2011 Fiscal Year Research-status Report
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23790157
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
廣岡 孝志 東京理科大学, 薬学部, 助教 (50397519)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | メチル水銀 / 浮腫仮説 / 細胞性浮腫 / ポリオール経路 / アルドース還元酵素 / ソルビトール脱水素酵素 |
Research Abstract |
メチル水銀中毒(水俣病)の病理学的な特徴である大脳皮質の部位選択的な障害の発生は,浮腫形成による組織の循環障害に起因することが提唱されている。しかしながら,メチル水銀による浮腫の発生メカニズムは不明であった。浮腫は血管透過性亢進による血管性と細胞膨張による細胞性浮腫に分類される。これまでに申請者は,メチル水銀が脳微小血管内皮細胞および周皮細胞におけるVEGFシステムによる血管透過性調節を亢進させることにより,血管性浮腫を誘発することを明らかにしている。一方,メチル水銀は周皮細胞に浮腫性の形態学的変化(膨張)を誘発するが,この細胞性浮腫の発生メカニズムに関しては未解決である。糖代謝経路であるポリオール経路では,アルドース還元酵素(AR)によりグルコースから変換されたソルビトールをソルビトール脱水素酵素(SDH)がフルクトースに変換する。ARの活性化もしくはSDHの活性低下による細胞内ソルビトールの蓄積は,細胞内浸透圧の上昇による細胞性浮腫を誘発する。そこで,メチル水銀処理と高グルコース処理による周皮細胞の形態変化を比較した。その結果,両処理で周皮細胞の浮腫性変化が観察された。さらに,siRNA導入によるARの発現抑制は,高グルコース処理による周皮細胞の浮腫性変化を抑制させた。次に,周皮細胞におけるARとSDHの発現に与えるメチル水銀の影響をReal-time PT-PCRおよびWestern blotにより調べた。その結果,メチル水銀は,周皮細胞のARの発現を濃度依存的に上昇させたが,SDHの発現は濃度依存的に低下させた。これらの研究結果は,ポリオール経路のアルドース還元酵素とソルビトール脱水素酵素は脳微小血管細胞におけるメチル水銀毒性発現の標的分子であり,その活性化および阻害による細胞内ソルビトールの蓄積が細胞性浮腫形成メカニズムの分子基盤の1つである可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画項目を網羅的に実施できている。具体的には,(1)「メチル水銀による血管細胞の浮腫性変化と細胞内ソルビトール蓄積量の評価」として,メチル水銀,高グルコース処理,ARノックダウン処理による細胞形態変化の比較,(2)「メチル水銀によるARおよびSDHの発現変化と細胞の浮腫性変化」として,メチル水銀によるARおよびSDHの発現変化解析を行い,メチル水銀による周皮細胞の浮腫性変化が,ポリオール経路のARとSDHの活性変化によることを明らかにし,おおむね初年度に挙げた目標を達成している。なお,細胞内のソルビトールの測定評価に関しては,本年度に実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
メチル水銀の大脳における部位特異的な障害発生に関与する細胞性浮腫の形成メカニズムは明らかになっていない。本研究は,メチル水銀によるアルドース還元酵素およびソルビトール脱水素酵素の活性調節が細胞性浮腫の形成メカニズムであることを明らかにすることを目的としている。 平成23年度は,メチル水銀曝露によるヒト脳微小血管周皮細胞の浮腫性の形態変化が,メチル水銀によるアルドース還元酵素とソルビトール脱水素酵素の発現変化を原因した細胞内ソルビトール蓄積促進に起因する可能性を明らかにした。 平成24年度は,メチル水銀によるアルドース還元酵素の発現調節およびソルビトール脱水素酵素の活性阻害のメカニズムを検討する。また,メチル水銀による他の脳構成細胞(神経細胞,グリア細胞およびアストログリア細胞)の浮腫性変化に対するアルドース還元酵素およびソルビトール脱水素酵素の発現および活性変動の関与についても検討を行う。 最終的に平成23年度および平成24年度の研究成果を,メチル水銀による細胞性浮腫の形成メカニズムとしてまとめる。さらに,先に明らかにしているメチル水銀の血管性浮腫の形成メカニズムと併せて「浮腫仮説」の分子基盤の全容を理解する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,以下に挙げる2点に焦点を当てて研究を実施する。 1. メチル水銀の細胞内AR/SDHの発現および活性調節メカニズム: ARの発現上昇にはNrf-2―NF-kappa B経路によるAR遺伝子の転写促進が重要であることが報告されている。そこで,NF-kappa BもしくはNrf 2を高発現およびノックダウンした細胞を用いて,メチル水銀によるARの発現上昇にNrf 2―NF-kappa B経路の活性化との関係を明らかにする。一方,メチル水銀は,SDHに結合することにより,その活性を阻害する事が分かっている。このことは,SDHの活性阻害がその発現低下よりも細胞内ソルビトールの蓄積に大きく寄与することを示唆している。そこで,周皮細胞においても,メチル水銀が同様なメカニズムによりSDH活性を阻害していることを確認する。2.メチル水銀による神経細胞種の浮腫性変化へのARとSDHの関与:神経細胞,グリアおよびアストログリア細胞のメチル水銀による浮腫性の形態変化に対する細胞内ソルビトール蓄積,ARおよびSDHの発現と活性調節の関与を調べる。これにより,メチル水銀のポリオール経路の調節を介したソルビトールの蓄積が,血管細胞以外の細胞種の浮腫性変化にも関与することを明らかにする。
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Research Products
(3 results)