2011 Fiscal Year Research-status Report
動物寄生線虫の持つ細菌様フェロケラターゼ(鉄挿入酵素)の解析
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23790461
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
長安 英治 宮崎大学, 医学部, 助教 (20524193)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 糞線虫 / 寄生虫 / 動物寄生線虫 / フェロケラターゼ / ヘム |
Research Abstract |
本年度は、これまで我々が行ってきた糞線虫ゲノム/トランスクリプトームの解析において、その存在が明らかになったフェロケラターゼ様の配列が実際にフェロケラターゼ (FC)として機能するのかどうかを主眼に実験を行った。糞線虫FCを発現する組換え大腸菌のcrude lysateを用いたin vitro ケラターゼアッセイを行い、糞線虫FC様配列が実際にケラターゼとして機能することが確認された。また、FC遺伝子欠損による増殖阻害を示す大腸菌に糞線虫FCを発現させることで増殖能を回復させることができた。これらの結果より、今回見いだされた配列が、当初の予測通り、糞線虫のFC遺伝子であることが実証された。 また本年度は、公共DNAデータベースから72種の真核及び65種の原核生物種由来のFC配列を得とくし、糞線虫配列を含めて分子系統樹解析を行った。その結果申請時に記載した、preliminaryな解析において得られた結果と基本的には同様の結果が得られた。すなわちmetazoaのFC配列が単一のクレードを形成する中で、糞線虫を含む線虫由来の配列だけはここから遠く離れ、様々なバクテリアのFC遺伝子とクレードを形成した。このことから、線虫のFC遺伝子は、その他metazoaのようにミトコンドリアに由来するのではなく、バクテリアからの水平伝播によりもたらされたことが強く示唆された。 MetazoaのFCはミトコンドリアの内膜酵素であるが、もし糞線虫FC遺伝子がミトコンドリアに由来しないのであれば、その遺伝子産物がはたしてミトコンドリアなのか、それとも他の場所に局在するのかどうかは非常に興味深い問題である。この問いに対する答えを見つけるために、免疫電顕を用いた局在解析を計画しており、本年度はウサギを免疫するための免疫源としての組換え糞線虫FCの精製をメタルアフィニティークロマトグラフィーにて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の研究実施計画欄には5項目の目標を記載した。(1)フェロケラターゼ発現大腸菌を作成し、フェロケラターゼ活性の測定と抗体の作成に用いる→実施済み(2)糞線虫の代表的な発育ステージの虫体を回収し、虫体ライセートを用いたフェロケラターゼ活性の測定→虫体の回収中 (3)大腸菌hemH遺伝子欠損株を用いた遺伝子補填実験→実施済み (4)抗糞線虫フェロケラターゼ抗体を用いたウェスタンブロット解析→未実施 (5)遺伝子ノックダウンプロトコルの確立→条件の検討中(4)については抗体作成に必要な量の大腸菌組換えタンパクの精製が比較的困難であったため、予想より時間がかかり、現時点において使用できる抗体がないことが原因である。現在は動物を免疫中であり、抗体の作成ができしだい実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、糞線虫はバクテリアからの水平伝搬により、線虫類としては例外的にフェロケラターゼ(FC)遺伝子を持つに至ったことが分かった。7種類のヘム合成系酵素のうちその最終酵素であるFCだけを持つ意義は現時点では不明であるが、こうした状況はインフルエンザ菌など他のいくつかの動物の病原体において知られ、動物寄生の成立に重要な意味を持つものと考えらる。考えられる仮説のひとつは、糞線虫がFCの逆反応を用いて、鉄の得とくを行っているというものである。動物宿主体内においては糞線虫は組織液を栄養源としていると考えられているが、動物の組織液中には病原体が利用可能な鉄はほとんど存在しないことから、糞線虫はむしろヘムタンパクを摂取し、そこに含まれるヘムから鉄を得ているのかもしれない。このことを証明するには、鉄を含まないdefined mediumの中にヘムタンパクを加えることで、糞線虫が生存できるかどうか、そしてFC阻害剤を加えた場合はどうなるかを検証する実験が有効であると考えられるが、現時点において糞線虫を生存をサポートするdefined mediumは存在しない。今後の研究においては、C. elenganの実験で用いられているようなdefined mediumを参考に、糞線虫のin vitor 培養系の確立を行い、上述の鉄制限/ヘムタンパク添加の実験へとつなげる予定である。 もう一つの興味深い問題は糞線虫FCの細胞内局在である。もしも糞線虫FC遺伝子が他のmetazoa生物のようにミトコンドリアに由来しないのであれば、FCタンパクは他のmetazoa生物のようにミトコンドリアに局在する酵素ではない可能性がある。このことを調べるために、抗FC抗体を用いた、免疫電顕および、タグ付き蛍光タンパクを用いた局在解析を実施する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においては、上述の研究計画を遂行するために必要な試薬、消耗品等を購入する。現在、本研究に関する論文を投稿準備中であり、掲載に必要な費用を支出する。また、関連学会での研究成果発表のための旅費を支出する。
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Research Products
(3 results)