2012 Fiscal Year Research-status Report
抗癌剤誘発有害反応発症におけるプロスタグランジンE2の役割解析と新規治療への応用
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23790598
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 浩一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40362694)
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Keywords | 抗癌剤誘発有害反応 / 倦怠感 / 食欲不振 / 悪心・嘔吐 / サブスタンスP / 腫瘍壊死因子(TNF)-α / シスプラチン / プロスタグランジン(PG)E2 |
Research Abstract |
癌化学療法を受ける患者の90%以上が「つらい有害反応」としてあげるものに、抗悪性腫瘍薬投与後に現れる悪心・嘔吐、食欲不振、疲労感がある。これらは主観的な症状であるため他者に理解されにくく、致死症状でもないため我慢を強いられることが多い。このため、患者の生活の質は著しく低下し、時には治療の継続にも影響を及ぼす場合がある。 これまで申請者は抗悪性腫瘍薬が誘発する悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感の病態発症における腫瘍壊死因子(TNF)-aの役割を検討してきた。ところでTNF-aは脳血管内皮細胞でシクロオキシゲナーゼ(COX)-2を誘導し、プロスタグランジン(PG)E2の産生を促進するが、過剰産生されたPGE2は神経細胞内で神経ペプチドのサブスタンスP(SP)の産生を誘導する。事実、抗炎症薬のステロイド剤やSPの受容体遮断薬(NK1受容体遮断薬)は抗悪性腫瘍薬が誘発する悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感を抑制する作用がある。そこで申請者は悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感の発症にはPGE2に加えてSPも重要な役割を有していると考え、抗悪性腫瘍薬投与後のSPの生体内動態を明らかにすることを目指した。 ラット脳内にSP回収用のプローブを留置し、抗悪性腫瘍薬のシスプラチン投与前後のSP遊離動態を測定するとともに、ステロイド剤のデキサメタゾンや制吐薬のグラニセトロンがSP遊離にどのような影響を与えるかについても検討した。その結果、SP遊離量はシスプラチン投与から20時間後以降に有意に増加し、この遊離増加はデキサメタゾンやグラニセトロンによって抑制できた。シスプラチンによる悪心・嘔吐は投与すぐに現れる急性期と20時間後以降に現れる遅発期に分けられるが、今回得られた知見から、遅発期の悪心・嘔吐の発症には、これまで申請者が研究を進めてきたTNF-a-PGE2-SPの経路が関わることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
抗癌剤投与後に産生増加したPGE2は脳内EP2受容体を介してPKA活性化とそれに続くCREB転写活性の増加を促し、サブスタンスP(SP)などの神経ペプチドを産生する。このSPが最終的に病態発症に起因すると考えられるが、脳内におけるSP産生動態は不明な点が多い。そこで、マイクロダイアリシス法(MD)とELISAを組み合わせ、抗癌剤がSP遊離動態にどのような影響を与えるか検討した。通常MDによる実験は回収率低下が原因のため6時間程度で終了することが一般的である。しかし、本研究ではプローブに特徴を持たせているため36時間まで回収することができた。このプローブで回収したサンプル中のSPをELISA法により測定した結果、SPは抗癌剤投与から20時間後に遊離増加した。通常、抗癌剤による悪心・嘔吐、倦怠感は投与後すぐに表れる急性期と、投与から20時間以降に現れる遅発期に分別されるが、遅発期の症状は原因が不明のままで治療法が確立できていないのが現状である。今回、得られた結果から、遅発期の悪心・嘔吐、倦怠感の治療薬のターゲットとして、PGE2に加えてSPもなり得ることが判明した。 抗癌剤によるPGE2産生には腫瘍壊死因子(TNF)-aが介在することが知られている。平成24年度は抗癌剤によるTNF-a産生経路を明らかにする研究も実施した。その結果、抗癌剤は免疫担当細胞の1つであるマクロファージ内でERK、p38MAPK系などの細胞内情報伝達系を活性化させることでTNF-aを産生増加させることが明らかになった。 担癌マウス作成実験を平成24年度から開始し、病態発症の原因が「抗癌剤によるもの」と、「腫瘍によるもの」のいずれが重要か検討を行った。その結果、腫瘍成長を抑制すると病態発症も抑制できることを見いだした。以上、一連の実験結果から平成24年度の研究実施計画は概ね遂行できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の結果を受け、抗癌剤によるPKA/CREBの活性化にともなうサイトカインや神経ペプチドY、プロオピオメラノコルチンなどの神経ペプチドの産生動態をELISA法で確認し、PKA阻害作用を有するKT-5720やH89、デコイ型核酸医薬を悪心・倦怠感モデル動物に投与した場合、症状発症に影響を及ぼすか否か検討加える。また、この病態発症におけるプロスタグランジンE2合成酵素(PGES)の役割を酵素阻害剤を用いて確認し、治療薬のターゲットになり得るか否か検討する。 さらに、平成24年度から実施した担癌マウス作成実験を発展させ、担癌実験動物の病態発症の原因を分子生物学的手法を用いて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初購入を計画していた脳波測定用テレメトリーシステムが販売されなかったことから、研究費の一部が繰り越して使用することになっているが、平成24年度に購入して研究に供したサイトカイン/神経ペプチド回収装置を申請者が所有している装置類に組み込むことで効率よく実験することができた。今年度もこの装置を追加購入して実験実施のスピードアップを図る。本年度実験に使用する予定の薬剤や、神経ペプチドの産生動態測定するため回収プローブ、ELISAキットなどの消耗品類はいずれも高価であるため、本年度の予算で購入する。また、動物の倦怠感を測定・判定するための計測装置を有しているが、さらに感度良く計測できるように改良を重ねている。今年度、この装置を購入して担癌動物実験を実施し、担癌実験動物の病態発症の原因を薬理学手法を用いて検討する。
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