2011 Fiscal Year Annual Research Report
脱アセチル化酵素SIRT3の初期胚発生における役割と病態との関連
Project/Area Number |
23790243
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河村 悠美子 東京大学, 大学院・医学系研究科, 特任研究員 (70599779)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2012-03-31
|
Keywords | Sirtuin / 初期胚発生 / ミトコンドリア / 代謝 / 酸化ストレス |
Research Abstract |
生殖補助医療において、体外受精における細胞外環境はエネルギー代謝の変化やストレス応答を介してその成功率に影響を与える大きな要因となるが、その細胞内規定因子や分子機序は十分明らかにされてない。我々はこれまで、体外受精後の初期胚において、ミトコンドリアに局在するNAD依存性脱アセチル化酵素Sirt3の機能低下がミトコンドリアにおける活性酸素産生の亢進を介してp53依存性な胚発生停止を引き起こすことを明らかにしてきた。この結果を踏まえ本研究ではSirt3の発現や機能に及ぼす母体側の要因を解析するとともに、初期胚発生期のSirt3機能低下がその後の発生や出生後の病態形成にどのような影響を及ぼすかを検討し、以下の結果を得た。 1.生後7週齢と50週齢マウスの卵や初期胚、卵巣について解析した結果、母体の加齢に伴い卵巣におけるSirt3の発現量低下、過排卵処理後の排卵数減少、排卵された卵子におけるSirt3の発現量減少、それら老化卵子の体外受精-体外培養後の胚盤胞までの発生率低下などの変化が見いだされた。また、加齢マウス卵のモデルとして用いた排卵後老化卵は、体外培養時の好気的環境に感受性が高いが、Sirt3 mRNAの顕微注入によりその改善傾向が認められた。現在、生殖系列細胞特異的Sirt3過剰発現マウスの作成を進めており、卵子の加齢変化を中心に検討する予定である。 2.初期胚におけるSirt3の不活性化は着床後の発生にも影響を及ぼし、胚発生率を低下させることが、胚盤胞の偽妊娠マウス卵管移植により明らかになった。癌抑制遺伝子p53が胚発生停止に関与することがp53とSirt3のダブル欠損マウスによって明らかになったが、このマウスはp53単独欠損マウスに比べて病態形成率に負の影響が認められた。現在、p53とSirt3をつなぐ分子機序について解明を行っている。 本研究は、初期胚についての理解を深めるという生物学的な意義があるとともに、不妊との関連が指摘される母体の加齢などの要因を克服しつつ、効率よく安全な生殖補助医療への応用が期待される点で臨床的にも社会的にも重要な意味を持つであろうと考えられる。
|