2011 Fiscal Year Research-status Report
脂質栄養状態を制御する分泌性ホスホリパーゼA2の新しいパラダイム
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23790120
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
佐藤 弘泰 (財)東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 研究員 (50546629)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ホスホリパーゼA2 / メタボリックシンドローム / リン脂質 / 脂質 / リポタンパク質 |
Research Abstract |
1. 培養細胞を用いた各sPLA2発現誘導メカニズムの解析培養脂肪細胞としてマウス前脂肪細胞株3T3-L1を用い、常法に従い脂肪細胞に分化させ、飽和または不飽和脂肪酸の添加、脂肪組織より採取した間質細胞との共培養を行ったがsPLA2-Vの発現は誘導されなかった。しかしながら小胞体ストレスを誘導するタプシガルジンを添加するとsPLA2-Vの発現が誘導された。2. 各sPLA2遺伝子改変マウスにおけるメタボリックシンドロームの病態生理学的解析・sPLA2-III : 視床下部において蛍光二重染色によるsPLA2-IIIの発現を調べた結果POMCニューロンおよびNPYニューロンに共局在していた。また高脂肪食負荷したPla2g3欠損マウスの視床下部を定量的PCRにより摂食関連遺伝子の発現を調べた結果Pla2g3欠損マウスではリポタンパクリパーゼの発現が有意に増加していた。神経特異的にLplを欠損したマウスでは過食・肥満をきたすがPla2g3欠損マウスはLplの発現が上昇することで摂餌量が抑制されるものと考えられる。・sPLA2-V : 高脂肪食負荷したPla2g5欠損マウスは、肥満、脂肪肝、高脂血症、インスリン抵抗性の増悪が認められた。Pla2g5欠損マウスでは血漿中のLDL が顕著に増加していた。一方、脂肪組織特異的Pla2g5 トランスジェニックマウスはPla2g5欠損マウスとは逆に体重が軽く、血漿中のLDL, HDLが低下していた。以上のことよりsPLA2-V は過栄養により脂肪細胞に誘導される「metabolic sPLA2」であり、脂質過多のリポタンパク質に作用してこれを正常化することで、肥満やインスリン抵抗性に対して防御的に機能するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、脂肪過栄養により誘導されるsPLA2の新しい一群「metabolic sPLA2」に着目し、メタボッリクシンドロームの成因におけるsPLA2の新しい機能とその作用機序を解明することを目的として研究を実施している。従来、sPLA2 の機能としては炎症との関連が大きく注目されていた。一方で、sPLA2 はリポ蛋白質のリン脂質を分解し、病理学的に本反応の過度の進行が動脈硬化に関わることが提唱されていたが、この反応が生体に存在する生理学的本質はわかっていなかった。本研究はsPLA2-Vの新しい機能、すなわちリポ蛋白質代謝を介して脂質栄養状態を制御するという新たな概念を提唱するものでありメタボッリクシンドロームの成因におけるsPLA2の新しい機能とその作用機序の一端を解明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、sPLA2-III, V, IIEを対象に、遺伝子改変マウスを駆使してメタボリックシンドロームの表現型を精査し、各アイソザイムの新しい病態生理学的機能を解明する。この研究成果を礎に、これらmetabolic sPLA2を標的としたメタボリックシンドロームの新規治療薬の開発とその臨床応用のための理論基盤の構築を推進する。1.sPLA2-IIE遺伝子改変マウスにおけるメタボリックシンドロームの病態生理学的解析sPLA2-IIE欠損マウスに高脂肪食負荷を施し、(1)脂肪組織、肝臓、筋肉などの組織学的評価、(2)CT解析による脂肪蓄積量の測定、(3)血清生化学検査値 (アディポカイン、インスリン、血糖値、肝機能マーカー)の分析、(4)インスリン感受性及び耐糖能の評価、(5)血漿リポタンパク質の脂質プロファイリング、(6)脂肪組織の炎症マーカーの発現プロファイリング、(7)脂肪組織における脂質メディエーターのプロファイリングの解析を行う。2.ヒトへの応用マウスでの解析結果がヒトにも適用できるかを確かめるために、ヒトのメタボリックシンドローム患者組織における当該sPLA2アイソザイムの発現を免疫組織染色ならびに定量的PCRにより調べる。さらにヒトsPLA2アイソザイムの高感度検出ELISA法を確立し、各アイソザイムの発現量と病態の進行度との相関性を検討する。本解析はサンプル入手がネックとなるので、臨床内科医との相談のもと、倫理委員会の審査承認を経てから実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
論文を投稿する予定であったが間に合わなかったため次年度使用額が生じた。次年度の研究費の使用計画としては、国内学会出張費、投稿論文の英文校正費と論文投稿費および印刷費として使用する。残りの経費を消耗品に充てる。試薬消耗品として遺伝子関連試薬 [遺伝子工学用酵素、PCRプライマー、免疫化学関連試薬、染色用試薬]、細胞培養試薬 など、器具消耗品として細胞培養フラスコ、遠心チューブ、マイクロプレート、また高脂肪食。さらに遺伝子改変マウスの管理維持費として使用する。
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Research Products
(17 results)