2011 Fiscal Year Research-status Report
ASK3を手がかりとした浸透圧受容、応答メカニズムの解析
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23790078
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
名黒 功 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80401222)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ストレス応答 / RNAiスクリーニング / 浸透圧ストレス / ASK3 |
Research Abstract |
本年度は本研究の主要なテーマの一つである"ASK3活性を指標とした浸透圧ストレス受容分子群のゲノムワイドスクリーニング"のうち高浸透圧ストレスに対するASK3不活性化を指標としたスクリーニングを行なった。当初予定していたスクリーニング系が十分に働き、予定通りゲノムワイドのターゲット(~18,000遺伝子)について探索を行ない、ASK3の不活性化に関与する候補分子が得られた。このスクリーニング系と方法論については『サーモサイエンティフィック ライフサイエンスセミナー』および『第二回スクリーニング学研究会』の招待講演で発表した。これまで細胞レベルで明らかにしていたASK3とWNK1-SPAK/OSR1経路との関連を個体レベルで調べるため、腎臓の組織免疫染色を行ない、ASK3ノックアウトマウスの腎尿細管においてSPAK/OSR1のリン酸化レベルが高くなっていることを見出した。この結果は細胞レベルで示されたASK3によるWNK1の制御が実際のマウスの腎臓においても働いていることを示唆するものであり、ASK3が腎臓に起因する高血圧症の発症に関与する可能性を示している。また、高食塩負荷食を与えることにより、ASK3ノックアウトマウスの血圧がWTに比べ有為に上昇することも見出しており、このことはASK3が個体のイオンバランスや血圧の恒常性を保つために重要な働きをしていることを示唆していると考えられる。これらの結果を含めて本研究の内容を『第3回シグナルネットワーク研究会』で発表したところ、研究者部門・奨励賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
"ASK3活性を指標とした浸透圧ストレス受容分子群のゲノムワイドスクリーニング"については、高浸透圧ストレス応答に対して、当初の予定通りゲノムワイド(~18,000遺伝子)の1次スクリーニングを完遂した。さらに、次年度に予定していた1次スクリーニングで得られた候補遺伝子の2次スクリーニングによる絞り込みまで行なうことができ、非常に順調に研究が進んでいる。ゲノムワイドスクリーニングの行程が一通り完遂できたことから、今後予定している低浸透圧ストレス応答に対するスクリーニングもスムーズに行えると考えられる。"ASK3下流分子の解析"についても、細胞レベルで示していたASK3とWNK1-SPAK/OSR1経路との関連が個体レベル(マウス)でも働いていることが示唆される結果が得られ、ASK3-WNK1-SPAK/OSR1経路の血圧制御における重要性が伺える。今後、ASK3を介するWNK1のリン酸化部位の同定などを行い、この経路の実体を分子生物学的観点から検討する。また、ASK3の下流分子と考えられるWNK1とp38は浸透圧ストレス時の細胞体積調節に関わるという報告もあるため、本年度では細胞体積変化をモニターする実験系を立ち上げた。今後、この系を用いてASK3の細胞体積調節への関与について検討する。"ASK3ノックアウトマウスの解析"については、高食塩食で血圧上昇が亢進していることを見出した。想定されたように腎臓での水やイオンのバランス制御に不具合があることが示唆された。計画通り次年度では生体の水分やイオンバランスに影響を与えるストレスをかけ、体液量調節ホルモンなどの動態を検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
"ASK3活性を指標とした浸透圧ストレス受容分子群のゲノムワイドスクリーニング"では、高浸透圧ストレスに対するスクリーニングが非常に順調に進み、候補遺伝子の同定まで出来たため、今後はこれらの候補遺伝子が浸透圧ストレス依存的なASK3の活性変化にどのように関わるかについて、生化学的・分子生物学的方法を用いて解析する。その過程で直接浸透圧変化を感知する分子を同定し、哺乳類の浸透圧センサー分子の特定を目指す。また、同様のゲノムワイドスクリーニングを適用し、逆側の浸透圧ストレスである低浸透圧刺激におけるASK3活性制御因子についても同定、解析を行う。"ASK3下流分子の解析"では、個体レベルでも働くことが示唆されたASK3のWNK1に対する制御メカニズムについて、制御に関わるリン酸化部位の特定など分子レベルの関係について解析を進める。同時に、本年度確立した細胞体積変化をモニターする実験系を用いて、ASK3、およびその下流分子WNK1、p38が浸透圧ストレス時の体積調節に関与するか検討する。"ASK3ノックアウトマウスの解析"では、ASK3が応答する浸透圧ストレスと発現部位である腎臓をキーワードに、個体レベルの水分やイオンバランスの調節についてASK3ノックアウトマウスで欠陥がないか検討する。具体的には既に行った高食塩食負荷の他に、乾燥、水負荷などのストレスを与え、WTマウスとの耐性の違いについて検討する。バソプレシンやレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系などの体液調節ホルモンの動態などにも注目する。最終的には体液調節機構の破綻により発症する浮腫や高血圧症などの病態にASK3が関与する可能性も視野に入れながら、ASK3を新たな役者として加えた生体の水分とイオンバランスの調節メカニズムを提唱したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に関しては、本年度に行った高浸透圧ストレスに対するスクリーニングと同様に、低浸透圧ストレスに対するゲノムワイドスクリーニングを行うため、siRNAトランスフェクション試薬、アッセイプレート、細胞培養器具など消耗品が相当量必要であり、それらの購入に研究費が必要となる。また、既に行ったスクリーニング結果で得られた遺伝子の生化学的・分子生物学的・細胞生物学的解析に対する試薬・器具の購入も必要となる。今年度確立した細胞体積変化をモニターする実験系は蛍光顕微鏡を利用したものであり、今後精度を向上させるために光学的な器具(フィルターなど)の購入も予定しいている。ASK3ノックアウトマウスの解析においては、実験に必要な試薬などの他、餌、施設利用費など動物飼育のための恒常的な費用が必要となる。本研究によって得られた成果の発表を国内外の学会で行うことを予定しており、そのための旅費および学会参加費も必要となる。
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[Journal Article] p38 MAP kinase regulates the expression of genes in the dopamine synthesis pathway through phosphorylation of NR4A nuclear receptors.2011
Author(s)
Sekine,Y., 他5名, Naguro, I., Kobayashi, K., Tsunoda, M., Funatsu, T., Nomura, H., Toyoda, T., Matsuki, N., Kuranaga, E., Miura, M., Takeda, K., and Ichijo, H.
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Journal Title
J. Cell Sci.
Volume: 124
Pages: 3006-3016
DOI
Peer Reviewed
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