2011 Fiscal Year Research-status Report
心房特異的脂質結合蛋白質を介したカルシウムチャネルシグナロソームの制御
Project/Area Number |
23790305
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
中瀬古 寛子 東邦大学, 医学部, 助教 (80408773)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 心房細動 / イオンチャネル / L型カルシウムチャネル / リン脂質結合タンパク質 |
Research Abstract |
心臓のL型Ca2+チャネルは心拍調節及び心筋の興奮収縮連関において、主要な役割を担っている。本研究では心房特異的に発現するリン脂質結合タンパク質STARD10がL型Ca2+チャネルCaV1.2に結合することに着目し、STARD10を欠失させた(KO)マウスと野生型(WT)を比較検討して、心房特異的なL型Ca2+チャネルの調節機構の解明を目的とした。その結果、KO由来心房筋細胞のCaV1.2由来L型Ca2+電流は細胞内にキレートを還流してチャネルのCa2+依存性不活性化を抑制するとWTの約1.4倍に増加するが、生理的なCa2+動態の存在下ではKOの電流密度はWTと同等まで減少し、且つ不活性化の開始時間の短縮はKOでより顕著であった。一方WTの心房筋細胞ではキレートの強弱による電流密度の差は観察されなかった。よってSTARD10の欠失はCaV1.2チャネルのCa2+依存性不活性化を増強したと考えられる。またKOの心房筋細胞では細胞内Ca2+トランジエントの減衰時間の延長と、トランジエントの頻度が増加する傾向が観察された。摘出心房筋の拍動数はWT<KOで、収縮張力はKO<WTとなったが、酸素消費量の指標であるdouble productに差がなかった。以上より、KOではCaV1.2チャネルのCa2+依存性不活性化の増強及びCa2+トランジエントの増加にため、ペースメーカー電位の活動電位幅短縮と頻度上昇により拍動数が増加したと示唆された。次に収縮張力低下はマウス心筋におけるnegative staircaseによると考えられた。酸素消費量に差は無いので、ATPの産生はほぼ同等であると考察され、KOのCa2+トランジエントの延長はATP濃度の減少によらないと考察した。以上よりSTARD10はL型Ca2+チャネルを中心とした心房のCa2+動態の調節に関与していることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は生理学的解析1)急性単離心房筋・心室筋細胞の電気生理学的解析、2)単離心房筋の拍動と収縮張力の解析、3)細胞内Ca2+動態の解析を優先して行った。その結果、心房筋におけるリン脂質結合タンパク質STARD10はL型Ca2+チャネルCaV1.2の細胞内C末端に結合することによって、Ca2+依存性の不活性化を抑制することが明らかになった。KOマウスの心房筋細胞では、心室筋と同様に細胞内を強くキレートすると電流密度が増大し、生理的な細胞内Ca2+濃度や収縮の存在下では電流密度が減少することを明らかにした。またWTマウスの単離心房筋は伸展刺激に対し、収縮張力の増大と拍動数の低下が見られるのに対し、KOマウスでは拍動数の上昇が優位に大きく、収縮張力が低く保たれ、伸展刺激に対する反応性の違いが明らかになった。これらの結果よりSTARD10はL型Ca2+チャネルCaV1.2の調節を介し、洞房結節の拍動数調節に関与していることが明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に生理学的解析を優先し、生化学的解析は平成24年度に繰越した。平成23年度に得られた結果を基に、電気生理学的解析の継続として1)外部からの伸展に対する単離心房筋の収縮張力と拍動数の変化がWTとKOマウス間で異なることと、単離心筋細胞のL型Ca2+チャネルのチャネル動態の変化へどのように結びつくか明らかにするため、単離心筋細胞(洞房結節と心房筋)を用いた活動電位の測定を35~37度で行なう。細胞内Ca2+イメージング測定の継続として2)単離心筋細胞の細胞内Ca2+トランジエント変化の測定を継続する。また生化学的解析として3)STARD10は脂質結合タンパク質なので、その欠失によってカベオラの構造が変化するかを解析するため、ショ糖密度勾配法を用いた心房筋細胞のカベオラのサイズ及び構成タンパク質群の変化を解析する。また単離したカベオラのコレステロール含有量を測定し、カベオラの質的な変化がないか、解析する。細胞内のCa2+動態が変化することから、Ca2+動態を担うタンパク質群の解析(リン酸化・脱リン酸化)を進める。3)の結果より4)カベオラで共局在する分子間の距離を明らかにするため、Duolink in situ PLAキットを用いた免疫染色法で解析する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品購入費」平成23年度に生理学的解析を優先し、生化学的解析は平成24年度に繰り越したため、66万円の未使用額が生じた。また新たに1)の実験が必要となったため、電気生理学的解析で洞房結節及び心房筋細胞の活動電位を生理的な温度で測定するための、測定用のチャンバーを温度管理(35度~37度)するヒーターコントローラーと溶液のヒーター、ヒーター付きプラットフォーム(計84万円)の購入を行う。電気生理学的解析に用いるtetrodotoxin、塩類、受容体・イオンチャネル・細胞内シグナルのアゴニスト・アンタゴニスト、Western blotに使用する抗体と一般試薬、免疫染色に使用するDuolink in situ PLAキット、カベオラのcholesterol含有量測定のためのcholesterol/cholesteryl ester quantitation kit、マウスの維持費(施設利用費、ケージ代、餌代)に使用する。「旅費」日本生理学会、日本薬理学会の年会への発表参加、研究会参加費に使用予定である。
|
Research Products
(11 results)