2011 Fiscal Year Research-status Report
薬剤による毒性発症に関わる因子としてのミトコンドリア内への担体介在性輸送
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23790173
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
設楽 悦久 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (00306656)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / フェンホルミン / OCTN1 / トログリタゾン / アミオダロン |
Research Abstract |
抗糖尿病薬フェンホルミンのミトコンドリアへの取り込みについて、臓器間で差が認められ、肝臓ミトコンドリアでは心臓に比べて高い取り込みが認められた。肝ミトコンドリアでの取り込みは各種化合物によって阻害されることから基質認識性の広い輸送担体によって取り込まれることが示唆された。実際に、高い取り込みが認められる肝ミトコンドリアでは、心臓ミトコンドリアに比べてフェンホルミンによる毒性の程度が高いことが示された。マウスにおいて、フェンホルミンのミトコンドリア内取り込みに対して、有機カチオン/カルニチントランスポーター1(OCTN1)が関与することが示された。一方、典型的な有機カチオンであるテトラエチルアンモニウム(TEA)においても、ミトコンドリア内取り込みに対して、臓器間差があることが示され、肝臓ミトコンドリアへの取り込みにおいては、飽和性および各種化合物による阻害が認められたことから、基質認識性の広い高親和性輸送担体の存在が示唆されたものの、OCTN1の関与は認められなかった。有機アニオン性化合物の取り込みについて検討を行ったところ、典型的な有機アニオン性化合物であるエストロン3硫酸 (E1S)においては、肝臓、腎臓、脳、心臓の各ミトコンドリアにおいて飽和性輸送が認められ、臓器間差があることが示された。脳においては特に高親和性であることを除くと、いずれの臓器においても輸送担体との親和性は近い値であった。抗不整脈薬アミオダロンのミトコンドリアへの輸送はE1Sによって阻害され、そのミトコンドリア毒性もE1Sの存在下において抑制された。また、抗糖尿病薬トログリタゾンのミトコンドリアへの輸送は、E1Sの他、ケトコナゾール、ベラパミルなどによっても阻害され、その毒性についても、これらの化合物存在下において抑制された。これらの医薬品によるミトコンドリア障害にも輸送担体の関与が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、フェンホルミンのミトコンドリア内への輸送について検討を進め、輸送に関与するトランスポーターがOCTN1であることを、発現細胞およびノックアウトマウスを用いて明らかにした。この結果を得たため、他のトランスポーターについての検討は行わず、OCTN1に着目した検討を進め、その結果として、OCTN1のフェンホルミンによって惹起されるミトコンドリア障害への関与を示した。一方、有機カチオン系化合物であるテトラエチルアンモニウムについては、フェンホルミンよりも高い臓器選択性が認められたものの、OCTN1の関与は小さいことが示され、他の輸送担体の関与が示唆された。また、有機アニオン性化合物の輸送についても検討を行い、エストロン3硫酸の飽和性輸送が肝臓だけでなく、腎臓、心臓、脳ミトコンドリアにおいても見られることが示された。肝臓、腎臓、心臓においては、同程度の親和性を示すのに対して、脳においては高親和性の輸送担体が存在することが示された。フェンホルミン以外についても、アミオダロンおよびトログリタゾンによって起こるミトコンドリア膨潤に対して、基質認識性の広い有機アニオン系輸送担体が関与する可能性が示唆された。この輸送担体の毒性への関与についても示された。しかしながら、そのトランスポーター分子種の同定には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
フェンホルミンによって生じるミトコンドリア毒性においては、齧歯類においてOCTN1の関与が示された。しかしながら、ヒトにおいてはmRNAレベルでのOCTN1の組織分布が齧歯類と比べて違っており、その関与について検討する必要がある。一方で、ヒト組織におけるタンパクレベルでのOCTN1の発現分布については報告されていない。そこで、ヒト肝におけるタンパクレベルでのOCTN1の組織分布について検討することが必要である。また、齧歯類においてミトコンドリアにおけるOCTN1の発現が示されたが、そのミトコンドリア発現の制御機構については不明である。トランスポーターのミトコンドリア発現については、核酸トランスポーターENT1で、その機序が明らかにされているものの、他のトランスポーターでは明らかとされていない。ミトコンドリアでのトランスポーター発現が薬物による毒性発症と関連することを本研究では示唆しており、したがって、トランスポーターのミトコンドリアでの発現量は毒性の個人差を制御する因子の一つとなり得る。したがって、OCTN1のミトコンドリア発現メカニズムを検討し、ミトコンドリアでの発現量の個体差を検討することが必要であると考えられる。また、薬物によって生じる毒性について、薬物の血中濃度との関連を明らかにした報告例は、さほど多くない。本研究では、血中濃度だけでなく、実際にミトコンドリアに移行した薬物量が重要であることを示唆している。このことから、ミトコンドリア移行性が毒性に関係する薬物において、血中濃度、臓器中濃度および推定されるミトコンドリア内薬物濃度と毒性の関連を明らかにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ヒトOCTN1発現細胞の構築およびミトコンドリアでの発現の検討:ヒトOCTN1発現細胞をヒト肝および他臓器由来細胞株により構築し、そのミトコンドリア局在性を検討する。また、フェンホルミンによる毒性を細胞および細胞より単離したミトコンドリアを用いて、検討する。ラットにおけるフェンホルミン毒性についてのTKTD解析:これまでの検討によって、ミトコンドリア内にフェンホルミンを輸送する輸送担体の阻害剤についての検討を行ってきた。続いて、これら阻害剤による血中濃度への影響および肝細胞への取り込みに対する影響を検討する。これらの結果より、フェンホルミンの血中濃度および肝臓中取り込みに影響せずに、ミトコンドリア内取り込みだけに影響を与える阻害剤を探索する。この阻害剤を併用したときの、ラットにおけるフェンホルミンによる血中乳酸値に対する影響を検討することによって、その毒性と血中濃度、肝臓中濃度およびミトコンドリア内濃度の関係について、検討を行う。
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Research Products
(3 results)