2012 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリア集積性アルギニンペプチドの機能評価と活性分子送達への応用
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23790129
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中瀬 生彦 京都大学, 化学研究所, 助教 (40432322)
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Keywords | 膜透過性ペプチド / ミトコンドリア / 薬物送達 / アルギニン |
Research Abstract |
細胞内への薬物送達キャリアーとして、HIV-1 Tatペプチドやオクタアルギニン(R8)などの、塩基性アミノ酸に富む膜透過性ペプチドが近年広く用いられている。本研究では、細胞内の特定オルガネラ、特にエネルギー産生や細胞の生死に関わるミトコンドリアに着目し、ミトコンドリア標的能を有する膜透過性ペプチドの創製を試みた。 本研究では、脂質膜においてα-ヘリックス構造をとる両親媒性ペプチド、KLAペプチド((KLAKLAK)2、全てD体)を基に、ミトコンドリア標的ペプチドをデザインし、それぞれの細胞内移行量や細胞内局在を検討した。KLAペプチドの全てのリジンをアルギニンに変えたRLAペプチドは、ヘリックス構造が保持され、KLAペプチドと比較して約40倍もの高い細胞内移行効率を示し、かつ高いミトコンドリア集積性を示すことを確認した。一方で、RLAペプチドと同じアルギニン残基数をもつが、ヘリックス含量を低下させた類縁ペプチドでは、形質膜透過効率が著しく低下することから、ヘリックス構造がペプチドの細胞膜透過に重要であることが明らかとなった。また、細胞内移行メカニズムを調べた実験では、エンドサイトーシスが阻害される低温条件において、ペプチドの細胞膜透過効率及びミトコンドリア集積性の低下が観察されたことから、RLAペプチドの細胞内移行にはエンドサイトーシス経路の大きな関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の達成度として、おおむね順調に進展していると判断できる。これまで、膜透過性ペプチドを細胞内導入キャリアーとして用いて目的物質を細胞内へ送達させる手法が幅広く利用されているが、細胞内へ送達される場所はサイトゾル及び核内へ拡散する場合がほとんどで、目的物質が本来送達されるべき細胞内の特定のオルガネラへの送達効率は悪いと考えられている。本研究課題ではKLAペプチドを基に、ミトコンドリアへの特異的な薬物送達が可能な膜透過性ペプチドの創出を行った結果、アルギニン残基に富むKLA類縁体であるRLAが非常に効率よく細胞形質膜を通過し、ミトコンドリアへ局在することを明らかにした。また、RLAの細胞形質膜の透過効率は、ペプチドのヘリックス構造が大切であることも示され、同じアルギニン残基数でもヘリックス含量が低いと移行効率が極端に低下するといったペプチドの構造的な観点からも膜透過機序を明らかにすることができた。さらに、細胞によるエンドサイトーシス経路でのペプチドの取り込みが、RLAペプチドの細胞内移行に大きく関わっていることも初めて明らかとなった。以上の結果は、当初の研究計画を成功裏に遂行できた成果であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)RLAペプチドの細胞膜透過メカニズムの検討 RLAペプチドの細胞内移行が、ペプチドのヘリックス構造及び、エンドサイトーシス経路による細胞取り込みが重要であることが本研究から明らかになったものの、細胞膜透過が移行経路のどの時点で生じているのかは明確になっていない。そこで、既存の膜透過性アルギニンペプチドとの場合と比較を行うことで、RLAペプチドの移行機序の解明及び移行様式の違いを詳細に検討する。具体的な実験として、(1) 各種エンドサイトーシス阻害剤による移行への影響、(2)細胞内トラフィック阻害剤(例えば、early endosomeからlate endosomeへの移行阻害剤や、エンドソーム内pH低下阻害剤等)による影響、(3)糖鎖欠失細胞株(CHO-pgs A745やpgs D677等)を用いた細胞膜集積性及び細胞取り込みへの影響について検討する。 (2)対イオンを用いたRLAペプチドの細胞膜透過効率の上昇 これまで、既存のアルギニンペプチドの細胞内移行において、対イオンを用いることでペプチドの膜透過性が格段に上昇することが見出されている。特にピレンブチレートを対イオンとして使用することで、膜透過性アルギニンペプチドの一種であるTat (48-60)ペプチドやオクタアルギニン(R8)ペプチドの細胞膜透過性が著しく上昇することが明らかとなっている。そこで、RLAペプチドに関しても対イオンを用いることで細胞膜透過効率が高まるか詳細に検討を行う。また、タンパク質等の巨大カーゴ分子が付加したRLAペプチドに関しても、対イオンを用いた場合の細胞内移行促進や、細胞内局在及びカーゴ分子の活性への影響について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
経費は主に、“今後の研究の推進方策”の研究を達成する為のペプチド合成用の有機系試薬(アミノ酸、ペプチド合成用レジン、縮合剤等)や、細胞培養試薬、細胞培養プラスチック製品、細胞実験用プラスチック製品(共焦点顕微鏡観察用、フローサイトメトリー実験用等)等の消耗品購入及び、国内・海外で開催される学会等における研究成果発表の旅費等に充てる。
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Research Products
(18 results)