2011 Fiscal Year Research-status Report
幼齢期のストレスによる発達障害(特に自閉症)モデル動物の開発と薬物治療学的介入
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23790593
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Research Institution | Nagasaki International University |
Principal Investigator |
山口 拓 長崎国際大学, 薬学部, 准教授 (80325563)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ストレス / 発達障害 / 自閉症 / 社会的行動 / 幼児・児童虐待 / モデル動物 / 前臨床評価法 / 薬物治療 |
Research Abstract |
本研究では、幼齢期に曝露したストレスが自閉症の後天的発症要因であるとの仮説に基づき、幼若期ストレス負荷ラットにおける自閉症の動物モデルとしての妥当性を追究することによってその発現機構の解明ならびに薬物治療に向けての前臨床評価法の確立を目的とした。 本検討では、幼若期ストレスとして、3週齢(3wFS)時の仔ラットに足蹠電撃ショックを負荷し、発達期(6週齢)および成熟期(10-12週齢)に行動学的応答性を検討した。実験には、2匹のラットが示す社会的行動様式の変容を指標とした社会的行動(SI)試験ならびにオープンフィールド装置内で1匹のラットが特異的に示す行動変容を観察することで常同行動の有無を検討した。 発達期および成熟期のいずれの場合も、3wFS群では自発運動量の低下を示すことなく、SI時間が有意に短縮した。常同行動の測定試験では、社会的行動障害を示した成熟期3wFS群を用いて、特に毛繕い行動、臭い嗅ぎ行動、立ち上がり行動の持続時間、頻度を計測した。その結果、FS箱に入れる処置のみを負荷したFS非負荷ラットと比較して3wFS群はいずれの指標も低値を示したが、本結果は鎮静に伴う行動変容と考えられた。さらに成熟期3wFS群において、ジアゼパム、タンドスピロン、フルボキサミンを用いた行動薬理学的検討を実施した。フルボキサミンは、成熟期3wFS群が示す社会的行動障害を改善する傾向が認められた(有意差はなし)が、ジアゼパムはそれを有意に改善した。タンドスピロンは効果がなかった。 以上の結果から、幼若期に負荷されたストレスによって発達期から成長後に至るまで社会的行動障害を発現し、この障害は抗不安薬ジアゼパムによって改善することが明らかとなった。本知見から自閉症の症状の一つである社会性の質的障害と類似する行動変容が本モデルラットに示されたが、さらなる行動薬理学的妥当性を追究する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成23年4月から現在の所属へ異動となったため、研究環境の大幅な変更があった。本申請研究内容は、前任地にて以前から実施していた研究の発展的内容のために、新任地においても実験環境の条件や設備を同等レベルの状態にセットアップする必要がある。さらに、平成23年度は新任地にての新しい業務を履行するために、そちらの新業務に多くの時間を要することとなった。また、申請研究内容は、前任地において既に所有していた設備の使用を前提に立案した研究内容であったが、新任地ではそれらの設備を一部使用できないために、前任地の設備と同様の準備あるいは代替策を考案する必要がある。 これらの理由から、当初予定していた研究進度が遅くなっている。平成24年度は可能な限り、本申請研究内容を遂行するべく善処する所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)幼若期ストレス負荷ラットを用いての自閉症モデル動物としての行動学的妥当性ならびに行動薬理学的妥当性の検証:従来の1-コンパートメントチャンバーを用いた場合よりも実験動物の使用を半減させることが可能で、省力化も可能な3-コンパートメントチャンバーを用いたSocial interaction試験を確立させ、幼若期ストレス負荷ラットが示す社会的行動障害の再検証とモデルラットとしてのさらなる妥当性を確証するために行動薬理学的検討を推進する。2)自閉症様行動の発現に関わる脳内分子の探索:自閉症発症の成因においては様々な候補遺伝子が提唱されていることから、幼若期ストレス負荷ラットの脳内においても自閉症関連遺伝子の転写産物であるタンパク質発現の変動についてその特異的抗体を用いてウェスタンイムノブロット法によって解析する。3)関連分子の脳機能を推察するための脳内分布検索を念頭においた免疫組織化学的解析:上記に実施予定の自閉症関連タンパク発現解析にて関与が認められた分子について、それらの分子の脳内における機能的役割を明らかにするために、特異的抗体を用いて免疫組織化学的に幼若期ストレス負荷ラットの脳内分布を網羅的に検討する。また、イムノブロット法にて得られたタンパク質発現の多寡が組織化学的にも検証されるか否かを非ストレス負荷ラットと比較検討する。4)自閉症様行動に関連する脳内分子に関与する薬物が利用可能である場合には、その薬物を用いて幼若期ストレス負荷ラットが示す行動変容に対して行動薬理学的に検討し、その候補遺伝子に関連する薬物の新規治療薬の候補としての可能性を検索する。 