2011 Fiscal Year Research-status Report
マウス胚性幹細胞の分化指向性における脂質シグナリングの役割の解明
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23790116
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
安田 智 国立医薬品食品衛生研究所, 遺伝子細胞医薬部, 主任研究官 (20381262)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 発生・分化 / 脂質 / 再生医療 |
Research Abstract |
心筋梗塞などによって引き起こされる心機能不全に対して多能性幹細胞から分化させた心筋細胞を治療薬として用いる試みがされている。多能性幹細胞から目的細胞への低い分化効率は収量の低下を招くため、効率の高い分化方法を考案することが重要であり、そのためには多能性幹細胞からの心筋分化メカニズムの解明が必要である。マウス胚性癌細胞(EC細胞)であるP19CL16細胞より、DMSOによって誘導される心筋への分化の効率が異なる株を単離し、自律拍動する小結節数や心筋特異的マーカー遺伝子発現量の主成分分析により各々の株の心筋分化能を評価した。これらの細胞株の心筋分化能と分化誘導前のマイクロアレイ解析によるmRNA量との相関により、EC細胞の心筋分化能と関連のある24遺伝子を同定した。マウスEC細胞および胚性幹細胞(ES細胞)においてsiRNAによるこれらの遺伝子発現の抑制の影響を検討したところ、AW551984、2810405K02Rik(prostamide/prostaglandin F synthase)およびCD302において心筋分化制御がEC細胞とES細胞共に認められた。特にAW551984の発現抑制により顕著な心筋分化の阻害が見られた。またAW551984は未分化マーカーおよび中胚葉マーカーの発現量に影響を及ぼすことなく、転写因子Nkx2.5の発現調節を行い、心筋分化を制御することが明らかになった。AW551984はWnt/β-カテニンシグナルにより発現制御されることから、AW551984はWnt/β-カテニンシグナルとNkx2.5発現を繋ぐ新規の心筋分化制御因子であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において、マウス胚性幹細胞の心筋分化を制御する因子を同定することができた。そのうちの一つに関しては、心筋分化に深い関わりのあるWnt/β―カテニンシグナルによって発現が制御されることを明らかにした。さらに、これらの心筋分化因子の中にはプロスタグランジン類の合成酵素をコードする遺伝子が含まれており、脂質シグナリングと胚性幹細胞の心筋分化との関連性が示唆された。以上のことを勘案すると、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
予定していた海外出張を取りやめたため、当該年度の研究費を次年度に持ち越すこととなった。当該年度においてマウス胚性幹細胞の心筋分化を制御する因子を同定したため、今後はこれらの制御因子の機能解析に特化して研究を行いたい。胚性幹細胞から心筋分化に至る過程は複雑であるがゆえに、まだ未知な点も数多く残されている。心筋分化制御因子の機能解析を通じて、複雑な心筋分化メカニズムの一端を分子レベルで説明したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今回報告した心筋分化制御因子と相互作用するタンパク質を同定し、分子メカニズムのさらなる解明を行う。次年度の研究費は、主に心筋分化制御因子の機能解析のための実験に用いる予定である。具体的には以下の通りである。マウス胚性幹細胞にタグ配列を付加した心筋分化制御因子を発現させ、安定発現株を単離する。安定発現株の心筋への分化を行い、細胞溶解液より心筋分化制御因子をアフィニティーカラムクロマトグラフィーにて精製し、心筋分化制御因子と相互作用するタンパク質をLC-MS/MSにて同定する。もし安定発現株の単離が困難な場合は、心筋分化制御因子のリコンビナントタンパク質を作製し、細胞溶解液を用いてプルダウンを行うことを検討する。同定されたタンパク質はRNAiにより発現を抑制することにより心筋分化への影響を調べ、相互作用している心筋分化制御因子との関連性を検討し、心筋分化の分子メカニズムの追究を行って行きたい。
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Research Products
(2 results)