2011 Fiscal Year Research-status Report
HIV-1感染抵抗性因子Rac2によるウイルス増殖制御様式の解明
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23790510
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
博多 義之 近畿大学, 医学部, 助教 (30344500)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | HIV-1 / Rac2 / 感染抵抗性遺伝子 |
Research Abstract |
低分子量Gタンパク質であるRac2がCCR5発現を減少させ、かつCCL5発現を上昇させることでHIV-1感染抵抗性因子として働くことを以前に発見している。また、上記機構に加えて、別の機構の関与を示唆する結果が得られている。本研究の目的はこの未知の機構を明らかにすることである。HIV感染への炎症性サイトカインの関与について数多く報告があり、Rac2による抗HIV-1活性の分子機序の一つである可能性がある。そこで、交付申請書の通り、平成23年度はRac2による炎症性サイトカイン産生の制御機構について解析した。まずRac2発現を抑制した細胞と親細胞にLPSを加え培養し、経時的に上清中のTNF alphaとIL6を定量した。Rac2抑制によりTNF alpha発現量が数千倍上昇し、IL6は1/20程度に低下していた。次に、上記細胞のサイトカインmRNAを定量したところ、上清中のサイトカイン量と正に相関した。従ってRac2による制御はmRNA発現の段階であることが分かった。LPS刺激後に阻害剤により転写を抑制し、mRNAの分解を定量したところ、Rac2に非依存的であった。つまり、Rac2によるmRNA発現調節は転写開始の段階であることが示唆された。次に、LPS刺激時に活性化されるシグナル分子の解析により、Rac2はMAPKおよびIRFの活性化に寄与しないが、NFkBの活性を持続させることが分かった。持続された活性が幾つかの下流の遺伝子群の発現に必要であり、結果としてIL6およびTNF alphaの転写が制御されていると分かった。本研究によりサイトカイン産生におけるRac2の新機能が発見でき学術的に意義が深く、また、Rac2が担うHIV-1感染抵抗の分子機序として、Rac2による炎症性サイトカインの発現制御機構が示唆された点、重要な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度においては、Rac2による炎症性サイトカイン産生の制御機構について解析し、それがHIV-1感染抵抗性因子としての分子機序として機能しうるのか検討することを計画した。計画した研究を実行できた点、またほとんどの実験において詳細な比較解析に資する結果が得られた点、評価できる。炎症性サイトカイン産生を刺激する際に主にLPSを使用することで再現性の高い結果を得ることができ、実績報告ではおもにそれについて記述したが、実際はLPS以外のサイトカイン誘導刺激についても実験を行っており、LPS使用時の結果との比較解析を完了している。これらについて当初の研究計画よりも進行している。現在、得られた知見を公開すべく、論文を作成している。本研究の申請書では、Rac2が関与する宿主免疫システムの理解を学術的な特色・目的の一つとして挙げた。本研究により炎症性サイトカイン産生におけるRac2の新たな機能を解明できた点、計画通り進行していると考えられる。また、これらの結果はHIV-1感染症にとどまらず、サイトカイン産生の異常に起因すると考えられている様々な疾患(クローン病等)に対する基礎医学研究にも貢献することができ、学術的に大変重要な知見と位置付けられる。さらにRac2が関与すシグナル伝達経路の同定のみならず、その作用機序にまで迫れた点当初の計画よりも進行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ本研究の交付申請書の計画に沿って研究が進んでいる。第一に優先する研究として申請書に記載した平成24年度の研究計画に沿い研究を進めていく。また、平成23年度に得られた成果を論文として発表する。その成果は24年度に計画されている研究と密接につながっており、両成果を同時に考察することで、本研究課題である、HIV-1感染におけるRac2機能全体像の解明を相乗的に遂行できるものと期待される。そこで、23年度に得られた成果をさらに発展させる研究を同時に行う。特に、Rac2発現を抑制した細胞にLPS刺激を施した際、発現を抑制していない細胞に比べて数千倍の発現増強が確認されたTNF alphaの産生について、より理解を深めていく。この分子機序は23年度に明らかにした分子機構に加えて、さらに別の機構の関与も示唆される結果を得ている。TNF alphaがHIV-1感染に関与することからも、Rac2によるTNF alpha発現制御の理解を深めていくことは重要であり、かつ本研究の元来の計画に沿ったものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に生じた「次年度使用額」は、可能な限り効率よく研究費を使った結果として生じた残額(1,802円)であり、24年度に価格の高い物品を購入するため等に生じたものではない。24年度の研究費と合わせて有効に研究に活用する。平成24年度も申請書に記載した研究計画に従い研究を進める。具体的にはまず、Rac2がオートファジーを促進するか調べる。次に、Rac2とNefとの結合を共免疫沈降法により調べ、結合に必要なドメインを決定する。さらに、Rac2機能がNefの共発現により抑制されるのか調べる。別に、末梢血単核球にHIV-1またはNef欠損HIV-1を感染させ、各ヒトのRac2発現量依存的なオートファゴソームの形成・機能が認められるか検討する。また、Rac2の効果がNef依存的に抑制されるか調べる。以上の実験のために次のものを研究費により購入する。Rac2およびNef発現ベクターを作成・調整するためのオリゴDNA、ベクター、各種酵素類、コンピーテントセル、大腸菌用培地、抗生物質、DNA抽出試薬および一般試薬、作成した発現ベクターを細胞に導入するための導入試薬、オートファジー関連因子であるLC3タンパク質を検出するための抗体、および蛍光ラベル化された2次抗体、オートファジー阻害薬、培養細胞のための培養用培地、血清、プラスチック製品。共免疫沈降法に使用する各種抗体、ビーズ。ウイルス調整のための試薬類。HIV-1定量のためのp24 ELISA plate作成のための抗体と試薬、およびプラスチック製品。別に、Rac2によるTNF alpha発現制御機構解明のためのリアルタイムRT-PCR試薬とプライマー、サイトカインELISAキットを購入予定である。
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Research Products
(1 results)