以上、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を学会発表および学術論文によって報告する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年4月から現在の所属へ異動となり、研究環境の大幅な変更によって研究進行度の遅延が生じたため、次年度に繰り越した研究費が発生した。本年度はこの遅延を取り戻すべく下記の本年度に請求する研究費と合わせた使用計画を予定する。○妊娠ラット(単価10千円)から幼若ラットを入手する。1匹の妊娠ラットから5~8匹の雄ラットが入手可能である。実験には、雄のみを使用するので1ヶ月に雄性幼若ラットがおよそ40匹を必要として、すなわち妊娠ラットをおよそ6匹要する。したがって、今後、ラットの購入に必要な経費は10千円x6匹x12ヶ月≒70千円と算定した。SHRSP/EzoおよびWKY/Ezoに関しては、本系統ラットについて系統維持ならびに管理飼育を委託している実験動物会社より購入のため2系統 x 10匹x10千円/1匹=200千円と算定した。○薬理学的検討に使用する薬物の購入にかかる今後の薬品購入費は400千円とした。抗体がおよそ平均5万として、今後、のべ6種類購入すると、50千円x6=300千円。免疫組織化学的検討における消耗品を合計して150千円を算定した。また、注射器・注射針、ラットの飼育飼料などのその他の消耗品に合計して250千円を算定した。○現有のオープンフィールド装置を応用して3-コンパートメントチャンバーを用いたSocial interaction試験装置として使用可能とするために、その付属品を独自に作製するための費用としての消耗品を200千円として算定した。○国内学会参加旅費は、3日間の国内学会を年間2回として100千円x2=200千円と算定した。国外学会参加旅費は、年間1回にて1回250千円まで使用する。謝金のうち、英語論文投稿の英文校正料として計上する。英文校正は研究成果の迅速な発表のために必要であるので1件約5万円として、50千円x3件=150千円と算定した。
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[Journal Article] Retrieval of conditioned fear activates the basolateral and intercalated nucleus of amygdala.2011
Author(s)
Izumi T, Boku S, Shinmin W, Inoue T, Konno K, Yamaguchi T, Yoshida T, Matsumoto M, Watanabe M, Koyama T, Yoshioka M.
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Journal Title
J Neurosci Res.
Volume: 89
Pages: 773-790
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Juvenile stress attenuates the dorsal hippocampal postsynaptic 5-HT(1A) receptor function in adult rats.2011
Author(s)
Matsuzaki H, Izumi T, Horinouchi T, Boku S, Inoue T, Yamaguchi T, Yoshida T, Matsumoto M, Togashi H, Miwa S, Koyama T, Yoshioka M
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Journal Title
Psychopharmacology (Berl).
Volume: 214
Pages: 329-337
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Serotonin1A receptor-madiated synaptic responses in the rat medial prefrontal cortex is altered by early life stress: In vivo and in vitro electrophysiological studies.2011
Author(s)
Kimura S, Togashi H, Matsumoto M, Shiozawa T, Ishida J, Kano S, Ohashi A, Ishikawa S, Yamaguchi T, Yoshioka M, Shimamura K.
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Journal Title
Jpn J Neuropsychopharmacol.
Volume: 31
Pages: 9-15
Peer Reviewed
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