2012 Fiscal Year Research-status Report
新規マトリックス・アンカー探索のための細菌性コラーゲンセンサーとアドヘジンの解析
Project/Area Number |
23790483
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
美間 健彦 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (80596437)
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Keywords | コラゲナーゼ / 二成分制御系 / Two-component system / Vibrio / V. alginolyticus / 発現誘導 / コラーゲン / マトリックス・アンカー |
Research Abstract |
V. alginolyticusのコラーゲン・センサーを同定するために、コラゲナーゼ産生能を欠損した変異株の新規スクリーニング法を開発した。この方法は、コラーゲン・ザイモグラフィー法を応用してマイクロプレートに固相化したコラーゲン繊維の分解を指標にして、コラゲナーゼ産生の有無を判定する方法である。 トランスポゾン(Tn)を用いてV. alginolyticusの染色体DNA上の遺伝子をランダムに破壊した。約12,000株のTn挿入変異株のコラゲナーゼ産生能を調べた結果、21株のコラゲナーゼ産生能を欠損した変異株が得られた。それら変異株中のTnが挿入された遺伝子を同定したところ、2株で二成分制御系のセンサー・ヒスチジンキナーゼ(HK)をコードする遺伝子にTnが挿入されていることが分かった。このHKが、コラーゲン・センサーであることが予想された。 次に野生株からHKを欠損した変異株を構築し、コラゲナーゼ産生能を調べたところ、コラゲナーゼ産生能を欠損していることが分かった。さらに、HK遺伝子の欠損を野生型HK遺伝子で相補したところ、コラゲナーゼの産生能が回復した。このことから本HKがコラゲナーゼの発現調節にかかわっていることが明らかになった。 二成分制御系は環境中のシグナルをセンスするHKと、そのシグナルを受け遺伝子の発現を調節するレスポンス・レギュレーター(RR)の二成分からなる。相同性解析の結果、本HKと共同して働くRRを推定した。そこで、野生株からそのRRを欠損させた変異株を構築し、コラゲナーゼの産生を調べた結果、コラゲナーゼ産生能を欠損していることが分かった。さらにそのRR遺伝子の欠損を野生型RR遺伝子で相補したところ、コラゲナーゼの産生能が回復した。以上の結果から、上記のHKとRRが二成分制御系として働き、コラゲナーゼ遺伝子の発現を調節していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
V. alginolyticusのコラーゲン・センサーを同定するために、コラゲナーゼ産生能を欠損した変異株の新規スクリーニング法を開発した。この方法は、コラーゲン・ザイモグラフィー法を応用してマイクロプレートにコラーゲン繊維を固相化する。この固相化したコラーゲンは、三重らせん構造をとったコラーゲン分子が会合し不溶性の繊維を形成しているため、一般のプロテアーゼでは分解されず、コラゲナーゼのみが分解できる。従って、このスクリーニング法では、コラゲナーゼ活性を特異的に検出することができる。また、このスクリーニング法はマイクロプレートを用いた方法であるため、一度に多数の変異株のコラゲナーゼ産生能を評価することができる。このスクリーニング法を開発したことにより、約12,000株のトランスポゾン(Tn)挿入変異株のコラゲナーゼ産生能を調べることが可能となった。そしてその結果、コラーゲン・センサーであることが予想される二成分制御系のセンサー・ヒスチジンキナーゼ(HK)を同定することができた。さらに、相同性解析の結果、そのHKと二成分制御系を構成していると推定されるレスポンス・レギュレーター(RR)を同定した。 本二成分制御系は他の細菌においてsmall RNAの発現誘導を介して、種々の遺伝子発現を制御していることが分かっている。このことから、V. alginolyticusの本二成分制御系によるコラゲナーゼ遺伝子の発現誘導も、small RNAの発現誘導を介したものであることが予想される。この様に、上記のスクリーニングの結果、コラゲナーゼの発現誘導にかかわる二成分制御系を同定できたことにより、V. alginolyticusのコラゲナーゼ発現誘導機構の解明に向けて大きく前進した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、二成分制御系のセンサー・ヒスチジンキナーゼ(HK)とレスポンス・レギュレーター(RR)がV. alginolyticusのコラゲナーゼ遺伝子の発現を調節していることが明らかになった。しかしながら、両者が同じ二成分制御系を構成しているかは分かっていない。二成分制御系はHKがセンスしたシグナルを、リン酸基を転移することによってRRに伝達する。そこでHKおよびRRを精製し、in vitroでのリン酸基の転移を調べることで、両者が二成分制御系を構成しているかを明らかにする。さらに、そのリン酸基の転移はHKおよびRRのヒスチジン残基やアスパラギン酸残基を介して行われる。そこで部位特異的変異導入法を用いて、HKとRRそれぞれにおいてリン酸化を受けるアミノ酸残基を同定する。 これまでの研究からは、本二成分制御系が実際に環境中のコラーゲンを認識しているのか、すなわちコラーゲン・センサーであるのかは明らかとなっていない。そこで、コラーゲンの含まれる培地または含まれない培地で培養した時のin vivoでのHKおよびRRのリン酸化を調べることにより、本二成分制御系のシグナルがコラーゲンであるのかを明らかにする。 これまでに種々の細菌において本二成分制御系のホモログの報告がなされている。それらによると、本二成分制御系はsmall RNAの発現の調節を介して下流の遺伝子の発現を調節している。そこでV. alginolyticusの本二成分制御系によるコラゲナーゼの発現調節も、small RNAの発現調節を介したものであるか調べる。さらに、コラゲナーゼ遺伝子の発現を直接制御している転写調節因子を同定し、本二成分制御系によるコラゲナーゼ遺伝子の発現調節機構の全容を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は4月1日付で岡山大学大学院医歯薬学総合研究科へ異動したため、当初一時的に研究の速度が低下した。その後研究は加速度的に進行しているが、研究費を予定通り使い切ることができず、次年度に使用することにした。 本研究は、遺伝子組換えやタンパク質工学等の種々の分子生物学的手法を利用して実施される。そのため、それらにかかる細菌用培地や一般試薬、プラスチック器具等の経費が大部分を占めている。 二成分制御系のセンサー・ヒスチジンキナーゼ(HK)とレスポンス・レギュレーター(RR)の間でシグナル伝達が行われているかを明らかにするため、大腸菌を用いてHKおよびRRの2つのタンパク質を生産し、精製する。そのために、遺伝子組換え用試薬(合成プライマーやPCR試薬、制限酵素等)やタンパク質精製用試薬(グルタチオンセファロースやトロンビン等)が必要である。さらにタンパク質精製後のin vitroでのシグナル伝達の解析には、リンの同位体(32P)で標識したリン酸基のHKとRRへの取り込みを指標に評価するため、32Pで標識したATP等が必要である。また、HKとRRのリン酸化を受けるヒスチジン残基やアスパラギン酸残基を同定するために、部位特異的変異導入法により変異型HKとRRを構築するが、そのための遺伝子組み換え用試薬(合成プライマーやPCR試薬等)が必要である。さらに、二成分制御系のシグナルがコラーゲンであるか調べるため、合成プライマーやRT-PCR用試薬が必要である。V. alginolyticusのコラゲナーゼ産生を調べるために、コラゲナーゼアッセイ用試薬(コラーゲンやPz-peptide等)が必要である。 これまでの研究成果を発表するために、学会発表および学術論文投稿にかかる経費を計上している。
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Research Products
(6 results)