2012 Fiscal Year Research-status Report
塩基性繊維芽細胞増殖因子の脂肪細胞に対する代謝調節因子としての役割
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23790089
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
木平 孝高 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (90377276)
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Keywords | 低酸素誘導因子 / 肥満 / 糖尿病 / 塩基性線維芽細胞増殖因子 / ノックアウトマウス / 脂肪 / 炎症 |
Research Abstract |
塩基性繊維芽細胞増殖因子を培養脂肪細胞に添加すると、低酸素誘導因子(HIF-1α)の活性化が生じることを確認した。このことから、従来考えられていた、肥満に伴う脂肪細胞のHIF-1αの活性化は、脂肪細胞の肥大化による酸素濃度の低下のみならず、液性因子によっても引き起こされることが明らかとなった。また、HIF-1αの発現誘導に伴い、脂肪細胞の乳酸産生上昇が観察された。乳酸は全身のインスリン抵抗性を惹起することが知られていることから、脂肪細胞のHIF-1αが活性化すると、全身インスリン抵抗性が惹起され、耐糖能異常が引き起こされることが示唆された。この脂肪細胞のHIF-1αの全身に対する影響を確認するため、脂肪細胞特異的HIF-1αノックアウトマウス(KOマウス)を作製し、解析を行った。野生型マウスおよびKOマウスに、高脂肪食を負荷することで肥満を誘発し、経口糖負荷試験を行ったところ、肥満により生じる耐糖能異常が、KOマウスにおいては有意に改善していることが明らかとなった。次に、肥満に伴い、脂肪組織に炎症が生じ、これが、耐糖能の悪化を引き起こすことが明らかとなっているため、脂肪組織の炎症について解析を行った。その結果、野生型のマウスでは、肥満により、脂肪組織へのマクロファージの浸潤が観察されたが、KOマウスにおいては、これが有意に抑制されていた。また、炎症性サイトカインであるTumor necrosis factor α、Monocyte chemoattractant protein-1の脂肪組織中のmRNAレベルを解析したところ、KOマウスにおいて有意に減少していることが明らかとなった。以上の結果から、肥満に伴い脂肪細胞のHIF-1αが発現すると、脂肪細胞の代謝異常に伴う乳酸の産生上昇と、脂肪組織での炎症惹起が引き起こされ、全身の耐糖能が悪化することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、肥満糖尿病における塩基性線維芽細胞(bFGF)の役割について、特に低酸素誘導因子(HIF-1α)を介した作用を中心に解析を行うことにある。現在、脂肪細胞にbFGFを添加するとHIF-1αが発現誘導されること、これに伴い、乳酸の産生量が上昇することを明らかとした。これらのことから、bFGFは脂肪細胞の代謝状態をHIF-1αを介して変化させることが考えられる。乳酸は、インスリン抵抗性惹起の一因であるため、bFGFによる脂肪細胞のHIF-1αの発現誘導が、全身のインスリン抵抗性誘発の原因となるのではないかという示唆を提示することができた。また、脂肪細胞特異的HIF-1αノックアウトマウス(KOマウス)に高脂肪食を負荷し、肥満を引き起こし、経口糖負荷試験を行うことにより、耐糖能を観察したところ、KOマウスにおいて、耐糖能の改善が観察された。このことは、実際に、生体内で脂肪細胞のHIF-1αが、全身の耐糖能に影響を与えていることを示している。KOマウスにおける耐糖能の改善のメカニズムについて、脂肪組織の炎症という観点から解析を行ったところ、KOマウスにおいて脂肪組織へのマクロファージの浸潤が抑制されており、炎症性サイトカインであるTumor necrosis factor α(TNFα)、Monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)の発現量が減少していた。この結果から、脂肪細胞のHIF-1αが、脂肪組織の炎症の惹起に関与しており、全身の耐糖能へ影響を及ぼしている可能性が示唆された。このように、脂肪細胞のHIF-1αが、脂肪細胞自身の代謝や脂肪組織の炎症等、多彩な影響を示し、全身作用を引き起こすという新たな知見を得ることができた。以上に示すように、本研究は順調に進んでいると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
脂肪細胞特異的低酸素誘導因子(HIF-1α)ノックアウトマウス(KOマウス)を用いた解析から、脂肪細胞のHIF-1αが、全身の耐糖能に影響する可能性が示唆された。また、この耐糖能の改善は、脂肪組織の炎症が抑制されていることに起因することを示唆する結果を得た。このため、KOマウスの性状解析をさらに詳細に進めていくことが、HIF-1αの肥満糖尿病に関する知見を深めていくことに重要であると考えるため、今後は、KOマウスの解析を進めることとする。肥満に伴う耐糖能悪化には、脂肪組織の炎症のみならず、アディポカイン産生変化や代謝産物の変化が関与することが知られている。このため、野生型およびKOマウスの脂肪組織から組織溶解液を調製し、脂肪組織に発現しているアディポカインの量を解析し、さらに、各マウスの血清中のアディポカイン値を測定することにより、アディポカインの発現変化および分泌変化についてのデータを得る。また、血清のインスリン値、インクレチン値等の測定も行い、血清中で変動する液性因子を把握する。これら、アディポカインを含めた液性因子の変化から、脂肪細胞のHIF-1αをノックアウトしたことによる耐糖能と液性因子との関連を解析する。変動する液性因子が存在すれば、その液性因子そのものや、液性因子の受容体阻害剤などの糖負荷試験に対する影響を解析することにより、液性因子と耐糖能との関連を解析する。さらに、HIF-1αによる液性因子の発現調節について、培養脂肪細胞を用いた解析から詳細に解析を進める。また、耐糖能の改善にはインクレチンのインスリン分泌作用やインスリン自身が関与することが明らかであるため、膵臓の形態や膵島のサイズ、膵島β細胞、α細胞等の局在や個数の変化について免疫染色法を用いて解析を行う。また、腸管のインクレチンの変動についても免疫染色法やリアルタイムPCR法を用いて解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脂肪組織特異的HIF-1αノックアウトマウス(KOマウス)を用いた解析が主となるため、マウスの飼育費、ジェノタイピング関連の消耗品(酵素、プライマ、電気泳動関連試薬)に研究費を使用する。 また、液性因子の解析を中心に研究を展開する予定であるため、ELISAキット等の抗体製品の消耗品に購入に研究費を多く使用すると考えられる。脂肪組織のアディポカインの発現変動を解析するために、アディポカインに関するアレイキットを使用することを考えている。さらに、アディポカイン、インスリン、インクレチン等やそれらの受容体阻害剤をマウスに投与する実験も計画しているため、ペプチド類の購入にも予算を割く予定である。 膵島や腸管組織に対しては、免疫染色法を用いて解析を進めていくため、免疫染色にかかる試薬を購入する。 また、以上の解析に必要なプラスチック、ガラス器具の購入に使用する。 本年度は、研究成果を発表するために、薬理学会および薬学会に参加する予定であるため、これらへ参加する際の旅費へ研究費を使用する予定であり、論文作成に関する費用にも使用する予定である。
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