2011 Fiscal Year Research-status Report
癌幹細胞を標的とした新規GM-CSF遺伝子導入IPS細胞ワクチン療法の開発
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23790446
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 博之 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (80529967)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 癌幹細胞 / iPS細胞 / 腫瘍免疫療法 |
Research Abstract |
近年、癌幹細胞を標的とした胚性幹(ES)細胞ワクチン療法の有効性の報告がなされている。ES細胞使用の倫理的問題点を克服すべく代替細胞としてマウスiPS細胞をワクチン細胞として用い、GM-CSFを遺伝子導入し作製したiPS/GM-CSF細胞ワクチン療法の有効性を担癌マウスモデルで明らかにしてきた。H23年度は、その抗腫瘍免疫誘導メカニズムの解明、予防ワクチン系も含めた新規腫瘍免疫療法の開発を目的に以下の実験を施行した。非伝播型センダイウイルスベクターを用いて作製したiPS/GM-CSF細胞ワクチンがiPS細胞と同程度幹細胞マーカーを発現維持することを確認した。次に担癌(LLC : 肺癌)マウスモデルにおけるiPS/GM-CSF細胞ワクチン療法の予防的抗腫瘍効果及び治療的抗腫瘍効果を検討した結果、予防ワクチンモデルではiPS細胞ワクチン投与群で、治療ワクチンモデルではiPS/GM-CSF細胞ワクチン投与群で有意に腫瘍形成が抑制され、重篤な副作用は認めなかった。しかし、後者の実験再現性が認められず、原因のひとつとしてこれまでLLC細胞担癌マウスを用いており、iPS細胞ワクチンの標的がLLC細胞の希少な癌幹細胞(数%以下)であることに起因することが推察された。LLC癌幹細胞を同定する目的で各種比較検討実験を行った結果、FACS Ariaにより分離したALDH1+LLC細胞(約3%)が、抗癌剤(ドセタキセル)曝露に対し、有意に治療抵抗性を呈することを明らかにした。マウス肺癌幹細胞を同定した報告はほとんど無く、本研究成果は抗癌幹細胞抗原腫瘍免疫療法への基礎研究への貢献度、従来の標準治療抵抗性進行期固形癌治療への臨床的意義は極めて大きいと考えられる。また、iPSワクチン細胞は癌化リスク及び免疫、倫理的課題を回避でき、世界初のiPS細胞を用いた癌治療臨床応用実現化が期待できる点で意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非伝播型センダイウイルスベクターを用いて作製したiPS/GM-CSF細胞ワクチンが放射線照射後も十分なGM-CSFを発現し、遺伝子導入前のiPS細胞と同程度未分化性を維持することを確認できた(SSEA-1、Oct3/4発現、細胞形態)。次に、同系担癌マウスモデルにおけるiPS/GM-CSF細胞ワクチン療法の予防的及び治療的抗腫瘍ワクチン効果及び安全性を確認した。治療ワクチン系の抗腫瘍効果を誘導する免疫担当細胞の同定を行う目的で、各種免疫細胞(CD4+T, CD8+T, NK細胞)を中和抗体処置にて欠失させたin vivo実験を施行したが、iPS/GM-CSF細胞ワクチンの抗腫瘍効果の再現性が認められなかった。今回、担癌マウスに移植した細胞はLLC細胞であり、本来iPS/GM-CSF細胞ワクチンの標的とする癌幹細胞分画がLLC細胞全体において希少(数%以下)であることがその主な原因と考えられた。そこで、我々はLLC細胞における癌幹細胞分画を同定すべく、Sca-1, c-kit, SSEA-1, ALDH1(Aldehyde dehydrogenase 1)の表面抗原発現様式、及びSP分画をフローサイトメトリー法により比較検討した。ドセタキセルの1カ月以上の長期暴露によりALDH1細胞割合の増加を呈したことからALDH1陽性LLC細胞に注目した。ARIAにより純化分離した同細胞分画(全体の約3%)はドセタキセル暴露に対し、LLC細胞と比較し有意に治療抵抗性を呈していること、癌幹細胞の抗腫瘍免疫回避機構のひとつとして考えられる抑制性サイトカインTGF-の分泌発現量が有意に高いことを確認した。また、H24年度実験計画にある化学療法抵抗性担癌マウスモデルでのiPS/GM-CSF細胞ワクチン療法の有効性の検証に必要となるドセタキセル抵抗性LLC細胞の樹立に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験結果よりALDH1+LLC細胞がLLC癌幹細胞であることが強く示唆された。癌幹細胞性を証明すべく、現在、ALDH1+LLC細胞の腫瘍形成能をマウスin vivo実験にて検証中である。また、同細胞分画のコロニー形成試験を比較検討する。幹細胞性を証明した後、ALDH1+LLC細胞を純化単離し、同細胞のみ移植した癌幹細胞担癌マウスモデルを用いて、再度iPS/GM-CSF細胞ワクチンの抗腫瘍効果を検討する。その後、種々の免疫学的アッセイを行い、同治療による責任免疫細胞の同定を含む抗腫免疫効果誘導機序を明らかにする。責任免疫細胞の同定には、中和抗体投与によりdepletion assayを行う。抗腫瘍免疫応答機構を解明する目的で、iPS/GM-CSF投与マウス群における所属リンパ節樹状細胞 (TDLN-DC) の活性化や成熟化状態(CD80, CD86マーカー)、或いはワクチン接種部位にてiPS細胞抗原(iPS細胞はDs-Redで蛍光標識されている)を貪食した樹状細胞の同リンパ節への遊走能への影響を比較検討する。また、同治療経過中の各マウス群の脾細胞由来炎症性サイトカイン産生能の比較解析 (Th1/Th2 balance Analysis)を脾細胞を抽出し同iPS細胞で再刺激、共培養後の上清中の各炎症性サイトカイン量(TNF-, IL-2, IFN-γ(Th1サイトカイン), IL-4, IL-5 (Th2サイトカイン))をELISA或いはCBA (Cytometric Bead Array) 法により比較定量し、T細胞を中心とした細胞性免疫系(Th1細胞)或いは液性免疫系(Th2細胞)が関与しているか否か検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記研究推進方策で記載のように、主にALDH1 detection kit, 各種サイトカインアッセイキット、各種免疫抗原抗体等の試薬類、野生型マウス、旅費目的で研究費を使用する予定である。また、今回ALDH1陽性LLC細胞の癌幹細胞を証明できれば、同細胞分画における癌幹細胞特異的腫瘍抗原及びシグナル伝達経路を同定するべく、網羅的遺伝子アレイ解析(DNA マイクロアレイ、microRNA アレイ)を施行する(研究費に余裕があれば)。本研究成果は、本年度日本癌学会(H24年9月19-21日)にて発表予定である。
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[Journal Article] Coxsackievirus B3 Is an Oncolytic Virus with Immunostimulatory Properties that Is Active Against Lung Adenocarcinoma.2012
Author(s)
Miyamoto S, Inoue H (Equal Contribution), Nakamura T, Yamada M, Sakamoto C, Urata Y, Okazaki T, Marumoto T, Takahashi A, Takayama K, Nakanishi Y, Shimizu H, Tani K.
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Journal Title
Cancer Research
Volume: Mar 29
Pages: Ahead of print
DOI
Peer Reviewed
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