2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23790174
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉門 崇 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70535096)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 薬物誘発性胆汁うっ滞 / トランスポーター / 胆汁形成 / 阻害剤 / 発現量の変動 |
Research Abstract |
本研究では、臨床において深刻な副作用となり得る薬物誘発性胆汁うっ滞の発症機構を解析することを目的とした。肝細胞毛細胆管膜に発現するMDR3およびBSEPは、リン脂質および胆汁酸の胆汁分泌を担うトランスポーターであり、遺伝的な機能欠損は重篤な遺伝性胆汁うっ滞の原因となることが知られる。従って、これらトランスポーターの薬剤による機能変動(輸送活性の阻害、発現量の低下等)は胆汁組成に異常をもたらし、薬物誘発性胆汁うっ滞の原因になると考えられる。平成23年度に実施した研究内容として、まずは臨床において胆汁うっ滞を誘発する重要な薬剤を見出すために、厚生労働省の薬物性肝障害マニュアルにおいて胆汁うっ滞型肝障害の報告数・比率を調査した。続いて、胆汁うっ滞型が多い薬剤をラットに投与し胆汁成分の変動を解析した。結果として、複数の薬剤において胆汁成分の変動が見られたが、特に抗血小板薬チクロピジンを投与した際にラット胆汁中へのリン脂質分泌が著しく低下し、同時にグルタチオンおよびグルタチオン抱合型チクロピジン代謝物の胆汁分泌は大きく増加していることを見出した。一方、MRP2欠損ラットではチクロピジン投与後でも胆汁成分の変動が見られなかったことから、チクロピジン誘発胆汁うっ滞におけるMRP2の関与が示唆された。さらに、トランスポーター発現系を用いた解析等を行うことによって、チクロピジン投与による胆汁中リン脂質の低下はMDR3の直接阻害によるものではなく、MRP2を介したグルタチオン抱合型チクロピジン代謝物の胆汁排泄によって胆汁ミセル形成のバランスが崩れ、間接的にリン脂質の分泌が低下したことが考えられた。このようなメカニズムの提唱により、多岐にわたる胆汁うっ滞の発症機構の理解をまた一つ進め、臨床における診断・治療の可能性を示唆した点で大きな意義があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は、in vivoで胆汁組成に変動する薬物を複数見出すとともに、in vitroでトランスポーター(MDR3、BSEP、MRP2等)に対する阻害・亢進作用の検討を進めたことから、これらは23年度交付申請書の目的として記載した内容と合致している。また、トランスポーターに対して直接的な阻害作用を示す薬物に加えて、胆汁組成のバランスを崩すことによって間接的な作用を示す薬物(チクロピジン等)を見出した点でも、胆汁うっ滞メカニズムの総合的な解析という本申請研究の目的を少なくとも一部達成しており、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度には、トランスポーターに対する薬剤の直接的な阻害作用および胆汁組成バランスの変動による間接的な作用を、ラットを用いたin vivo実験とトランスポーター発現細胞を用いたin vitro実験をもとにして解析した。24年度はさらに多くの薬剤について同様の検討を進める一方、薬剤によるトランスポーターの発現量変動や局在変動、さらには毛細胆管膜の非特異的な障害といった胆汁うっ滞のメカニズムをも明らかとするための研究を行う。具体的には、薬剤投与ラットの肝臓におけるトランスポーター(MDR3, BSEP等)のmRNA・蛋白質を定量するとともに、免疫組織染色と共焦点顕微鏡を用いた局在の観察を行う。また、肝細胞の分化が維持されているサンドイッチ培養肝細胞を用いることによって、生体に近いと考えられるin vitro実験系を構築し、薬剤による発現量・局在・輸送活性の変動を解析する研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記した研究の推進方策に則した研究費の使用を計画している。具体的には、ラットの購入・飼育費用、トランスポーター発現系の使用維持費用、一般試薬(薬剤含む)の購入費用、アイソトープを用いた輸送実験の費用等が大きな割合を占める。また、23年度収支状況報告書において次年度使用額が存在するが、肝臓にきわめて近い条件で胆汁うっ滞メカニズムを明らかとするための「サンドイッチ培養肝細胞」の導入を23年度に行わず、24年度初めに予定を変更したことが主要な理由である。サンドイッチ培養肝細胞はコストが高めであることから、24年度に導入後集中的に実験を行い、トランスポーターの発現量および局在の変動まで含めた解析を実施する計画である。さらに、これらの研究成果を発表するために、国内・海外の学会参加や論文投稿にも研究費を使用する。
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Research Products
(1 results)