2011 Fiscal Year Research-status Report
小型魚類を用いた器官サイズ制御を司るHippoシグナル伝達系の解析
Project/Area Number |
23790079
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
浅岡 洋一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (10436644)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | Hippoシグナル伝達系 / 蛍光イメージング / 小型魚類 / 細胞間張力 / 変異体 / トランスジェニック / FRET / Fucci |
Research Abstract |
Hippoシグナル伝達系は、隣接細胞間の接触情報に基づいて細胞増殖と細胞死の双方を制御することにより、組織や器官のサイズを規定する新しいシグナル経路として近年注目を浴びている。Hippo系の下流標的分子Yapの変異メダカは、初期形態形成期より胚の厚みが扁平であり、組織の構築不全と維持不全という特徴的な表現型を示す。この表現型は、組織を構築する個々の細胞の増殖や細胞死の観点だけからでは説明がつかず、組織化された臓器を形成するために必要な細胞間張力の統御機構の理解が急務である。 本研究では、生きた個体全体の中で、細胞周期・細胞死に加え細胞張力をリアルタイムに可視化し、Hippoシグナル活性化の形態形成過程における役割を明らかにすることを目的として研究を進めた。まず、既に作出済みのFucciメダカを用いて、形態形成過程における細胞周期の時空間的パターンを解析した。その結果、形態形成後期に網膜と脳組織の一部において細胞増殖が盛んであることを確認できた。そこで、モルフォリノを用いてHippoシグナル関連分子のノックダウン解析を行い、Hippoシグナルが形態形成過程に及ぼす影響を精査した。その結果、網膜組織において顕著な形態異常が認められたことから、Hippoシグナルが形態形成期の網膜組織の増殖分化制御に関与する可能性が示唆された。一方、細胞張力の可視化システムの構築に向け、張力のセンサープローブ (VinTS) をメダカ胚に導入し、蛍光タイムラプス顕微鏡により細胞-細胞間張力の組織分布をFRETの蛍光強度の変化として捉えられるか否かを検討した。現在までのところ、期待どおりのFRET 効率が得られていないが、リンカーの種類や長さの変更による改良型張力センサー分子の作製を進行させており、今後FRET効率の最適化を培養細胞にて検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では「Hippoシグナル伝達系による組織・器官サイズの制御機構を細胞増殖と細胞死の視点に加えて新たに細胞張力の観点から個体レベルで解明すること」を目的としている。すなわち、可視化技術に適した小型魚類を用いて、Hippoシグナル伝達系が関与する細胞増殖・細胞死とともに細胞間張力をin vivoで解析することを目標とする。これまでに形態形成期のHippoシグナルが網膜細胞の増殖分化制御に関与する可能性を見出しており、この解析を次年度にてさらに推進することにより最終的なマクロスケールの網膜組織構築を個体レベルで理解できると考えている。一方、個体内での細胞内張力の解析にあたり、現在までに一過的な発現系において細胞-細胞間張力の組織分布をFRET 法により検出するための予備実験を遂行した。細胞内張力をFRETの蛍光強度の変化として捉えるための最適化条件を決定するため、改良型張力バイオセンサーの作製などを同時進行で進めている。今後は、傷害組織再生過程におけるHippoシグナル活性化の意義解明も発展的目標として推進したいと考えているが、当初の研究目的はおおむね順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究を発展的に継続するとともに、最終年度の総括を行う。 これまでの一過的な発現解析に加え、全身に蛍光プローブを発現したトランスジェニック・メダカをYap変異体メダカと掛け合わせた解析を行い、全身組織の細胞増殖、細胞死および細胞張力の様式を隈なくタイムラプス観察する。これにより発生期のHippoシグナル伝達系による組織構築とその破綻による組織崩壊の詳細を胚全体において精査する。トランスジェニック動物を作出するうえで考えられる問題点は、高すぎる蛍光のバックグラウンド、あるいは、検出限界以下の弱すぎる蛍光シグナルである。これらの問題点に対処するために、必要に応じてインジェクションする発現ベクター量などの条件検討や、発現量を調節可能な(低発現型、高発現型)プロモータの検討を行う。 魚類はひれはもとより心臓や脊髄を含め多くの内臓器官が再生可能である。この魚類の高度の組織修復能力のメカニズムにHippoシグナル伝達系がどの程度寄与しているかどうかを検討するため、樹立したトランスジェニック・メダカとYap変異メダカとの掛け合わせによる解析を行う。具体的には、Yap変異メダカのひれもしくは内臓組織の一部を切除し、切断部位組織付近における細胞増殖能、アポトーシス細胞の出現様式、および細胞-細胞間の張力変化をリアルタイムで検出し、野生型メダカの組織再生過程との比較解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究課題を遂行する上で、小型魚類飼育代、培養細胞関連試薬、プラスチック製品および遺伝子工学関連試薬などの消耗品費を主たる研究費として使用する計画である(今年度3月末までに支払いができなかった残額については、4月中に支払いを完了しています)。
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Research Products
(2 results)