2012 Fiscal Year Research-status Report
再生医療研究における被験者保護について:「治療であるとする誤解」を中心に
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23790565
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Research Institution | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
Principal Investigator |
岩江 荘介 独立行政法人医薬基盤研究所, 難病・疾患資源研究部, 協力研究員 (80569228)
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Keywords | 研究ガバナンス / 被験者保護 / 再生医療研究 / インフォームド・コンセント / 社会的妥当性 / 包括的同意 / 治療とする誤解 / 倫理審査委員会 |
Research Abstract |
本年度の成果は、著書(分担著)が1点と学会発表が2回である。著書は、「クローン・キメラ・ハイブリッド」というテーマで、『先端医療』(シリーズ生命倫理学・第12巻(編集:霜田 求、虫明 茂)丸善出版)の一部を分担執筆したものである。一方、各学会発表のタイトルは、①「臨床現場における倫理的問題の解決支援制度のあり方に関する一考察:わが国の病院内倫理委員会と臨床倫理コンサルテーションの制度比較を手がかりに」(第24回日本生命倫理学会)、および②「ゲノム医学研究の発展が遺伝子情報のプライバシーに与える影響について(バイオバンクのガバナンスを題材に)」(第31回日本医学哲学・倫理学会)である。 著書については、クローン、キメラおよびハイブリッド胚研究における倫理的側面について、これまでの議論と論点を整理したものである。それらは再生医療分野でも基礎研究に分類される。しかし、いずれにおいても試料提供者の「自己決定」と、研究が成功した先にある「公共的利益」、さらに「社会的な理解と受容」の三要素のバランスをいかに取るかが大きな倫理的問題とされてきた。また、その論点は再生医療分野の臨床応用においても議論されているものであり、先端医療分野に共通する倫理的な論点である。そのため、本研究計画においても非常に有益な示唆を得た。 一方、研究発表①では、「倫理委員会による審査と社会的妥当性の付与」に注目した。実験的要素が大きい医療技術の実施と倫理委員会の承認の社会的な意義について考察した。研究発表②では、バイオバンクの倫理的問題を取り上げ、ヒト試料・情報を多様な研究に利用するための包括同意に焦点を当て考察した。包括同意の問題は、「臨床用ヒトiPS細胞バンク」などで主たる倫理的問題となっており、再生医療とりわけヒトiPS細胞研究においては今後非常に重要な倫理的課題となることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目を振り返り、進捗についてはやや遅れ気味という印象をもっている。 例えば、共著とはいえ著作や学会発表など具体的なアウトプットをしたものの、再生医療研究の倫理について未だ概念的なレベルでの探求にやや終始している傾向がある。そのため、本研究における主たるテーマである「被験者保護の文脈におけるtherapeutic misconceptionの意味」について、臨床現場に根ざした議論や考察が不足している点を反省している。 ただ、再生医療など先端医療技術の推進における倫理委員会の役割など、被験者保護をいかに「制度として実現するか」という視点を新たに見いだしたことは成果であった。自身も倫理委員会事務局の教員として勤務することになったため、次年度では「被験者保護の制度による実現」についても明らかにしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究の推進については、申請時の研究計画を若干修正する。まず、therapeutic misconceptionを引き起こす構造的・文化的要因の探索は継続する。それに加えて、再生医療など先端医療技術の推進における「被験者保護の制度的担保」について注目していく。 例えば、therapeutic misconceptionなど被験者保護に関連するリスクについて、倫理委員会などのチェック機能を通じ、どのように排除可能なのか、どのレベルまで排除することが社会的・倫理的妥当とされるのか、といった論点について考察する。これは、ここまでの調査・研究から「therapeutic misconceptionは被験者保護の観点からはリスクだが、それをインフォームド・コンセントによって排除することは不可能である」という現実を見いだしてきたからである。具体的には、最近の先端医療や実験的治療の中で、therapeutic misconceptionの概念がどのように解釈され、どの程度重視されているのかについて文献検討し、研究者や臨床家にインタビュー調査を試みる。 また、先端医療分野の倫理における、倫理審査委員会の役割や意義について歴史的背景も含めて検証する。さらに、倫理委員会の承認が医学研究の社会的妥当性に与える影響あるいは両者の関係についても検証する。 なお、次年度の研究成果についても、論文投稿および学会発表を通じて公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度に交付された研究費の内、682,574円が次年度繰越となった。これは、ヒアリング調査および海外調査の実施のために予定していた予算であった。繰越額は、本年度においてそれらのために支出する予定である。また、本年度交付分については、申請時の計画通りに支出する予定である。
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Research Products
(3 results)