2011 Fiscal Year Research-status Report
大腸癌におけるがん抑制遺伝子CADM1によるSrc経路の抑制機構の解析
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23790391
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坪井 裕見 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (80584226)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 大腸癌 / CADM1 |
Research Abstract |
細胞接着分子CADM1は、がん抑制遺伝子としてがんの進展を抑制するのみならず、ATLの浸潤、精子形成や神経-マスト細胞接着を介するなど、多様な機能をもつ分子であるが、その生理的機能や下流分子経路については未だ解明されてはいない。申請者らは、CADM1と細胞膜上で複合体を形成するタンパク質を免疫沈降・質量分析法を用いて探索し、候補分子の一つとして細胞膜ラフトに局在するアダプター分子であるCbp/PAG1を見出した。Cbpは、細胞膜ラフトにc-SrcおよびCskをリクルートすることによりc-Srcの不活性化を促進し、c-Srcによる腫瘍形成を抑制することが報告されている。これまでに申請者らは、CADM1が細胞膜ラフトにおいてCbp及びc-Srcと複合体を形成することを見出している。そこで、CADM1がCbpとの複合体形成を介してc-Src経路を抑制するか否か、及びその分子機構の解明を目指した。 CADM1-Cbp-Src複合体形成の有無によりc-Srcの活性化が抑制されるか否かを明らかにするため、c-SrcのTyr残基のリン酸化を検討した。Control vector、Cbp及びCADM1を発現させた大腸癌細胞株HT29より細胞膜画分を調製して活性化c-Srcの指標であるTyr418残基のリン酸化を比較した結果、controlと比較してCbp・CADM1共発現細胞ではリン酸化レベルが低下していることが明らかとなった。また、ヌードマウスへの皮下移植実験の結果、Cbp発現細胞で腫瘍形成の抑制が観察され、Cbp・CADM1共発現細胞では抑制効果が増強されることが明らかとなった。以上の結果から、CADM1が細胞膜ラフトにおいてCbp及びc-Srcと複合体を形成することによりc-Srcの不活性化を促進し、c-Srcを介した腫瘍形成を抑制することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らは、CADM1と細胞膜上で複合体を形成する受容体分子や下流分子経路を明らかにするため、CADM1結合タンパク質を網羅的に探索した結果、細胞膜ラフトに局在しc-Srcによる腫瘍形成を抑制することでがん抑制タンパク質として機能することが報告されているCbp/PAG1を同定した。さらに、細胞膜ラフトにおいてCADM1、Cbp及びc-Srcが複合体を形成することを見出した。そこで、CADM1がCbpとの複合体形成を介してc-Src経路を抑制するか否か、及びその分子機構の解明を目指した。 まず申請者らは、CADM1がc-Src経路を抑制するか否かを明らかにするため、CADM1の発現の有無によりc-Src活性化及びc-Srcを介した腫瘍形成が抑制されるか否か、ヒト大腸癌細胞株を用いて検討した。その結果、CADM1・Cbp共発現細胞においてc-Src活性化の指標となるTyr418残基のリン酸化が低下していることが明らかとなった。また、ヌードマウスへの皮下移植実験の結果、Cbp・CADM1共発現細胞ではCbp発現細胞と比較して腫瘍形成の抑制効果が増強されることが明らかとなった。従って、CADM1の発現によりc-Srcの不活性化が促進され、c-Srcを介した腫瘍形成も抑制されることが示唆された。 これまでの研究により、CADM1の機能的な役割として、Cbp-Srcとの複合体形成を介してc-Src経路を抑制することを示唆する結果が得られた。今後は、CADM1がc-Src経路を抑制する分子機構を明らかにすることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果、CADM1が細胞膜ラフトにおいてCbp及びc-Srcと複合体を形成することによりc-Srcの不活性化を促進し、c-Srcを介した腫瘍形成を抑制することが示唆された。そこで、CADM1によるc-Src活性の抑制についてさらに検討するため、CADM1の発現によりc-Srcを介した細胞運動及び足場非依存性増殖能が抑制されるか否かを検討する。 CADM1によるc-Src経路抑制の分子機構としては、CADM1がCbp-Srcと複合体を形成することにより細胞膜ラフトにCADM1-Cbp-Src複合体が集積されるため、Cbpによるc-Srcの不活性化が促進されることが考えられた。そこで、CADM1の発現により細胞膜ラフトに局在するc-Srcの割合が増加するか否か、ショ糖密度勾配遠心法を用いて検討する。 一方、ショ糖密度勾配遠心法による分画の結果、Cbpは細胞膜ラフトにのみ局在するが、CADM1およびc-Srcはラフト画分・非ラフト画分の両方に局在が検出された。従って、非ラフト画分ではCADM1によるCbpを介さないc-Src抑制機構が存在することも考えられため、非ラフト画分におけるCADM1によるc-Src抑制機構について分子経路の検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
CADM1-Cbp-Src複合体形成の有無によりc-Srcの活性化が抑制されるか否かをさらに検討するため、Control vector、Cbp及びCADM1を発現させた大腸癌細胞株HT29を用いて創傷治癒アッセイ及びソフトアガーアッセイを行い、CADM1の発現により細胞運動及び足場非依存性増殖能が抑制されるか否かを検討する。 CADM1発現の有無により、細胞膜ラフトに局在するc-Srcの割合が変化するか否かを検討するため、Control vector、Cbp及びCADM1を発現させた大腸癌細胞株HT29を用いてショ糖密度勾配遠心を行い、ラフト画分及び非ラフト画分におけるc-Src局在の割合を比較する。また、Cbp-Srcと複合体を形成しないCADM1細胞内領域欠失変異体を用いて、ラフト画分に局在するc-Srcの割合を野生型CADM1と比較する。 さらに、非ラフト画分におけるCADM1によるc-Src抑制の分子経路を明らかにするため、CADM1の発現の有無によるc-Srcおよび下流分子の発現変化をマイクロアレイ解析により検討する。また、大腸癌の病理検体から組織標本を作製し、免疫染色法を用いて腫瘍・非腫瘍部位のCADM1、Cbp及びc-Srcの発現を比較・検討する。
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