2011 Fiscal Year Research-status Report
高血圧発症機序を交感神経活動の超慢性記録によって解明する。
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23790285
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
吉本 光佐 独立行政法人国立循環器病研究センター, 心臓生理機能部, 研究員 (20418784)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 交感神経 / 腎交感神経活動 / 腰部交感神経 / ラット / 高血圧 / 動脈圧 / 神経性動脈圧調節 |
Research Abstract |
高血圧症は、先進国の成人人口の約25%に発症し、わが国でも最も患者数の多い疾患の一つである。その要因は様々であるが、"交感神経活動の亢進"もその主要因と考えられている。しかし、高血圧発症時の交感神経活動の変化を実測した報告は無く、高血圧発症に関与する交感神経活動の役割は不明な点が多い。本研究では、無麻酔、無拘束ラットの動脈圧と交感神経活動を、同時に1ヶ月連続して計測し、正常血圧から血圧上昇時及び高血圧時に交感神経活動が血圧調節にどのような影響を及ぼすかを解明する。23年度はダール食塩感受性高血圧ラットモデルを用いて、Dahl食塩感受性高血圧ラット(DS)と食塩耐性性ラット(DR)の比較を行った。【方法】DS及びDRラットに腎及び腰部交感神経活動測定用電極、動脈圧測定用テレメーターの慢性留置手術を行い、術後7日間の術後回復を待ち実験を開始した。実験は、コントロール期3日間(標準食)、8%食塩食負荷期を14日間、標準食に戻したリカバー期7日間の合計24日間行った。実験期間中は1日1回明期に行動観察を行った。【結果】DS群の動脈圧は食塩負荷開始後3日間急激に上昇し、その後も緩やかに上昇を続けた。動脈圧上昇には、日内差の増加と行動観察時の行動別基礎レベルの上昇がみられた。DR群の動脈圧は食塩負荷開始3日間上昇し、その後は一定値を保った。腎及び腰部交感神経活動は、両群ともに食塩負荷による動脈圧上昇時に増加しなかった。しかし、DS群の腎交感神経はリカバー期において有意に上昇した。 これらの結果から、食塩負荷時のDS群の高血圧発症初期において腎及び腰部交感神経活動は、血圧上昇に主要な役割を果たしていないと考えられる。また回復期の感受性群の腎交感神経活動が有意に増加しており、DS群は食塩摂取量が低下した際に腎交感神経活動が過剰に反応するという特徴を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、高血圧発症の神経性機序を解明するために、高血圧発症モデルとしてDahl食塩感受性高血圧ラット(DS)と自然発症高血圧ラット(SHR:Spontaneous Hypertensive Rat)を用いて、高血圧発症時の交感神経活動が動脈圧調節に果たす役割について検討する。<平成23年度の計画> Dahl食塩感受性高血圧ラット(DS)と食塩耐性性ラット(DR)の比較<平成24年度の計画> 23年度と同様に24年度前半は、上述のDS及びDRラットの測定を引き続き行い、24年度後半からは自然発症高血圧ラット(SHR)の測定を開始する。<平成25年度の計画> 24年度と同様に、引き続きSHR及びWKYラットの測定を行い終了させる。引動脈圧と交感神 経活動の動向と交感神経活動と血流量及び血液成分の検討を行う。そして、さらなる解析として、交感神経活動測定データの周波数解析を行う。さらに、異なった高血圧発症モデルであるDSとSHRラット間との比較を行う。 H23年度の計画は上述の様であり、DS、DRラットがこれまで使用していたWistar系ラットに比べ麻酔深度のコントロールが難しく、何度か麻酔後に呼吸停止を起こす事故があったが、対策を講じて、DSおよびDRラット共に動脈圧と交感神経活動の同時に測定に成功し目標通りに達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目であるH25年度の最大の目標は、高血圧ラットモデルである自然発症高血圧ラット(SHR)の測定を軌道に乗せる事である。SHRは、若年(4,5週齢ごろ)から動脈圧が上昇する事が知られている。動脈圧が上昇し始める高血圧移行期からプラトーに達した高血圧時までの交感神経活動と動脈圧の測定が出来るよう、何週齢のラットを使用するかを決定する必要がある。また、これまでのラットより小さい若年ラットに慢性埋込み手術を行うため、新たに電極やテレメトリーのサイズの検討が必要となる。 SHRに適した実験装備の検討の後、SHRの高血圧移行時に、交換神経活動が動脈圧上昇に果たす役割を交換神経活動と動脈圧の同時超慢性記録によって検討する。実際には、ラットに交感神経活動測定用の電極、血流量測定の為のプローブおよび血圧測定用のテレメトリーを手術によって慢性留置する。十分な術後回復の後、自由行動下のラットで各パラメータの同時測定を開始する。血圧上昇時及び高血圧時の動脈圧と交感神経活動を同時に1ヶ月間連続して測定する。実験終了後、交感神経活動の周波数解析を行う。これら交感神経活動と動脈圧の実測データ、交感神経活動の周波数解析データを用いて、高血圧と交感神経活動の因果関係を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度では、初年度のDahl食塩感受性高血圧ラットに続き、疾患モデル動物であるSHRを使用する。疾患モデル動物は、普通の実験動物に比べかなり高価であり、SHRとその対照群であるWistar Kyoto併せ動物代として約20万円(約40匹)必要である。 また、1ヶ月にわたる動脈圧測定に欠かせない血圧測定用テレメトリー送信機再生費(電池、カテーテルパッケージ交換)に40万円(5台)必要である。 昨年の残額は、3年目に主となる交感神経活動の周波数解析用のハード・ソフトの購入(現在、どれにするか検討中である)や、研究発表の場となる学会参加費(海外含む)、その他消耗品に使う予定である。
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