2011 Fiscal Year Research-status Report
EMT誘導因子をターゲットとした腎細胞癌の分子標的治療
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23790417
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三上 修治 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (20338180)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 腎細胞癌 / 上皮ー間葉転換 / 浸潤 / 転移 / TNF |
Research Abstract |
目的:腎細胞癌は根治術後でも高率に再発し、有効な放射線治療、化学療法はない。近年、vascular endothelial growth factor (VEGF) シグナルを標的とした分子標的療法が導入され、一定の腫瘍縮小効果をあげているが、治療耐性となることが問題である。本研究では癌の浸潤・転移の重要なステップである上皮―間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)に着目した。腎細胞癌におけるEMTの分子機構を解明し、効果的な新規分子標的治療につながる知見を得ることが本研究の目的である。方法・結果:腎細胞癌由来の細胞株に各種EMT誘導因子を添加し、in vitroにおける遊走能、浸潤能の変化を指標にスクリーニングを行ったところ、TNF-αが腎細胞癌の主要なEMT誘導因子であることが判明した。腎細胞癌切除検体97例を対象にTNF-α発現を免疫組織学的に調べた結果、TNF-α発現は原発巣の進展度・遠隔転移・組織学的異型度と相関していた。TNF-α高発現例は低発現例に比べ、早期に再発し予後不良であった。近年EMTと癌幹細胞のシグナルには共通の部分があることがわかっているため、腎細胞癌由来細胞株にTNF-αを添加した際の癌幹細胞のマーカーであるCD24, CD44発現を調べた。その結果、TNF-α添加によりCD24発現が抑制され、CD44発現が誘導されることが明らかになった。考察:本研究によりTNF-αが腎細胞癌の主要なEMT誘導因子であることが明らかになった。さらにTNF-αは癌幹細胞マーカーであるCD44発現を誘導することが判明した。そのため、VEGFシグナルを標的とした分子標的治療に耐性を獲得した腎細胞癌症例に対してTNF-αシグナルの特異的な阻害剤の投与が効果的な新規分子標的治療につながる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画が下記の様に達成され、腎細胞癌において主要な役割を果たすEMT誘導因子がTNF-αであることが判明した。1.TNF-αが腎細胞癌のEMT誘導因子および予後因子である:腎細胞癌由来の細胞株である786-O, ACHN, Caki-1, Caki-2, SW839, KU20-01の培養系にEMT誘導因子であるTGF-β, TNF-α等の増殖因子を添加し、E-カドヘリン発現抑制、ビメンチン発現の亢進を指標に腎細胞癌由来細胞株にEMTを誘導する因子の特定を行った。その結果、腎細胞癌由来細胞株ACHN, 786-OではTNF-αがEMTを誘導する因子であり、in vitroでの遊走能・マトリゲル上での浸潤能を増加させることを確認した。なお、代表的なEMT誘導因子であるTGF-β添加では遊走能・浸潤能が増加しないことが判明した。そこで腎細胞癌切除検体97例におけるTNF-α発現を免疫組織学的に調べたところ、TNF-α高発現症例は、経過観察中に死亡しており、腎細胞癌の悪性度とTNF-α発現の相関が示唆された。2.TNF-αによるEMT関連転写因子、細胞外マトリックス分解酵素発現の誘導:上記1において腎細胞癌のEMTに関与していることが判明したEMT誘導因子であるTNF-αを腎細胞癌由来の細胞株の培養系に添加したところ、SnailやSlug発現が誘導されることが確認された。さらに代表的な細胞外マトリックス分解酵素であるMMP9発現およびヘパラナーゼ発現が亢進することがわかった。3.TNF-αは癌幹細胞マーカー発現を誘導する:TNF-αを添加するとCD24発現が抑制され、CD44発現が亢進した。即ち、TNF-αが腎細胞癌の癌幹細胞マーカーを誘導することが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.TNF-αシグナルの阻害による抗腫瘍効果の測定:平成23年度の実験によって同定されたEMT誘導因子であるTNF-αを抗体、化合物によって特異的に阻害する。標的分子のin vitroにおける阻害効果は細胞内転写因子、細胞外マトリックス分解酵素発現を定量PCR、イムノブロット法で確認する。尚、EMT誘導因子の一つであるTNF-αに対する免疫療法は既に関節リウマチの治療として既に長期間の治療が始まっている。そのため、TNF-αをターゲットとした分子標的療法は長期間の投与が可能であり腎細胞癌の治療に応用できる可能性が高いと考えられる。2.NF-κB阻害剤によるEMT抑制および抗腫瘍効果の測定:申請者はSnailが腎細胞癌のEMTを誘導する細胞内転写因子であり、SnailによるMMP誘導が腎細胞癌の浸潤・転移に重要な役割を果たしていることを見出しているが、近年の研究により転写因子であるnulcear factor kappa B (NF-κB)がSnailのinducerであることが判明しているため、EMT誘導因子はNF-κBの活性化によってSnailを誘導している可能性が高い。そこで、TNF-αを添加して腎細胞癌由来細胞株を培養した際にNF-κBが活性化することおよびSnail発現が上昇することを確認する。さらに、NF-κB阻害剤を投与して、NF-κBを阻害した際の、EMT誘導抑制の有無や抗腫瘍効果を上記1と同様に細胞内転写因子、細胞外マトリックス分解酵素発現およびマトリゲル上での浸潤能を測定することで確認する。3.TNF-α阻害剤、NF-κB阻害剤のin vivoにおける効果の測定:上記1、2においてin vitroでEMT阻害効果があると判明した阻害剤を腎細胞癌由来細胞株を皮下に移植したヌードマウスに投与しin vivoにおける抗腫瘍効果を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の結果によりTNF-αが腎細胞癌の主要なEMT誘導因子であることが判明した。そのため、次年度は下記のような実験系でTNF-αシグナルを特異的に阻害することに焦点を当てる。1.in vitroにおけるTNF-α阻害剤の効果判定:TNF-α阻害剤を複数購入し、その効果を分子生物学的手法を用いて遺伝子レベルで明らかにする。続いてin vitroの遊走能・浸潤能を指標にスクリーニングを行い、抗腫瘍効果のある薬剤を特定する。2.in vitroにおけるNF-κB阻害剤の効果判定:上記1と同様の方法でTNF-αとNF-κB阻害剤を同時に投与し、遊走能、浸潤能、EMT関連転写因子、細胞外マトリックス分解酵素発現の変化を指標にEMT阻害効果を明らかにする。3.in vivoにおけるTNF-α阻害剤の効果判定:ヌードマウスに腎細胞癌由来細胞株を移植し、上記実験1,2で明らかになったTNF-αおよびNF-κB阻害剤を投与し、in vivoでの抗腫瘍効果を確認する。さらに、本研究で明らかになった成果を国内の学会で発表するとともに、腎細胞癌の新規分子標的治療薬開発の基盤となる知見として影響力のある英文雑誌に投稿する。尚、今年度の未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の消耗品購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)