2011 Fiscal Year Research-status Report
ダイオキシンによる性未成熟誘起の機構:GnRH低下のインプリンティングの寄与
Project/Area Number |
23790152
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
武田 知起 九州大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60596831)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | ダイオキシン / ゴナドトロピン放出ホルモン / 視床下部 / 性行動 |
Research Abstract |
本研究では、申請者らが最近に発見した妊娠ラットへの 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 投与による出生・成長後の視床下部 gonadotropin-releasing hormone (GnRH) の発現低下の毒性学的意義付けならびに機構解析を実施した。第一に、TCDD による GnRH 低下と性未成熟との関連性を明らかにするため、TCDD により低下する GnRH を出生ラットの脳室内に補給し、TCDD による性行動障害 (性未成熟の指標の一つ) が改善されるか否かを検討した。その結果、TCDD 依存的に出現する性行動障害が GnRH 補給によりほぼ正常水準にまで改善することが実証された。本成果から、成長後の GnRH 低下が TCDD 依存的な性未成熟誘起の主たる要因であることが明らかとなった。 第二に、GnRH 発現低下の時期を明らかにするため、胎児~出生児の各時期における視床下部を用いて mRNA 発現変動の解析を行った。その結果、TCDD による GnRH 発現低下は出生後 4 日目より出現し、成長後に至るまで持続することが確認された。ラットの場合、出生後 2 週間程度でニューロン核の形成/発達がほぼ完了することから、本研究で見出した生後早期より出現する GnRH の発現抑制は、TCDD が GnRH ニューロン核の形成自体を破綻させた可能性を示唆する。平成 24 年度は、この点に着目して更なる研究展開を図る。 以上のように、出生後早期より持続的に起こる GnRH 低下のインプリンティングが、ダイオキシンによる性行動障害の発現に直結する重要因子であることが、本研究において初めて見出された。本知見は、これまで全く理解されていなかったダイオキシンによる性未成熟誘起の新規機構を提唱する重要な成果と考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成 23 年度は、「TCDD による成長後の GnRH 発現低下と性未成熟の関連性の検証」および「GnRH 低下の出現時期の同定」という二つの課題を明らかにすべく研究を実施した。実績の概要の項に記載の通り、TCDD 胎児期曝露による成長後の性行動障害が、GnRH 補給によりほぼ改善することを確認し、TCDD による GnRH 低下が性未成熟誘起の機構として重要であることを実証した。さらに、TCDD による GnRH 低下が生後 4 日目より成長後に至るまで持続的に起こることを明らかした。 以上のように、いずれの目標も達成していること、ならびに当初の仮説を支持する成果が得られていることから、本研究は順調に進展しているものと判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成 23 年度の研究により、GnRH 低下が性未成熟の主たる要因であることを突き止めた。従って、GnRH 低下の機構解明が実現できれば、ダイオキシンによる性未成熟誘起における対処法の構築に向け重要な知見となる。 平成 24 年度の研究は、当初の研究計画に従い TCDD 胎児期曝露による出生児における GnRH 低下の機構を明らかにする。まず、胎児および出生児視床下部より切片を作製し免疫染色を行い、GnRH ニューロンの形成状況に対する TCDD の作用を検討する。これにより影響が認められた場合は、ニューロン形成に関わる諸因子 (性ホルモンおよび神経伝達物質) を補給することで障害が改善する否かを検討する。もし、ニューロン形成に影響が認められなければ、エピジェネティック制御に対する影響を介して出現する可能性が浮上する。GnRH 遺伝子における DNA メチル化ならびにヒストン修飾に対する影響を観察する。もし異常が認められれば、それらを改善した場合の効果を検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究推進方策に従って、必要な消耗品類、動物を適宜購入する。その他には、研究成果発表として国内学会発表 (3 回を予定) の参加旅費を計上する。また、論文校正、投稿料ならびに印刷代を計上する。
|
Research Products
(1 results)