2011 Fiscal Year Research-status Report
塩基性繊維芽細胞増殖因子の脂肪細胞に対する代謝調節因子としての役割
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23790089
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
木平 孝高 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (90377276)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 低酸素誘導因子 / 肥満 / 糖尿病 / 塩基性線維芽細胞増殖因子 / ノックアウトマウス |
Research Abstract |
塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を脂肪細胞に添加すると低酸素誘導因子(HIF)の活性化と糖輸送担体(GLUT1)の発現誘導が生じることを確認した。脂肪細胞におけるGLUT1制御がHIFにより直接行われているかどうかは不明であったため、クロマチン免疫沈降法を用いて解析を行った。その結果、HIFがGLUT1のプロモーターに結合していることが明らかとなり、脂肪細胞において、HIFが直接的にGLUT1の発現誘導を行うことが証明された。また、HIF、GLUT1の発現誘導に伴い、脂肪細胞への糖取込量の増加、乳酸の産生上昇が観察されたことから、bFGFにより脂肪細胞の糖代謝が亢進していることが示唆された。以上のことから、bFGFが脂肪細胞に作用することにより、HIFを介した代謝変化を引き起こすことが明らかとなった。また、脂肪組織特異的HIFノックアウトマウス(KOマウス)を用いた実験系の確立を行った。KOマウスの精巣上体脂肪組織を単離し、HIFのmRNAおよびタンパク質の発現量を解析したところ、どちらもKOマウスの脂肪組織において有意に減少していた。このことから、脂肪組織においてHIFがノックアウトされていることが確認された。また、KOマウスの体重推移を調べたところ、野生型マウスとKOマウスとの間に差は無く、高脂肪食負荷した際においても、どちらのマウスも同様に体重が増加した。さらに、精巣上体脂肪組織、皮下脂肪組織、肝臓のいずれの重量も野生型マウスとKOマウスとで差は見られなかった。このことから、脂肪細胞のHIFは、肥満に伴う脂肪組織の肥大化には影響を及ぼさないことが明らかとなった。しかしながら、経口糖負荷試験を行ったところ、KOマウスの方が野生型マウスよりも耐糖能が上昇していることが明らかとなった。以上のことから、脂肪細胞のHIFが全身の耐糖能に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、肥満糖尿病における塩基性線維芽細胞(bFGF)の役割について、特に低酸素誘導因子(HIF-1α)を介した作用を中心に解析を行うことにある。現在、脂肪細胞にbFGFを添加するとHIF-1αが発現誘導されること、誘導されたHIF-1αがその標的遺伝子である糖輸送担体(GLUT1)を直接発現誘導すること、これに伴い、脂肪細胞への糖の取込が促進し、乳酸の産生量が上昇することを明らかとした。これらのことから、bFGFは脂肪細胞の代謝状態をHIF-1αを介して行っていることが考えられる。乳酸は、インスリン抵抗性惹起の一因であるため、bFGFによる脂肪細胞の代謝変化がインスリン抵抗性を引き起こす原因となるのではないかという示唆が得られた。bFGFの肥満糖尿病における働きについて in vivo における解析を進めるために、脂肪細胞特異的HIF-1αノックアウトマウス(KOマウス)の準備を進めている。KOマウスの脂肪組織においてHIF-1αがノックアウトされているのをmRNAレベルおよびタンパク質レベルで確認した。また、通常食負荷、高脂肪食負荷時の体重変化を調べたが、どちらの場合においても、野生型マウスとKOマウスとの間に有意な違いは観察されなかった。精巣上体脂肪組織重量、皮下脂肪組織重量、肝臓重量においても野生型マウスとKOマウスとで差はみられなかったことから、脂肪細胞のHIF-1αは肥満に伴う体重増加には影響しないことが確認できた。しかし、耐糖能に関してはKOマウスで上昇していることが明らかとなり、脂肪細胞のHIF-1αが全身の耐糖能に影響することが明らかとなった。bFGFや他の液性因子の脂肪細胞への影響を考える上でHIF-1αの作用は重要であり、今回、脂肪細胞のHIF-1αが全身に影響する結果を得られたことは、特に大きな収穫であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
脂肪細胞特異的低酸素誘導因子(HIF-1α)ノックアウトマウス(KOマウス)を用いた解析から、脂肪細胞のHIF-1αが全身の耐糖能に影響する可能性が示唆されている。このため、このKOマウスの性状解析を詳細に進めていくことが重要であると考え、KOマウスの解析を行う。まず、脂肪組織のmRNAの変化をreal time PCR法またはマイクロアレイにより解析し、脂肪組織の代謝状態、アディポカイン産生状態、炎症状態を把握する。これらの状態の変化から、脂肪細胞のHIF-1αをノックアウトしたことにより耐糖能が上昇する原因を推察する。また、糖負荷試験を経口および腹腔内投与で行い、比較することでインクレチンの関与を解析すると同時に、食餌下、空腹時下の血清インスリン値、インクレチン値を測定し、循環血液中のインスリン分泌状態を把握する。さらに、血糖のクリアランスには脂肪組織に加え骨格筋も重要であることが知られているので、骨格筋の状態変化についてもreal time PCRを用いて解析する。以上の解析から、脂肪細胞のHIF-1αがどのように耐糖能に影響を及ぼすかを考察する。脂肪組織における塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とHIF-1αとの関連について、高脂肪食負荷を行ったマウスの脂肪組織中のbFGF濃度とHIF-1α発現量との経時変化を解析する。また、肥満マウスまたは高脂肪食負荷過程においてbFGFを投与した場合に、脂肪組織がどのように変化するかを、マウスの体重変化、脂肪組織重量変化、脂肪細胞サイズ変化と共に、mRNAの発現解析などを用いて解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脂肪組織特異的HIF-1αノックアウトマウス(KOマウス)を用いた解析が主となるため、マウスの飼育費、ジェノタイピング関連の消耗品(酵素、プライマ、電気泳動関連試薬)に研究費を使用する。また、KOマウスの各種組織の遺伝子発現解析を中心に解析を進めていくことになると考えられるため、real time PCR関連試薬(プライマ、酵素等)、マイクロアレイを行う場合は、それに係る試薬およびマイクロアレイ解析装置の使用料に研究費を使用する。さらに、血清中の液性因子(インスリン、インクレチン、炎症マーカ等)の評価にはELISAを用いるため、ELISAのkitや抗体等の購入にも研究費を使用していく予定である。また、マウスに投与するペプチド類(bFGF、インスリン等)を購入する。これらの解析に必要なプラスチック、ガラス器具の購入を行う。
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