2011 Fiscal Year Research-status Report
再生医療研究における被験者保護について:「治療であるとする誤解」を中心に
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23790565
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Research Institution | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
Principal Investigator |
岩江 荘介 独立行政法人医薬基盤研究所, 難病・疾患資源研究部, 研究員 (80569228)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 治療とする誤解 / 被験者保護 / インフォームド・コンセント / ヒトiPS細胞 / 再生医療研究 / 自己決定権 / 公共の利益 / 社会的連帯意識 |
Research Abstract |
本年度の成果は、研究論文の投稿が2本(掲載済)と学会発表が2回である。各論文のタイトルは、(1)「総説:バイオバンクの倫理的・社会的側面への対応とガバナンスについて」と(2)「バイオバンクとゲノム医学研究の倫理的・社会的側面とガバナンスについて― solidarity の概念を手がかりにして」である。一方、各学会発表のタイトルは、(1)「医学研究ガバナンス活動における倫理的基盤について:再生医療研究を題材に」と(2)「再生医療分野の臨床研究における被検者保護について:therapeutic misconceptionの問題を中心に」である。 論文については、再生医療研究そのものではなくバイオバンクを扱った内容となっている。これは、ヒトiPS細胞を使った再生医療の普及には、研究基盤としてのバイオバンクの整備が不可欠とされているためである。バイオバンクのガバナンスや被験者保護の問題を考察するで、再生医療研究で同問題を考える際への重要な示唆が得られることができた。 論文(1)では、バイオバンクのガバナンスの問題について主要な論点を整理した。(2)では、バイオバンクのガバナンスで重要になってくる「研究参加者の参加動機」に着目し、solidarityという概念を使って分析と考察を試みた。どちらも、研究プロジェクトの持つ公共性に着目しながら運営を実践するガバナンスの重要性を強調する内容となっている。 一方、研究発表(1)では、再生医療研究のガバナンスを支える倫理的基盤の中身と被験者の自己決定権の関係について考察し、現行の倫理的基盤の欠点を指摘した。研究発表(2)では、再生医療研究に関する公共政策とtherapeutic misconceptionとの関係について考察し、現行政策の欠点を指摘した。どちらも、再生医療分野の推進と被験者の自己決定権の保護が衝突する場面について着目した内容となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目を振り返り、進捗についてはやや遅れ気味という印象をもっている。その理由は、論文や学会発表など具体的な成果を出したものの、それぞれの内容が申請書における研究目的と強くリンクしているとまで言い切ることができないためである。つまり、本研究計画における最重要キーワードであるtherapeutic misconceptionの問題について、それが再生医療研究の文脈の中でどのように解釈されるべきか、どのように問題解決が図られるべきかについて、本年度では十分に考察されてこなかったと言える。 ただ、先端医療分野に参加する被験者の動機とsolidarity(社会的連帯意識)の概念が再生医療研究を推進する上で重要であるという新しい発見もあった。これは、therapeutic misconceptionに関する先行研究のレビューを実施する中で、通説における被験者への十分な説明や被験者への教育徹底だけでは、therapeutic misconceptionの問題は十分解決されないことが見出されたことに端を発する。 そこで、therapeutic misconceptionに対して「研究する側」の視点からアプローチするだけでなく、研究に参加する被験者の動機や視点との関連性に着目する重要性を見出した。ただし、被験者の参加動機や社会的連帯感といった概念がtherapeutic misconceptionの概念だけでなく、被験者保護や医学研究の公共性といった概念とリンクするのかについては、次年度の研究の中で明らかにしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究の推進については、申請時の研究計画を基礎とする。つまり、therapeutic misconceptionを引き起こす構造的・文化的要因と関連する1次情報の収集と、therapeutic misconceptionのさらなる概念的分析である。 前者については、再生医療研究を含む先端医療研究を盛んに行なう研究機関へのヒアリング調査を行なう。例えば、各機関のtherapeutic misconceptionへの対応策などを中心に情報収集を行なう。また、研究に参加する側の患者や被験者の視点からも調査する。具体的には、患者とその支援者へもヒアリング調査を実施する。そこで、被験者が研究に参加する動機やそれを支える期待、さらに社会的連帯意識というものに焦点を当ててヒアリング調査する。 後者のTherapeutic misconceptionの概念的分析については、引き続き先行研究のレビューを行なう。これについては、本年も実施してきたが、予想以上に先行研究が多いため、次年度は効率性を重視し、「Web of Knowledge」等の論文データベースを利用して被引用数の多い論文に絞り込んで分析を実施する。同時に、被験者側の視点であるsolidarityの概念についても分析を行い、therapeutic misconceptionとの関連性について探りながら研究を行なう。また、ヒアリング調査先として、海外の研究機関も視野に入れて実施する予定である。 なお、次年度の研究成果についても、論文投稿および学会発表を通じて公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度に交付された研究費の内、167,122円が次年度繰越となった。これは、ヒアリング調査の予備調査として使用する予定のものであった。同次年度繰越分については、国内ヒアリング調査の実施に伴う旅費や謝金を中心に使用する予定である。 次年度に交付されるその他研究費については、申請時の計画通りに使用する予定である。ただし、海外調査を予定しているので、全般的に旅費の支出のウェイトが大きくなるものと予想される。
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Research Products
(4 results)