のユビキチン化効率の変動が、U5 snRNPの変化を引き起こしたと推測され、研究の進め方についてはやや方向性が変わってきている。また、計画を立てた段階ではMG132の効果がプロテアソーム阻害によるものと捉えていたが、MG132以外のプロテアソーム阻害剤では同じ結果が得られなかったことから、その点についての予想も覆る結果となった。PuromycinとシクロヘキシミドがU5 snRNPに与える効果の違いと同様、プロテアソームの阻害剤も各化合物の阻害様式によっては、細胞に与える影響が異なることを示す結果であり、化合物を用いた検討の有用性と注意点を改めて認識する結果となったことは興味深い。研究の進め方は上記のように計画とは異なるものとなったが、研究の目的そのものは達成されつつあるので、全体評価としては概ね順調であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究計画の目標としては、網膜色素変性症で見られる遺伝子変異がスプライソソームの形成経路にどのように相互作用するかを調べること、また U5 snRNPの変動を誘導するシグナル経路と遺伝子変異の相互作用の検討を挙げている。23年度には、U5 snRNP以外のスプライソソームの前駆体であるU4/U6 snRNP、またそれがU5 snRNPと会合して活性型スプライソソームを形成する直前の前駆体であるU4/U6.U5 tri-snRNPについてもその変動を検出するレポーターを作成し、その安定発現細胞株を作成した。これらのレポーターがその構成因子の細胞内量と相関することはノックダウン実験により確認済みである。24年度はこれらの細胞株を用いて、網膜色素変性症で遺伝子変異が見られる遺伝子をsiRNAによるノックダウンで発現減少させ、その発現減少した分を野生型および網膜色素変性症で見られる変異型で相補する実験系を構築する。その際のレポーター活性の変動を検討することにより、変異型蛋白質がどのようにスプライソソーム形成過程に影響を与えるかを検討する。また、U5 snRNPのユビキチン化が安定的なsnRNP供給に役割を果たす可能性が23年度に見出されたので、その知見を活かし、同様の実験条件でさらにMG132処理の効果も検討する。このMG132による細胞へのストレス負荷が網膜色素変性症の変異型蛋白質を含むスプライソソームに相乗的もしくは相加的に作用するのかを調べ、これまでの各種変異体の機能変化の研究と比較する。これにより、それぞれの変異体の持つ異常が機能的にどのような違いを持つか、またその違いが、異なる遺伝子変異を持つ家系間での病態や重症度と相関するかなど、重要な知見が得られるものと期待される。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度の残額が生じた理由としては、研究計画で未知因子同定のための複合体精製が挙げていたものの、化合物を用いた検討からその計画が不要となり、複合体精製にかかる費用が削減できたことが大きい。また、全体として消耗品などの経費の節減に努めたことももちろん重要な要素である。24年度は23年度の研究結果から具体的な実験系として、siRNAを用いたノックダウン実験を多用する。そのため、23年度の経費の節減の結果生じた使用残については、主にsiRNAなどノックダウン実験とその後のレポーター活性の測定に必要となる基質代などアッセイ系の消耗品に使用する。また、当初の研究計画ではアッセイ系のバックアップとしてスプライソソーム構成因子に対するモノクローナル抗体を作成し、それを用いたsnRNPの定量検出を目的とするELISA系の構築も挙げていたが、レポーターが全ての標的とするsnRNPに対して構築できたことからELSIA構築の分の消耗品は削減できると考えている。一方でレポーターに用いた遺伝子については市販の抗体で良いものがなかったため、自分たちで作成を行っている。これまでにレポーターに使用したスプライソソームに含まれる蛋白質のほとんどについて作成が終了しているが、24年度も引き続いて、重要な蛋白質については逐次抗体作成を行っていく予定であるので、こちらに関しても使用残を含め予算を使用していく。
|