2011 Fiscal Year Research-status Report
下垂体前葉細胞を用いた3次元培養法の開発とその応用
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23790233
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
塚田 岳大 自治医科大学, 医学部, 助教 (50596210)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 下垂体前葉 / 3次元培養 / 濾胞星状細胞 / 細胞外マトリックス / 周皮細胞 |
Research Abstract |
本研究は、下垂体前葉細胞を用いた3次元培養法の確立とその培養法を用いた下垂体前葉細胞の機能解析の2つを目的としている。3次元培養法は、より生体に近い条件で細胞を培養することができるため、これまで主流であった2次元培養法ではわからない生命現象を捉えることができると考えている。平成23年度前期は、3次元培養法の条件設定を行った。まず、細胞数、培養日数、培養液量など基礎的な培養条件を検討し、次に培養後に行う固定法・染色法などの最適条件を調べた。3次元培養中では、バラバラになっている下垂体前葉細胞同士が徐々に集まり、培養5日目で一つの細胞塊を形成した。また、細胞塊中の形態を調べてみたところ、1)発達した仮足を持つ濾胞星状(FS)細胞、2)黄体形成ホルモン産生細胞を取り囲んでいるFS細胞、3)コラーゲンやラミニンなどの細胞外マトリックスの蓄積、などが確認された。これらは、生体内で見られる形態と非常によく類似しており、本研究で確立した3次元培養が下垂体前葉の組織構築を調べる上で有効なツールであることが示された。平成23年度後半は、その条件をもとにFS細胞の機能解析を行った。この実験には、S100b-GFP遺伝子組換えラットを用いた。このラットはFS細胞にGFPが発現するため、FS細胞を他種の下垂体前葉細胞から蛍光標識細胞分取法で分離することができる。下垂体前葉細胞からFS細胞のみを取り除いて細胞培養すると、毛細血管を構成する周皮細胞の細胞活性が著しく減少することがわかった。これまで、FS細胞は毛細血管に仮足を伸ばすことが知られていたが、毛細血管を構成する細胞との機能的なinteractionは明らかではなかった。本研究で、FS細胞が下垂体前葉内の血管の恒常性に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に計画していた研究は、1)下垂体前葉細胞を用いた3次元培養法の条件設定、2)濾胞星状細胞を介した細胞外マトリックスの合成・分泌調節メカニズムの解明、である。計画1は、本研究を遂行する上で必須の条件である。培養条件や解析条件の設定はすでに終了し、3次元培養法を用いて継続的に安定した実験結果が得られている。これらの方法論については、国際シンポジウム(インドネシア、2011年6月)、第26回日本下垂体研究会(岡山、2011年8月)、 第14回下垂体形態学ミーティング(山梨、2012年3月)で発表済みである。計画2については、数ある細胞外マトリックスの中でも下垂体前葉で発現する主な線維性成分であるI型、III型コラーゲンの合成・分泌調節に着目した。3次元培養中では、コラーゲンの合成・分泌が盛んに行われているが、FS細胞を取り除いた培養では、コラーゲンの細胞外蓄積がみられないことから、そのメカニズムについて、免疫組織化学的、分子生物学的に解析した。その結果、FS細胞がコラーゲンを産生する周皮細胞の活性を抑え、細胞外へのコラーゲンの蓄積を著しく減少させていることがわかった。この研究結果については、第36回日本比較内分泌学会(東京、2011年11月)、 第117回日本解剖学会(山梨、2012年3月)で発表済みである。現在、投稿にむけ準備をしている。今現在、研究計画書の計画通りに研究が進んでおり、大幅な遅れや実験計画の変更はない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、FS細胞が下垂体前葉でコラーゲン産生に重要であることを明らかにしてきた。平成24年度は、同様に、3次元培養を用いて基底膜を構成するラミニンとFS細胞の関係を調べていく。基底膜は、主に血管の周囲に存在する細胞外マトリックスで、下垂体前葉の構造維持に重要な役割を担っている。また、ラミニンはFS細胞の分裂や形態維持にも重要であることが本研究室の研究で明らかになっている。予備実験の結果から、FS細胞を取り除いて下垂体前葉細胞を培養すると、ラミニンの細胞外蓄積がなくなり、代わりにラミニン陽性反応をもつ細胞が出現してくることがわかった。また、このラミニン陽性細胞の数はFS細胞の数を増やして培養すると減少していくことも明らかとなった。このことから、FS細胞がラミニンの分泌に深く関与している可能性が示唆された。本年度は、このラミニンの分泌調節機構を調べる。ラミニンは3種類のサブタイプから構成されるヘテロ3量体であり、現在19種類ものラミニンisoformが見つかっている。まず、下垂体前葉で発現しているラミニンisoformをRT-PCRで同定する。そして、in situ hybridizationやラミニンサブタイプに特異的な抗体を用いて免疫染色を行い、ラミニン合成細胞を同定する。ラミニンの分泌機構に関しては、これまでの研究結果からFS細胞から分泌される液性因子が関与していると推測している。本研究室で立ち上げたFS細胞のmicroarrayのデータから、ラミニン分泌を促進する液性因子の候補を挙げて、3次元培養を用いて、ラミニンの分泌調節因子を同定していく。最後に、3次元培養を使った実験結果をまとめ、国際学会で発表を行うことを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度同様に、実験動物の購入、維持、また、3次元培養に用いる培養液、試薬、培養ディッシュなどの消耗品の購入のために研究費を使用する。その他、in situ bybridizationやreal-time PCRなど分子生物学的手法を用いるため、それらに必要な試薬(vector, ligase, polymerase,RNA・DNA抽出キット)も購入予定である。ラミニンisoformや合成細胞が同定されれば、そのラミニンサブタイプをターゲットにRNA干渉を行いラミニンの作用を調べていく。これらに必要な試薬(siRNA合成キット含む)も購入予定である。また、ラミニンの分泌を促進する液性因子をFS細胞から同定するため、候補因子の合成ペプチド、合成タンパク、抗体などの購入に研究費を充てる。この実験で得られた研究結果は、国内、国外での学会で発表を行うため、旅費、論文掲載費、別刷り費にも研究費を使用する予定である。
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