2011 Fiscal Year Research-status Report
多剤耐性と病原性発現に関与する薬剤排出トランスポーターの機能解明と阻害剤開発
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23790085
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西野 美都子 大阪大学, 産業科学研究所, 特任助教 (30510440)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 多剤耐性 / 薬剤排出 / トランスポーター / 細菌 / 感染症 / サルモネラ / 化学療法 / 病原性 |
Research Abstract |
近年、抗生物質が効かない多剤耐性菌の出現・感染拡大が医療現場において、国際的に大きな問題となっており、感染症の克服は極めて重要な課題となっている。我々は、サルモネラのゲノム情報をもとに、数多くの多剤排出トランスポーター遺伝子を同定してきた。さらに、これらトランスポーターが、病原性発現制御にも関与していることを明らかにした。しかしながら、これらトランスポーターによる細菌多剤耐性発現制御機構や生理機能、生理基質などについては殆どが未知のままであった。そこで、本計画では、病原細菌に潜む排出トランスポーターによる多剤耐性化と病原性の制御機構を明らかにすることを目的として、研究を推進する。本年度、研究に取り組んで得られた結果は以下の通りである。 細菌において強力に機能しているRND型排出ポンプは、サルモネラに5種類存在している。通常、その機能に必要である膜融合蛋白質(MFP)も同じオペロン上にコードされていることが知られている。しかしながら、RND型排出ポンプAcrD遺伝子の近傍にはMFPがコードされておらず、AcrDの機能に必要なMFPについては未だ分かっていない。そこで、サルモネラのAcrD排出システムにおけるMFPの同定を行った。AcrD過剰発現株は、多剤耐性を示し、その耐性化は、acrAまたはtolC遺伝子を欠損させることで完全に抑えられた。また、acrA遺伝子欠損株においても、プラスミドを用いてAcrAおよびAcrDの両方を過剰発現させることで、多剤耐性化が引き起こされることを確認した。RND型排出ポンプAcrDは、MFPとしてAcrBの遺伝子近傍にコードされているAcrAを利用することで、サルモネラ多剤耐性化を引き起こすことを世界にさきがけ発見した。これは、AcrAがRND型薬剤排出システムのMFPとして、多面的な役割を果たしていることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
わが国におけるサルモネラ食中毒事例はここ数年間常に、腸炎ビブリオと一、二を争う代表的食中毒菌である。サルモネラによる食中毒は大型の事例が多く、学校、福祉施設、病院で多発している。また、多剤耐性化も増加しており、世界的にその予防対策が公衆衛生上の大きな問題となっている。本研究では、多剤耐性化に関与している薬剤排出トランスポーターの一つであるAcrDが、別のトランスポーターでも用いられている膜融合蛋白質AcrAを活用して、細菌多剤耐性化を引き起こしていることを世界にさきがけて発見した。言い換えると、細菌は多剤耐性を誘導する上で、小さなゲノムをフル活用しており、大変やりくり上手で巧妙な機構によって抗菌薬が効かなくなる事実が明らかになってきた。このようなゲノム上での耐性因子の「使い回し」を阻止する新たな薬剤開発にも、本研究成果が大いに役立つことが高く期待されており、耐性菌克服に貢献するものと評価されている。本成果は当初の予想を大きく上回るものであり、研究も順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、ゲノム情報に基づく解析により、細菌には多数の薬剤排出トランスポーターが存在し、多剤耐性や病原性発現に関与していることが示唆された。それらの中には、宿主細胞の反応系に影響を及ぼす分子を分泌しているものや、宿主細胞内の環境や抗菌薬から細菌自身を守る役割を果たしているものが含まれていた。薬剤排出トランスポーターは抗菌薬や細胞障害性異物を菌体外に排出することにより、細菌を様々な化合物に対して耐性化させるのみではなく、細菌内で産生された病原性因子を排出して宿主細胞に影響を及ぼすこと考えられる。今後は、細菌病原性発現に関与する薬剤排出トランスポーターの細胞内誘導機構について調べる。まず、宿主細胞内でのトランスポーター制御因子を同定するために、macAB上流域の配列を用いて、ファジーアルゴリズムを取り入れたプログラム解析により、既存のレギュレーター結合配列が存在するかを調べる。同時に、ランダムに変異を入れて、宿主細胞を用いたスクリーニングを行い、マクロファージ内で薬剤排出トランスポーターが誘導されなくなった変異株を得る。変異箇所を同定することにより、病原性調節を担うトランスポーターの制御因子を決定する。決定した制御因子の情報を元に、宿主細胞内でトランスポーター発現を誘導しているシグナルについて推定し、in vitro解析により、シグナルを決定するとともに、マクロファージを用いたin vivo解析により感染時に、いつ・どこでトランスポーターの発現が誘導されるのか、病原性発現の時空間情報を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、病原細菌の宿主感染時における薬剤排出トランスポーターの発現制御機構、生理機能、生理基質を解明し、トランスポーターの阻害剤を検索することが目的である。本年度は、細胞ならびに細菌培養に必要な試薬・ピペット等の消耗品、発現制御解析のためのマイクロアレイ解析ならびに生理基質同定のためのトランスポーターのメタボローム解析に重点をおいた予算配分となっている。本研究計画を進めて行くことは、薬剤排出トランスポーターによる病原性制御の理解に繋がるだけではなく、耐性菌感染症を克服するための有用な情報を提供できると期待できる。
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Research Products
(9 results)