2011 Fiscal Year Research-status Report
幹細胞性の維持におけるインターフェロンシグナル制御システムの意義
Project/Area Number |
23790326
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
佐藤 卓 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 特任助教 (40375259)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 幹細胞 / インターフェロン |
Research Abstract |
申請者は、これまでに、I型IFNシグナルを「負」に制御する転写因子である、「IRF2」を欠損するマウスにおいて、骨髄造血幹細胞数が著しく減少することを見いだし、これが、生理的に分泌されるI型IFNによる外的ストレスを適切に制御できないためであることを明らかにした(Nat. Med. 15:696 (2009))。本申請研究の大きな目標の一つは、造血幹細胞で観察された、このような異常が、皮膚(表皮)などの活発にターンオーバーする他の臓器の組織幹細胞でも同様に認められるかを検証することにある。そこで、本年度は、Irf2-/-マウスを題材に、IFNシグナル制御不全による表皮幹細胞の機能異常について検討を行った。そのために、まず表皮幹細胞サブセットを可視化及び、それらが生み出す細胞系譜をin vivoで追跡可能なレポーターマウスを導入し、交配によりIrf2-/-マウスを背景にした表皮幹細胞レポーターマウスを作製した(Irf2-/-; Lgr5-EGFP-Ires-CreERT2; Rosa26-LacZレポーターマウス、及びIrf2-/-; Lgr6-EGFP-Ires-CreERT2; Rosa26-LacZレポーターマウス)。これらのレポーターマウスを用いたいくつかの解析結果から、Irf2-/-マウスでは、生理的なI型IFNシグナルの制御不全によって表皮幹細胞に過剰な分化が起こり、その結果、表皮過形成が生じている可能性が考えられ、造血幹細胞同様、毛包幹細胞の維持においても、生理的IFNストレスを回避するシステムの必要性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Irf2-/-マウスを背景とする表皮幹細胞レポーターマウスの交配が比較的スムーズに進んだため、24年度の計画を前倒しし、同マウスの解析を中心に実験を行うこととなった。本申請研究の目的は、「IRF2を介したIFNシグナル制御がどのように幹細胞の機能維持に貢献しているかを明らかにする」ことである。この点において、今回作製、解析した表皮幹細胞レポーターマウスでは、表皮幹細胞と、それらの幹細胞が生み出す細胞系譜を組織上で可視化することが可能であり、幹細胞の挙動を視覚的に把握できることから、研究の目的を達成するためには、極めて有用なモデルである。また、同マウスでは、フローサイトメーターにより表皮幹細胞の頻度を定量的に解析することも可能である。このような利点から、表皮幹細胞レポーターマウスモデルを優先的に解析することとした。一方、23年度の計画では、SCL-CreERT : Rosa26- EYFPマウスを用いて造血幹細胞を組織学的に可視化する計画であったが、フローサイトメーター解析において、同マウスでは、幹細胞以外の細胞分画にもYFP陽性細胞が存在し、頻度の稀な造血幹細胞の挙動を組織上で観察するには適しないと考えた。しかしながら、運命追跡実験によって、長期的な幹細胞の機能維持を検討するには有用と考えられるので、引き続き、Irf2-/-マウスを背景とする表皮幹細胞レポーターマウスの作製を行っている。 以上、計画した実験系のうち確立できないものもあったが、本年度の研究では、(1)Irf2-/-マウスを背景とした表皮幹細胞レポーターマウスを作製し、(2)このマウスの解析から、表皮幹細胞の機能維持に、IRF2を介したIFNシグナル制御系の存在が重要であることを明らかにできた点で研究目的の達成度は高いと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
23年度の成果において、表皮幹細胞の長期維持には、IRF2を介した生理的IFNシグナルを制御するシステムが必須であることが判明したので、これを踏まえ、24年度は、(1)IFNシグナルの制御不全が、表皮幹細胞の過剰な分化を引き起こすことをより直接的に証明する。そのために、Irf2と同時にIFNシグナルを欠損したIrf2-/-Ifn-beta-/-マウスの表皮細胞を用いてコロニーアッセイを行い、この系にI型及びII型IFNを添加後、コロニー形成細胞の形態からそれらの分化の度合いを評価する。(Irf2-/-Ifn-beta-/-マウスでは、Irf2-/-マウスに見られた皮膚病変が無症状である。)(2)現在作製中のIrf2-floxマウスと表皮幹細胞レポーターマウスを交配することで表皮幹細胞特異的なIrf2欠損マウスを作製し、同様の表皮幹細胞の異常が認められるかを確認する。この結果から、表皮幹細胞の機能異常が幹細胞にintrinsicなIFNシグナル制御異常によるものかが明らかとなる。(4)Irf2-/-マウスの表皮幹細胞において観察された現象から考えれば、同マウスの造血幹細胞の機能異常も異所性の分化が要因であるかもしれない。そこで、23年度の研究実施計画に示すような、造血幹細胞ニッチとの相互作用に関わることが知られている細胞表面分子の発現をIrf2-/-マウスの造血幹細胞で確認するのみならず、Irf2-/-マウスを背景とした造血幹細胞レポーターマウス(SCL-CreERT : Rosa26- EYFPマウス)を作製し、フローサイトメーター解析から造血幹細胞が生み出す細胞系譜を日を追って追跡する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)マウス(2)試薬(自動磁気細胞分離装置用マイクロビーズ、細胞調製用試薬、組織染色用試薬など)(3)抗体(4)血清・培地(5)サイトカイン
|