2011 Fiscal Year Research-status Report
脳におけるビタミンK生合成機構と脳神経変性疾患との関連性の解明
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23790110
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Research Institution | Kobe Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
中川 公恵 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (90309435)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ビタミンK / メナキノン-4 / メナキノン-4生合成酵素 / 脳神経 / アルツハイマー |
Research Abstract |
血液凝固や骨形成に重要な役割を担うビタミンKは、これまで栄養素として摂取したものが生体で作用していると考えられていた。しかし、申請者は摂取したビタミンKが生体内でビタミンK2(メナキノン-4)に変換されることを明らかにし、それを担う酵素「メナキノン-4生合成酵素」を見いだすことに世界で初めて成功した(Nature 2010)。本研究では、生体内でメナキノン-4が生合成される生理的意義を解明し、特に脳神経変性疾患との関連性を調べ、脳におけるメナキノン-4の役割を解明し、脳神経変性疾患治療へのビタミンKの有用性を見いだすことを目的とする。本年度は、「メナキノン-4生合成酵素」の組織特異的な発現制御を明らかにする目的で、「メナキノン-4生合成酵素」遺伝子のプロモーター解析を行った。また、「メナキノン-4生合成酵素」は、申請者らが初めて機能を明らかにした酵素であることから、その酵素の活性ドメインや基質認識領域などは未だ不明である。そこで、本酵素の構造的特徴および酵素活性中心を解明するため、本酵素のpoint mutantおよびdeletion mutantを作製し、酵素としての構造的特徴の解明を行った。さらに、脳を構成する細胞は、胎生期において神経幹細胞から分化して形成されることから、脳神経細胞の形成過程でメナキノン-4が何らかの作用を担っている可能性が高いと考えられる。したがって、未分化神経幹細胞の神経細胞分化に対する影響を調べ、神経細胞形成に関与しているかを明らかにする。これに加え、神経細胞は酸化ストレスに脆弱であることを考えると抗酸化効果のあるメナキノン-4は、神経細胞を細胞死から保護する役割を担っている可能性は十分にあると推察されることから、酸化ストレスに対する神経細胞保護作用についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「メナキノン-4生合成酵素」の組織特異的な発現制御を明らかにするため、本酵素のプロモーター領域をクローニングし、ルシフェラーゼレポーターベクターを構築した。これを用いて「メナキノン-4生合成酵素」遺伝子のプロモーター解析を行った。また、プロモーター配列上に予測されるエンハンサー領域に結合する転写因子について、発現ベクターを構築し、プロモーター活性を促進する因子であることを見いだした。「メナキノン-4生合成酵素」の酵素の活性ドメインや基質認識領域など、本酵素の構造的特徴および酵素活性中心を解明するため、本酵素のpoint mutantおよびdeletion mutantを作製し、酵素としての構造的特徴の解明を行った。これまでに本酵素についてSNPが報告されているアミノ酸をターゲットにpoint mutationを行い、バキュロウイルス発現系ベクターに導入したのち、Sf9細胞にインフェクションしてこの細胞におけるメナキノン-4生合成活性を評価した。その結果、数種のmutantにおいて、活性が上昇するものと逆に活性が消失するものが見いだされた。脳神経細胞の形成過程におけるメナキノン-4の作用について、未分化神経幹細胞の神経細胞分化に対する影響を調べた結果、メナキノン-4をはじめとして、数種のビタミンK同族体に神経幹細胞をニューロンへ分化誘導する作用があることが明らかとなった。また、酸化ストレスに対する神経細胞保護作用についても検討した結果、メナキノン-4存在下では細胞の生存率が向上することがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ヒト脳における「メナキノン-4生合成酵素」の発現およびメナキノン-4濃度に関するアルツハイマー認知症との関連性解析として、ヒト脳組織を用いビタミンK関連遺伝子の発現解析およびビタミンK濃度の測定を行う。ヒト脳検体は、東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンクより提供いただけることが確定しており、申請者は同施設の協力研究員としての登録を行っている。ヒト脳検体を取り扱う上では、患者背景が重要となるが、この点については、国立健康長寿医療センター部長 細井孝之博士の協力を得て、カルテおよび症例確認を行い、健常高齢者とアルツハイマー型認知症高齢者の検体選択を行う。ヒト脳検体からビタミンKおよびRNAを抽出する場合、P2レベルの対応が必要となるため、高齢者ブレインバンク内の実験施設にて無毒化レベルまでの処理を行い、その後の解析を申請者の研究室で実施する。ビタミンK濃度の測定は、申請者の研究室で確立したLC-APCI-MS/MSによる定量法を用い、あらゆるすべてのビタミンK同族体を一斉分析する。また、遺伝子発現については、「メナキノン-4生合成酵素」およびビタミンKの生理作用に関与する因子を網羅的に解析する。健常高齢者とアルツハイマー型認知症患者ともに、脳の測定部位としては、アルツハイマー病変が見られる前頭葉に加え、後頭葉、側頭葉、小脳についても分析を行う。アルツハイマー型認知症モデルマウスを用いた脳内メナキノン-4生合成活性の評価とビタミンK投与による治療効果の解析としては、モデルマウスにおけるメナキノン-4生合成活性を調べ、また行動解析などによりビタミンK投与効果を解析する。投与化合物としては、天然に存在するビタミンK同族体のナフトキノン環の水素原子をすべて重水素に置換した重水素標識体を用い、LC-APCI-MS/MS解析により高精度な分析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究内容を一部継続するとともに、平成24年度計画の内容を実施する。研究費は主に、遺伝子発現やタンパクの分析、ビタミンK濃度の定量などに必要な試薬等の消耗品の購入にあてる。
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Research Products
(10 results)