2012 Fiscal Year Research-status Report
下垂体前葉細胞を用いた3次元培養法の開発とその応用
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23790233
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
塚田 岳大 自治医科大学, 医学部, 助教 (50596210)
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Keywords | 下垂体前葉 / 3次元培養 / 濾胞星状細胞 / 細胞外マトリックス / 周皮細胞 / ゴナドトロフ |
Research Abstract |
本研究は、下垂体前葉細胞を用いた3次元培養法の確立とその培養法を用いた下垂体前葉細胞の機能解析の2つを目的としている。3次元培養法は、より生体に近い条件で細胞を培養することができるため、これまで主流であった2次元培養法ではわからない生命現象を捉えることができると考えている。 平成24年度前期は、平成23年度に行った3次元培養法の基礎的なデータをまとめ、国際誌へ投稿した。しかし、雑誌編集長から3次元培養の方法論についていくつか検証(追加実験)するよう指摘があった。そのため、平成24年度に予定していたRNA干渉、阻害剤を用いた濾胞星状(FS)細胞の機能阻害実験の一部を延期し、3次元培養法の検証実験を行った(研究の一部延期に関しては、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業期間延長承認申請書を提出し、受理されている)。現在は、検証も終わり、3次元培養の方法論の論文をまとめている。 平成24年度後半は、3次元培養を用いてFS細胞の機能解析を行った。この実験には、S100b-GFP遺伝子組換えラットを用いた。このラットはFS細胞にGFPが発現するため、FS細胞を他種の下垂体前葉細胞から蛍光標識細胞分取法で分離することができる。下垂体前葉細胞からFS細胞のみを取り除いて細胞培養すると、コラーゲン合成や基底膜の主成分であるラミニンの放出が著しく減少することがわかった。 これまで、FS細胞は基底膜を含む細胞外マトリックスに仮足を伸ばし、足場として利用していることが知られていたが、FS細胞が下垂体前葉内の細胞外マトリックスの合成や放出に関与しているという報告は本研究が初めてである。現在、方法論の論文と同時並行して、FS細胞のコラーゲン調節に関するデータもまとめており、論文を作成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に計画していた研究は、1)下垂体前葉細胞を用いた3次元培養法の方法論の論文作製と受理、2)濾胞星状細胞を介した細胞外マトリックスの合成・分泌調節メカニズムの解明、である。計画1は、計画2を遂行する上で必須の条件である。上述したように、計画1に関しては、雑誌編集長からいくつかデータの検証を求められたため、予定していた実験を延長し追加実験を行った。現在は、検証も終わり、3次元培養の方法論の論文をまとめているが、目標であった平成24年度中の論文受理は達成できなかった。 計画2については、数ある細胞外マトリックスの中でも下垂体前葉で発現する主な線維性成分であるコラーゲンと基底膜成分であるラミニンの合成・分泌調節に着目した。コラーゲン調節においては、下垂体前葉細胞からFS細胞のみを取り除いて細胞培養すると、コラーゲン合成細胞である周皮細胞(毛細血管を構成する細胞)の細胞活性が著しく減少することがわかった。いっぽう、ラミニン調節に関しては、FS細胞を取り除いて下垂体前葉細胞を培養すると、ラミニンの細胞外蓄積がなくなり、代わりにラミニン陽性反応をもつ細胞が出現してくることがわかった。また、このラミニン陽性細胞がゴナドトロフであることがわかり、FS細胞がホルモン産生細胞とinteractionしていることも明らかとなった。この研究結果については、第27回日本下垂体研究会(山形、2012年8月)、 第37回日本比較内分泌学会(福井、2012年11月)、第118回日本解剖学会(高知、2013年3月)で発表済みである。現在、投稿にむけ準備をしており、大幅な遅れや実験計画の変更はない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、FS細胞が下垂体前葉でコラーゲン産生やラミニンの放出に重要であることを明らかにしてきた。また、FS細胞が細胞外マトリックスを分泌する周皮細胞、ゴナドトロフと機能的なinteractionをすることを初めて明らかにした。平成25年度は、平成23-24年度で得られたすべてのデータをまとめて、論文作成、受理を目標にする。また、同時に、FS細胞が周皮細胞やゴナドトロフの活性をどのように調節しているのか?その詳しい分子メカニズムを解明する。 これまでの結果から、FS細胞を取り除いて下垂体前葉細胞を培養すると、コラーゲン産生のみでなく、周皮細胞のマーカーであるデスミン(中間径フィラメント)、regulator of G-protein signaling 5 (RGS5:Gタンパク調節因子)の発現も減少することがわかっている。このことから、FS細胞が周皮細胞の細胞活性全体に影響を及ぼし、さらには周皮細胞の生存に重要であることが示唆された。これまで周皮細胞の生存に必須の因子は見つかっておらず、因子の同定は下垂体研究だけでなく、心臓血管系の分野においても大きなインパクトを与える。25年度は、その因子の同定を行う。 いっぽう、ラミニンにおいては、FS細胞がないと、ホルモン産生細胞であるゴナドトロフからのラミニン放出が行われなくなることがわかっている。FS細胞の培養液を添加するとラミニンが放出されることから、FS細胞から分泌される液性因子がゴナドトロフからのラミニン放出に重要であることが示唆された。平成25年度は、このラミニン放出に関わる液性因子の同定を行う。 また、2013年6月にサンフランシスコで行われる国際内分泌学会への参加を予定しており、3次元培養を使った実験結果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業期間延長承認申請書に記載しているが、平成25年度は、論文掲載費(別刷り費含む)とFS細胞から分泌される細胞外マトリックス調節因子の同定を行う。論文掲載に関しては、2本の論文を予定しており、別刷り費も計上している。研究費に関しては、実験動物の購入、維持、また、3次元培養に用いる培養液、試薬、培養ディッシュなどの消耗品の購入、siRNA、in situ hybridizationを含めた分子生物学関連の試薬である。
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