2011 Fiscal Year Research-status Report
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23790335
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山崎 大輔 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (50422415)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | シグナル伝達 |
Research Abstract |
細胞辺縁部で観察されるシート状の膜突起構造はラメリポディアや膜ラッフルとよばれ、運動先端における進行方向の決定や運動の駆動力の発生、細胞間接着部位における接着構造の維持など様々な場面で利用されている。発生期における形態形成の過程では、膜突起構造の形成を介して細胞の移動や細胞間接着の構造が厳密に制御されており、その制御機構の破綻は癌の進行につながっている。例えば、ヒト癌細胞では膜突起の過剰に形成されることにより運動能が亢進することや、逆に突起が減少することにより細胞間接着構造が弱体化し浸潤性が増すことが報告されている。したがって膜突起構造の制御機構を解明することは正常組織における形態形成や癌の病態を理解するうえで非常に重要な課題である。周期性は何らかのシグナルの強弱が振動することにより生み出されている可能性があるが、最近膜突起の先端でRhoファミリー低分子量Gタンパク質のひとつRac1の活性が膜突起の動態に合わせて周期的に変化していることが報告された。Rac1は膜突起先端でのアクチン細胞骨格の再編成を制御しているので、その活性を調節すれば膜伸展を制御できると考えられる。そこで本研究ではRac1活性の振動による膜突起動態の周期性制御機構を検討した。シグナルの振動を制御するにはネガティブフィードバックが必要とされる。低分子量Gタンパク質の活性はそれぞれの分子に特異的なGEFおよびGAPによりそれぞれ正と負に調節されているが、申請者はRac1に対するGAP活性を持つsrGAP1の発現を抑制すると伸展と停滞の周期が変化し膜の伸展時間が延長されることを見出した。そこでRac1とsrGAP1がネガティブフィードバックループを形成する可能性を検討するため、Rac1によるsrGAP1のGAP活性調節機構を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は膜突起形成時にsrGAP1のGAP活性を調節する分子機構の同定することを予定していた。具体的にはsrGAP1が持つGAP活性の調節は、1)分子内もしくは分子間の相互作用と2)膜突起構造への局在の二つのレベルで制御されている可能性の二つを検討した。srGAP1はN末端側からF-BAR、FX、RhoGAP、SH3の四つの機能ドメインとC末端の機能未知の領域から構成されている。これらのドメインはそれぞれ異なる分子と相互作用するので、それらがGAP活性に及ぼす影響を検討した。その結果F-BARドメインとGAPドメインが直接結合していることを見出した。この分子内結合によりsrGAP1のGAP活性は負に制御されていると考えられる。またこの分子内結合は同時にF-BARドメインを介したsrGAP1の細胞膜へのリクルートも負に制御していることが明らかになった。このことからF-BARドメインとGAPドメインの分子内結合がsrGAP1のGAP活性を直接そして間接的に制御していることが明らかになった。そこで次にF-BARドメインとGAPドメインの分子内結合がどのような機構で制御されているのか調べるためにsrGAP1のSH3ドメインおよび機能未知のC末端領域の役割を検討した。SH3ドメインおよびC末端領域はsrGAP1のRac1依存的な細胞膜への移行に重要な役割を果たしていることが明らかになった。またSH3ドメインはC末端領域と直接結合すること、C末端領域はF-BARドメインと結合することが明らかになった。こうした各ドメインの間の結合によりsrGAP1の立体構造が変化することで、srGAP1のGAP活性および細胞膜への移行が制御されていると考えられる。このようにsrGAP1のGAP活性調節機構を明らかにするという当初の計画は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
哺乳類細胞ではRhoGEFおよびRhoGAPドメインをもつ分子がそれぞれ70以上見出されており、これは時と場合によってこれらの分子が使い分けられている可能性を示唆している。本研究ではRac1とRhoAのクロストークを担う分子およびRhoA活性の周期的な変化を制御する分子を同定するため以下の手順で探索実験を行う。RhoGEFおよびRhoGAPに対するsiRNAのライブラリーを用意し、RNA干渉法により発現を抑制したときに膜突起形成に影響を与える分子を同定する。次にそれらの分子の遺伝子を発現させた細胞におけるRac1およびRhoAの活性を測定することで、各分子のGEFおよびGAP活性の特異性を検討し、Rac1およびRhoAの活性を調節するものを同定する。さらに候補として残った分子はRhoAによりGEFおよびGAP活性が変化するか、組換えタンパク質を用いたin vitroの実験系で検討する。以上の解析により同定した分子がRac1活性の周期的な変化に関与しているのかどうか、その発現量を増減させたときにRac1活性を測定することで確認する。同時にそのときの膜突起動態を検討し、Rac1活性と膜突起動態の関係を検討する。またRNA干渉とレスキュー実験を組み合わせることでその分子の活性調節の詳細を検討する。遺伝子の異所発現およびRNA干渉法によりsrGAP1の発現量を増減させた細胞を用意し、膜突起形成時にRac1活性が変化する様子を、FRET法を利用してリアルタイムで観察する。また同時にそのときの膜突起の動態を観察しその周期性がどのように変化するか検討する。srGAP1が膜突起に与える影響がそのGAP活性によるものであるかどうか確かめるため、RNA干渉法によりsrGAP1の発現を抑制した細胞にGAP活性を消失させたsrGAP1を発現させ機能回復が認められるかどうかを確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画では日常的に細胞培養を行うため、培養に必要な培地、血清、培養皿、核酸導入試薬の購入費用を消耗品費として申請している。ライブイメージングにより高解像度の画像を取得するためには、ガラス底培養皿などの専用の培養器具が必要となるためその費用を消耗品費として申請している。本研究計画において中核となる探索実験には分子の探索を網羅的に行う必要があるためsiRNAライブラリーの購入費用を消耗品費として申請している。本研究計買うではsrGAP1のGAP活性の測定をin vitroの実験系で行うために組換えタンパク質の発現および精製を行う必要がある。タンパク質の発現は用途によって、大腸菌、バキュロウイルス、哺乳類細胞の発現系を使い分けるため、それぞれの培養に必要な培地や遺伝子導入に必要な試薬の購入にかかる費用を消耗品費として申請している。本研究計画で得られた成果を迅速に社会に還元するため、国内外の学会や査読のある雑誌での発表を計画しており、それにかかる必要最小限度の経費を申請している。
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