2011 Fiscal Year Research-status Report
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23790352
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川野 光子 東北大学, 加齢医学研究所, 教育研究支援者 (90422203)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 遅延型過敏反応 / T細胞受容体レパトア |
Research Abstract |
金属アレルギーは年々増大の一途を辿っており、掌蹠膿疱症などの重篤な合併症を併発するケースも少なくない。医療技術の進歩により、生体材料としてステント、インプラントなどの埋入金属、補綴治療が多用されているが、アレルギーや炎症などの原因となった場合、簡単に取り外すことは出来ず、患者の時間的・身体的・経済的負担が大きい。また、金属アレルギーの発症機序は未だ不明であり、早急な対策が求められている。金属アレルギーの診断法は、パッチテストが広く用いられており、各金属に対する反応性の有無をダイレクトに捉えられるという利点がある一方、パッチテストにより新たな金属に対して感作が成立し発症する症例や、パッチテスト試薬の製造元により反応性が異なる場合もあることから、安全で確実な新規診断法の開発が求められている。そこで本研究では、金属アレルギーの予防および診断に関する理論的基盤の確立を目指し、金属アレルギーの原因となる抗原とT細胞受容体を明らかにすることを目的とする。本目的を達成するためには、金属アレルギーの発症機序を時系列を追って解析することが必要である。しかしながら、これまでモデル動物が存在せず、世界的にもヒト患者サンプルを用いたin vitro研究が主流であり、時系列的解析は不可能であった。申請者らは、独創的観点から金属アレルギー発症マウスモデルの開発に成功し、金属アレルギーの発症機序を時系列を追って解析することが可能となった。申請者は、金属アレルギーにより、T細胞レパトアに変化が見られること、マウスの系統により反応性が異なることなど、in vivo, in vitro, in silico において重要な知見を得ており、実験手法は既に確立している。本研究では、このマウスモデルを応用し、T細胞受容体の解析を行うと同時に抗原ペプチドの解析を進め、金属アレルギーの抗原提示の詳細を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パラジウム(Pd)を用いて金属アレルギーをマウス耳介に誘導した後、所属リンパ節の細胞を遺伝的背景が同じ免疫不全マウスに養子移入を繰り返すことで、Pdアレルギー特異的なT細胞を濃縮し、Pdアレルギーに特異的に関わるT細胞受容体レパトアの解析を行った。移入繰り返しマウスに金属アレルギーを誘導し、24時間目の所属リンパ節および耳介の両方からRNAを抽出し、各T細胞レパトアの発現量を定量することで、理論上5 x 100,000,000,000,000,000通りの多様性を持つT細胞を数種類にまで絞り込み、Vα鎖を決定した。さらに抗原ペプチドとの結合部位であり、最もvariableな配列を持つ領域であるCDR3領域のクローナリティを解析したところ、モノクローナルなT細胞受容体α鎖がPdアレルギーに関わる可能性を見出した。Pdアレルギー特異的T細胞受容体レパトアの情報をもとに、スーパーコンピューターを用いin silicoでT細胞受容体の3次元立体構造の解析を行った。結合エネルギーを指標に、より安定に免疫シナプスを形成するMHCについて計算を行い、候補のMHCを決定した。以上の研究結果は、本研究の研究目的である「Pdアレルギーに関わるT細胞受容体レパトアの決定」および「in silico解析を用いた抗原ペプチドの予測」に向けて大きく進展できているといえる。また申請者は現在、金属アレルギーを発症する際にMHCを介してT細胞に提示される抗原ペプチドの分画・精製を進めており、採取されたペプチド配列のうちin silico解析で予測されるアンカーペプチドと相同性の高いペプチドについてin vivoで評価を行うことで、金属アレルギー発症において未だ解明されていなかった「特異的T細胞は何か」「抗原は何か」に対する情報を得られると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
金属アレルギーの原因金属といわれるニッケル(Ni)についても、同様特異的T細胞の濃縮を行い、T細胞レパトア解析を行うとともに、スーパーコンピューターによるin silico解析でT細胞受容体の3次元立体構造を明らかにする。これにより金属種ごとに特異的に反応するT細胞をクローニングし、金属間での交差反応の有無について、in vivo(モデルマウスの系)およびin vitro(T細胞クローンの系)の両面から確認する。また、マウスの系統(特にMHCのハプロタイプの違い)により反応するT細胞レパトアが異なるかどうかを検討する。前年度の研究計画により特異的に反応するT細胞が同定され、各金属イオンが抗原となった際に抗原提示に関わるMHCのサブクラスが判明した。in silico解析でMHCに提示されるペプチド鎖の長さおよびアンカーアミノ酸が推測されていることから、前年度に引き続き金属アレルギーモデルマウスの所属リンパ節をソースとしてダイレクトに抗原ペプチドを捕える。抽出した各ペプチドサンプルおよび、前年度特定したアンカーアミノ酸をもとにしたペプチドライブラリーを用いて、T細胞クローンをマウス脾臓から得た抗原提示細胞と共培養し、各ペプチドサンプルを供した際のT細胞の活性化・増殖状態をフローサイトメトリーにより解析し、抗原能を評価する。in vivoおよびin vitroにて金属イオンとともに抗原能を有するペプチドサンプルについて、LC/MS/MSによりアミノ酸配列を決定する。以上により、金属アレルギーの原因となる抗原とT細胞受容体の両方を明らかにすることで、金属アレルギーの予防および診断に関する理論的基盤の確立にむけた研究を展開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の大半は、実験動物の購入および分子細胞生物学実験に関わる試薬および消耗品に充て、研究をさらに発展させる。また、関連学会における発表を通して情報交換することは、研究遂行の為に必要不可欠であるため、学会参加に関わる旅費としても使用予定である。
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