2012 Fiscal Year Research-status Report
心房特異的脂質結合蛋白質を介したカルシウムチャネルシグナロソームの制御
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23790305
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
中瀬古 寛子 東邦大学, 医学部, 助教 (80408773)
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Keywords | 心房細動 / イオンチャネル / L型カルシウムチャネル / リン脂質結合タンパク質 |
Research Abstract |
心臓のL型Ca2+チャネルは心拍調整および心筋の興奮収縮連関において、主要な役割を担っている。リン脂質結合タンパク質StarD10は、心臓において心房に特異的に発現し、L型Ca2+チャネルCaV1.2に結合する。そこでStarD10を全身的に欠失させた(KO)マウスと野生型(WT)を用いて、マウスの心房筋のL型Ca2+チャネルの調節機構を比較検討した。 その結果、KOマウスの単離心房筋細胞では細胞内Ca2+イオンを100 nM未満に強くキレートすると電流密度がWTの約1.4倍増加したが、WTとKO間でタンパク質量及びmRNA量に差は見られなかった。むしろ生理的な細胞内Ca2+動態の存在下では、WTより電流密度が小さい傾向があった。WTでは細胞内Ca2+動態による変化は見られなかった。KOのCa2+依存性不活性化の増強は、筋小胞体からのCa2+放出によるpeak電流の有意な減少として観察された。 対照群として心室筋細胞では、L型Ca2+チャネル電流にWTとKO間で差は見られなかった。また、WTの心室筋細胞のL型Ca2+チャネル電流はキレート強度の強弱が電流密度の増減を引き起こすことが明らかになった。この時心室筋では、1)細胞膜表面のチャネル量はほぼ同程度であること、2)dynaminを介した調節機構が存在すること、3)PKAやcalcineurin, PKCの調節を介さないことが明らかになった。 以上よりKO心房筋細胞はより心室筋細胞に似たCa2+感受性を持つと考えられる。興味深いことに単離心房筋への伸展刺激の増加に対して、収縮頻度はWTでは一定であるのに対しKOでは増加した。心房細動の起因はL型Ca2+チャネルの電流密度の減少に加え、活動電位幅のばらつきが重要であると報告されている。KOでは伸展刺激の強弱によって容易に収縮頻度、ひいては活動電位幅が変化する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
心房筋細胞に並行して心室筋細胞を対照実験としての役割に留まらず、キレート剤による電流密度の調節機構について詳細に電気生理的解析に行うことによって、細胞内Ca2+動態によるL型Ca2+チャネル電流の電流密度の調節機構に違いがあることが新たに明らかになった。一方、心房筋細胞の生化学的解析がまだ不十分である。前実験ではショ糖密度法による分画によって、L型Ca2+チャネルの存在する分画がWTとKOで異なることが示唆されているが、結果にばらつきがあり、安定した結果を得るため細胞膜の抽出方法を改善する必要がある。KOマウスの単離心房筋における、伸展張力に対する収縮頻度の反応性の違いについては、洞房結節の電気生理学的解析で検討するために、温度コントローラーの購入と洞房結節細胞の単離条件の検討を行った。急性単離した洞房結節細胞でperforated patchによる活動電位の測定を行う初期のセットアップは行ったが、単離した細胞の膜が弱くて安定した実験を行うにはいまだ単離条件に改善の必要性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
単離心房筋に対する伸展刺激の増加によって、KOマウスで収縮頻度が増加する機構を明らかにするため、急性単離した洞房結節細胞とperforated patch法を用いて、生理的な条件での活動電位幅とL型Ca2+チャネル電流の解析を行う。L型Ca2+チャネル電流は洞房結節細胞においてペースメーカー電位(活動電位)幅と頻度を決定する主要な電流成分である。平成24年度に温度コントローラーの購入とセットアップ、perforated patchの試験的測定は行った。洞房結節細胞の単離は平成24年度にほぼできるようになったが、実験の安定性を向上させるため、細胞単離に用いるprotease, collagenase, elastaseの細胞膜に対するダメージを緩和する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に摘出心房筋標本を用い、StarD10ノックアウト(KO)マウスの心房筋では伸展刺激に対する拍動数の増加が野生型に比べ優位に大きいことが確認された。主に電気生理学的に解析した単離心房筋細胞は収縮張力を担う細胞であり、拍動数の違いを探究するには単離洞房結節細胞の活動電位の測定およびイオンチャネル電流の電気生理学的な解析が必要となった。より生体に近い条件で測定を行うため、溶液を37度に保温できるシステムを購入したが、納品された装置の不具合による交換と装置の使用条件の確立で1ヶ月実験が遅延し、および洞房結節細胞の単離方法の確立が現在途上で、実験の遂行が遅延し、未使用額が生じた。 平成25年度に洞房結節細胞の単離方法を確立し、活動電位の測定およびイオンチャネル電流の電気生理学的解析を継続する。その成果を25年度の日本薬理学会年会および日本生理学会大会で発表を行う。未使用額はこれらの実験および発表の経費として充てる予定である。
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