2011 Fiscal Year Research-status Report
NDRG2欠損マウスは全身性AKTリン酸化によりがんを含む各種成人病を引き起こす
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23790372
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
市川 朝永 宮崎大学, 医学部, 研究員 (80586230)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
NDRG2(N-myc downstream regulating gene 2)は多くの固形がんにおいて特異的発現低下が見られ、がん抑制遺伝子として知られる。我々は成人T細胞白血病や口腔がんの解析からNDRG2がPI3K/AKT情報伝達系の活性抑制に働くことを発見し、さらなる解析を進めるためにNDRG2 欠損マウスを作製した。ヘテロ同士を掛け合わせた結果、メンデルの法則に従い、野生型:ヘテロ:ホモが1:2:1で生まれた。組織からのタンパク質を使ったウエスタンブロットで、特に脳、心臓、肝臓でNDRG2の発現が高く、ホモ欠損マウスでは完全に発現が消失している一方で、AKTリン酸化が増加していた。NDRG2欠損マウスは短期間(~6ヶ月)では野生型に比べて明らかな外見的差異はみられなかった。さらに、長期間(6-24ヶ月)飼育すると、NDRG2欠損マウスでは生存率が低下した。死後解剖してみると肝臓、肺などの臓器に腫瘍が見られ、リンパ腫と思われる腫瘍も認められた。またNDRG2欠損マウスでは脂肪肝や心肥大を起こしていた。NDRG2はがん抑制遺伝子として働いている一方で、心疾患や循環器疾患の発症にも関与している可能性を示唆した。NDRG2はアルツハイマー病において高発現し、抗うつ薬イミプラミンにより脳内のNDRG2発現が低下することから、脳神経疾患に関与している可能性がある。そこでNDRG2欠損マウスおよびイミプラミン投与マウスを解析することでNDRG2の作用を検討した。情緒の状態を調べるために尾懸垂試験およびホールボードを用いた行動実験を行い、NDRG2欠損マウスで明らかに、情動行動の改善が認められた。さらに、野生型マウスにイミプラミンを投与すると脳内のNDRG2発現が低下し、AKT活性が亢進し、情動行動も改善した。このことから、NDRG2が情動行動を制御している可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NDRG2は、N-mycにより発現低下する遺伝子NDRG1ファミリーとして同定された遺伝子である。数多くの固形がんでプロモーターメチル化により発現低下し、各種がん細胞系でNDRG2過剰発現によりAKTリン酸化が抑制され、細胞増殖を押さえられた。構造的にはHydrolase様ドメイン構造を持つものの酵素学的活性は見つかっていない。正常組織では脳、心臓、肝臓などで高発現しており、特に脳ではアルツハイマー病に多く発現しており病態との関連性が示唆されている。さらに抗うつ薬イミプラミンが脳組織におけるNDRG2の発現を抑制し抗うつ効果を発揮することが知られている。虚血・再潅流傷害の動物実験でNDRG2の発現が低下し、またNDRG2のサブファミリーであるNDRG4の発現低下が心電図上でQT延長による心停止突然死の原因であると疑われており、心疾患に対する関連が示唆されている。このことから、NDRG2はがん抑制遺伝子として作用するだけでなく、脳/神経疾患や心血管病に対しても関連が示唆されている。また、低酸素、ストレスなどで発現が誘導されるストレス応答遺伝子である事も幾つか報告されている。我々は成人性T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma; ATLL)、口腔がん等固形腫瘍の統合的ゲノム解析を行ない、NDRG2発現が、網羅的遺伝子発現解析によりATLLで有意に減少していた。そこでNDRG2欠損マウスを作成したところ、NDRG2の発現低下に伴い、各臓器でAKTリン酸化が亢進していた。NDRG2欠損マウスの解析を行うと情動行動の改善、心血管疾患、さらにはがんを発症していた。NDRG2はがん抑制遺伝子として働いている一方で、情動行動や心血管疾患に対しても関与していることが明らかとした。
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Strategy for Future Research Activity |
NDRG2欠損マウスを長期間にわたって経過観察した結果、ホモおよびヘテロ欠損マウスで野生型マウスに比べて早期に死亡し、安楽死後臓器を確認したところ各種臓器で腫瘍形成および心肥大、脂肪肝が認められた。NDRG2欠損によるAKT活性上昇がメタボリックシンドロームおよび糖尿病、さらには心疾患を引き起こすかどうか検討を行う。N-エチル-N-ニトロソ尿素 (N-ethyl-N-nitrosourea:ENU)を単回腹腔内投与により、NDRG2欠損マウスと同じように情報伝達系PI3K/AKT経路の活性が増加するrasH2マウスにおいて肺、肝臓および胃で腫瘍が誘発されることが知られている。そこでNDRG2 欠損マウスにも同様の処理を行い、発がん機構を検討する。NDRG2はPI3K/AKT情報伝達系を調節するがん抑制遺伝子であることが示唆されるが、詳しい分子機構については不明な点が多い。AKT上流(PTEN,PI3K)、下流(FOXOs,GSK3beta,mTOR等)のシグナルやクロストークして作用するシグナル(IKK,MAPK等)についてさらに詳しく研究する。Mouse embryonic fibroblast (MEF)を作製し、また癌細胞株にNDRG2を過剰発現させることにより、NDRG2の機能の解析を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
動物実験を行うため、マウスの維持管理に費用を必要とする。さらに、マウス実験および細胞実験から得られた試料を解析するために、免疫染色、RT-PCR、ウエスタンブロット等に使用する抗体や酵素の購入のために費用が必要となる。
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