2011 Fiscal Year Research-status Report
Wntシグナルによる空間的分枝管腔形成制御機構の解析
Project/Area Number |
23790333
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 真司 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 招へい研究員 (20572324)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 分枝管腔形成 / 上皮 / Wnt / 極性 |
Research Abstract |
今年度はWnt・EGFシグナルによる空間的分枝管腔形態形成に関する解析を行い、以下の研究成果を得ている。(1)Wnt3aリガンドを三次元培養下において上皮細胞に対して局所的に作用させる実験系を確立した。Wnt3aは細胞外基質ゲルに対して高い親和性を有することを結合実験により明らかにした。そこで培地中にEGF存在下、Wnt3aを含まないゲル中に細胞を播種し、Wnt3aを含むゲルを空間的に隣接させて配置したところ、上皮細胞はWnt3aを含むゲルに向けて分枝形成した。またWnt3aを含むゲル中に移動する細胞は形態的に伸長し、アピカルマーカーが消失することから上皮の脱極性が認められた。一方、EGFはゲルとの親和性が低く、局所的な刺激を細胞に対して作用させることはできなかった。この結果から、Wnt3aと細胞外基質との親和性が方向性をもった形態形成に重要であることが示唆された。(2)Wnt3aとEGFの活性化バランスの重要性が明らかになった。EGFは低濃度ではゲル中で上皮の形態変化を誘導できないが、高濃度で作用させると上皮細胞に対して過度な増殖、運動亢進を誘導し、管腔形態を形成できなかった。一方、Wnt3aの刺激はEGFが低濃度の条件下で上皮細胞の管腔形成を効率よく誘導した。(3)Wnt3aとEGFシグナルがEMT(上皮間葉転換)に与える影響が明らかになった。EGFは単独の刺激で上皮細胞のE-cadherinの発現を50%程度抑制し、EMTを誘導したがこの条件では分枝形成は認められなかった。EGFとWnt3aを組み合わせて作用させると劇的な分枝形成を認めるが、E-cadherinの発現はEGF単独と比べて大きな変化は認められなかった。Wnt3aはEMTとは異なる機構で上皮細胞の形態変化を誘導する可能性が示唆された。これらの結果から、Wntシグナルによる空間的分枝管腔形成機構の一端が明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、Wnt蛋白質と細胞外基質蛋白質の相互作用に焦点をあてて、Wntシグナルによる上皮の空間的分枝管腔形成制御機構を明らかにすることを目的としている。現在までに三次元培養法を用いることで、Wnt3aが有する細胞外基質との親和性やEMT非依存的な細胞形態形成などの特徴的な性質がEGFとの協調により、空間的な分枝管腔形成を制御する上で重要であることを見出している。これらの結果から、補助事業期間内に細胞外基質蛋白質と複数の液性因子シグナルのクロストークによる新たな上皮の空間的分枝管腔形成制御機構を解明できると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果からWnt3aと細胞外基質(基底膜)蛋白質との結合の重要性が示唆されたため、細胞外基質蛋白質の中で特異的にWnt3aと結合する蛋白質を同定する。またEMT非依存的な細胞形態・運動制御のメカニズムを解明するためにマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現変動解析を行う。さらに当初計画した通り、別種のWntリガンドであるWnt5aがWnt3aとEGFによる分枝管腔形成に関与する機構を明らかにする。最終的には培養細胞を用いた三次元培養により明らかになった細胞外基質と液性因子シグナルの協調による分枝管腔形成機構がマウス胎児から摘出した唾液腺や肺等の器官培養系においても重要であるか否かを解析していく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費として一般試薬、培養用試薬・器具、ガラス器具等を購入するために1,150,000(円)、旅費として80,000(円)、その他として論文別刷、論文投稿費用で70,000(円)で計1,300,000(円)を使用する予定である。
|