2011 Fiscal Year Research-status Report
PIP3ホスファターゼSKIPを標的とした生体内骨格筋量の増強
Project/Area Number |
23790336
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
伊集院 壮 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00361626)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | SKIP / 骨格筋 / インスリン様増殖因子 / タンパク質合成 |
Research Abstract |
骨格筋の運動能力の維持は、我々の歩行、摂食など日々の生活に不可欠である。また、運動能力の向上には、骨格筋量を増加させることが効果的である。反対に骨格筋量の顕著な減少は、筋萎縮症などの運動障害を引き起こす。インスリン様増殖因子(IGF)は骨格筋細胞でのタンパク質合成を促進し、骨格筋の成長を促す分子である。この現象はPI3キナーゼによるPIP3産生に依存している。SKIPはPIP3を脱リン酸化してインスリン作用を負に制御する酵素である。我々は骨格筋において、SKIPがIGFの作用をマイナスにコントロールすること、SKIPのヘテロノックアウトマウスで骨格筋量が増加していることを明らかにした。この結果はSKIPが実際に骨格筋量をコントロールしていることを示す結果である。また、同時にSKIPは骨格筋細胞の大きさとIGFの産生と細胞外への放出を抑制することを明らかにした。この結果はSKIPがIGFの産生を抑制することによって自分自身のタンパク質合成を抑え、その結果、細胞の大きさをコントロールしていることを示す新しい知見である。さらに、私はSKIPが他のPIP3脱リン酸化酵素と比較して、IGFシグナル伝達経路を効率的にコントロールすること、および、そのコントロールに関わる分子メカニズムを解明した。私は生理的と生化学的な観点の両方から、SKIPの骨格筋量の制御に関する新しい知見を得た結果、SKIPが実際に骨格筋量の制御因子であることと言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに私はSKIPの抑制が骨格筋細胞の面積を増加させることを明らかにし、その仕組みをほぼ解明した。これは本研究の最初の目的である、骨格筋量をコントロールするPIP3脱リン酸化酵素の同定を達成したことを表している。最終目的である、SKIPをターゲットとする化合物の開発に向けて、その分子機構を明らかにできたことは非常に大きい。これらの一部は既に学術論文に掲載され、残りの結果もすでに投稿中である。従って、現在までは計画通りに進捗していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
骨格筋の運動は、多くのタンパク質とエネルギーを消費する。従って、運動後、古くなったタンパク質をアミノ酸に分解し、新しいタンパク合成を行うための材料を供給する。骨格筋ではIGFが古いタンパク質や脂質をオートファゴソームで分解して、タンパク質の新生を促進していることが知られている。IGF依存的なオートファジー形成にはPIP3産生が必要であることが知られている。従ってSKIPはこの過程をコントロールしていると考えられる。今後はSKIPによる骨格筋における代謝の制御に着目して、SKIPによる骨格筋の運動能力の向上を分子レベルで解明する予定である。特にオートファジー形成とタンパク質分解に注目して実験を行う。さらに、本来の目的である骨格筋量の増強を促進できる薬剤の開発を目指す。具体的にはSKIPのPIP3脱リン酸化活性もしくはSKIPの発現量をコントロールできる,化合物もしくは核酸の開発を目的とする。まずはSKIPにおける15アミノ酸程度のターゲット部位を決定し、化合物ライブラリーを用いたスクリーニングに着手する。最終的には、実験動物における運動実験を行い、SKIPの抑制が運動能力の向上につながるかどうか検討を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は当初、生化学実験、細胞培養実験、実験動物を用いる実験を予定していたが、細胞培養実験のみでSKIPによって骨格筋細胞の大きさを制御する機構を明らかにすることができた。その結果、次年度使用額として1,293,079円が生じる結果となった。次年度の実験は当初予定していた生化学実験、細胞培養実験、実験動物に加えて、薬剤の開発に向けた3次元構造解析実験やメタボローム解析実験を新たに予定している。生化学実験では、SKIPの酵素活性および局在を規定するアミノ酸の同定を、酵素活性測定やタンパク質間の相互作用実験によって行う。このため、タンパク質の大量発現、精製を行うために試薬を購入する。細胞培養実験では、骨格筋細胞を培養し、SKIPの発現抑制によって、オートファジー形成およびタンパク質のアミノ酸への分解が亢進するかどうか検討を行う。このため、細胞への遺伝子導入、免疫染色、顕微鏡を用いた細胞形態の観察などの実験を行うための器具、試薬を購入する予定である。また、本研究の成果を外部に発信する段階にあり、論文投稿や学会発表に必要な印刷費、学会参加費、旅費などを本研究費から支出する予定である。最終的には実験動物を用いた研究を行うが、神戸大学医学部実験動物施設への飼育委託料と飼育維持に要する費用を本研究費から支出する。
|