2011 Fiscal Year Research-status Report
抗癌剤誘発有害反応発症におけるプロスタグランジンE2の役割解析と新規治療への応用
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23790598
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 浩一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40362694)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 抗癌剤誘発有害反応 / 倦怠感 / 食欲不振 / 悪心 / プロスタグランジン(PG)E2 / シクロオキシゲナーゼ(COX)-2 / シスプラチン / ドセタキセル |
Research Abstract |
癌化学療法を受ける患者の90%以上が「最もつらい有害反応」としてあげるものに、抗悪性腫瘍薬投与後に現れる悪心・嘔吐、食欲不振、疲労感がある。しかし、これらは主観的な症状であるため他者に理解されにくく、致死症状でもないため「治療に伴うものなので仕方ない」と我慢を強いることが多い。このため、患者の生活の質を著しく低下させ、治療の継続にも影響を及ぼす重大な問題になる場合がある。これまで申請者は抗悪性腫瘍薬が誘発する悪心、食欲不振、倦怠感の病態発症における腫瘍壊死因子(TNF)-aの役割を検討してきた。ところでTNF-aは脳血管内皮細胞でシクロオキシゲナーゼ(COX)-2を誘導し、プロスタグランジン(PG)E2の産生を促進する。先行研究ではPGE2の産生増加により悪心、食欲不振、倦怠感が惹起することが考えられている。そこで申請者は悪心、食欲不振、倦怠感の発症にはTNF-aが産生を誘発するPGE2が重要な役割を有していると考え、これらの情報伝達機構を標的とした新規治療法の開発を目指した。悪心や倦怠感を訴える患者は(1)自発行動の低下、(2)食欲不振、(3)意欲の低下が見られる。そこで、行動量測定用テレメトリー発信器を埋込んだラット、マウスに抗悪性腫瘍薬を投与し、その後の自発行動量、摂餌量、ランニングホイールの回転数を測定し、結果から症状発症における病態的特徴を確認して病態モデル動物を作成するとともに、COX-2阻害剤のセレコキシブが病態発症にどのような影響を与えるかについても検討した。さらに、いずれの脳部位が病態発症に関わるのか特定するため、抗悪性腫瘍薬投与4時間後の脳を摘出し、組織切片を作成して神経活動のマーカーとして頻用されるc-fos遺伝子産生タンパク(Fosタンパク)を確認した。なお、使用した抗悪性腫瘍薬は悪心や倦怠感が惹起しやすいシスプラチンとドセタキセルとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスを個別ケージにて飼育し、抗悪性腫瘍薬(シスプラチン 10mg/kg, ドセタキセル30mg/kg)腹腔内投与後24時間の摂餌量ならびに投与後12時間のケージ内自発行動量・ランニングホイールの回転数を測定した。加えて、抗悪性腫瘍薬投与4時間後に摂食中枢の視床下部外側野(LHA)と情動中枢の扁桃体中心核(CeA)の神経活動をFosタンパクの免疫組織化学染色法によって評価した。またセレコキシブ(30mg/kg)を抗悪性腫瘍薬処置10分前に経口投与し、上記の行動指標およびFosタンパク発現について同様の解析を行った。その結果、2種類の抗悪性腫瘍薬いずれも摂餌量、自発行動量、ランニングホイールの回転数を低下させた。また、Fosタンパク発現量はLHAでは減少し、CeAでは増加することが観察された。一方、セレコキシブはドセタキセルによって誘発される摂餌量および自発行動量、Fosタンパク発現量の変化を抑制したが、シスプラチンによって誘発された変化に対しては効果が無かった。これより(1)ドセタキセル投与により生じる食欲不振や自発行動量の低下にはCOX-2が関与しており、癌治療関連倦怠感の予防にセレコキシブが有用であること、(2)抗悪性腫瘍薬の違いによって倦怠感の発症機構が異なることが明らかとなった。現在、マイクロダイアリシス法とELISAを組み合わせ、抗悪性腫瘍薬投与がPGE2産生動態にどのような影響を与えるか検討しているところである。購入計画していた脳波測定用テレメトリーシステムが販売されなかったため、実験計画や予算使用計画は変更を余儀なくされたが、当初の平成23年度の研究実施計画は概ね遂行できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の結果を受け、平成24年度は視床下部外側野(LHA)と扁桃体中心核(CeA)、延髄孤束核(NTS)に対して、マイクロダイアリシス法とELISAを組み合わせ、抗悪性腫瘍薬投与がPGE2 とcAMP産生動態にどのような影響を与えるか検討する実験を行う。PGE2 /cAMP産生増加、PKA活性化とそれに続くCREB転写活性の増加によって、生体ではTNF-a・IL-1bなどのサイトカインやサブスタンスP、神経ペプチドY、プロオピオメラノコルチンが増加することが知られている。申請者はこれまでの予備実験において、抗悪性腫瘍薬を投与すると脳内で上記サイトカインや神経ペプチドの遺伝子発現に変化が生じることを見いだしている。このため、マイクロダイアリシス法を用いて悪心、食欲不振、倦怠感の惹起とサイトカインや神経ペプチドの産生動態との連関について検討する。また、PKA阻害作用を有するKT-5720やH89、デコイ型核酸医薬を倦怠感モデル動物に投与した場合、病態発症にどのような影響を及ぼすか検討を加える。さらに、当初平成25年度に実施する計画だった担癌マウス作成実験を平成24年度から開始し、病態発症の原因が「抗癌剤によるもの」と、「腫瘍によるもの」のいずれが重要か行動薬理学的、分子生物学的手法を用いて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は行動薬理実験や免疫組織化学染色実験など所属研究室に現有する装置や設備を用いて実験を行ったことに加えて、購入を計画していた脳波測定用テレメトリーシステムが販売されなかったことから、研究費の一部を平成24年度に繰り越して使用することになった。平成24年度に実施を計画しているマイクロダイアリシス法を用いたサイトカイン/神経ペプチド動態解析実験は所属研究室に現有する装置のみで実験可能だと当初は考えていたが、この装置だけではうまく回収できないなど技術的な問題があることがわかった。最近開発・市販されたサイトカイン/神経ペプチド回収装置を購入して、現有装置に組み込むことで効率よく実験できることがわかったため、この装置を購入して実験を実施する予定である。また、担癌マウスを用いた実験において、分子生物学的検討を効率よく行うため、サーマルサイクラーを購入して実験を行う。PKA阻害作用のある試薬やデコイ型核酸は高価であるため、これら試薬の購入するためにも研究費を使用する予定である。
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