2012 Fiscal Year Research-status Report
腎不全患者で頻発する薬剤性横紋筋融解症の発症機構の解明と薬物適正使用法の確立
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23790607
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
辻本 雅之 京都薬科大学, 薬学部, 講師 (90372739)
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Keywords | 末期腎不全患者 / 有害事象 / CYP3A4 / OATP1B1 / スタチン / 横紋筋融解症 |
Research Abstract |
腎機能の廃絶した末期腎不全患者において、多くの薬剤服用による重篤な有害事象が報告されている。特に、高脂血症治療薬であるスタチン類による横紋筋融解症の顕在化が有名である。この有害事象増強の原因として、スタチンの血中濃度上昇が一つの原因として考えられるが、スタチンは肝消失型薬剤が多く、腎障害時に血中濃度が変動しないはずである。昨年度に、そのメカニズムの一つとして、末期腎不全患者ではスタチンの代謝酵素の一つであるCYP3A4が機能低下している可能性について指摘した。 ただし、CYP3A4の機能低下のみではスタチンによる横紋筋融解症の発症を十分に説明することが出来ない。そこで本年度は、1.腎障害時におけるスタチンの肝取り込みに関与する有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1の機能低下、2.腎障害時におけるスタチンの横紋筋感受性の亢進の2点に着目して検討を加えた。 高濃度の尿毒症物質は、OATP1B1機能を有意に阻害した。しかしながら、その阻害は、生体内を反映する尿毒症物質の遊離型濃度では十分な阻害効果が認められなかった。一方で、より生体内を反映するように行った、アルブミン(3.8 g/dL)を添加した実験において、4種の尿毒症物質の混合がOATP1B1機能を有意に阻害した。さらに重要なことに、この阻害の程度は、健常者血清成分を添加することで増強した。すなわち、末期腎不全患者において蓄積した尿毒症物質は、自身がOATP1B1阻害活性を有するだけでなく、生体内成分のOATP1B1阻害活性を増強する可能性を示唆している。 また、これら尿毒症物質は、スタチンによる横紋筋毒性アポトーシスの亢進を伴い増強すること、その毒性増強は、メバロン酸の補給により完全に回復することを明らかにした。すなわち、尿毒症物質は、スタチン処置時のメバロン酸生成阻害効果を増強していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まず昨年度見いだした、末期腎不全患者血清によるCYP3A4機能低下メカニズムの解明を行った。その結果、末期腎不全患者では活性化ビタミンDの不足により、核内受容体VDRの機能不全が起きていること、並びに、尿毒症物質の蓄積が、同じくVDRの機能障害を引き起こすことを明らかにした。この結果は、昨年度に目標とした通りに、英語論文としてまとめており、現在、投稿中である。 また、本年度は、CYP3A4の基質以外のスタチンの血中濃度上昇メカニズムとして、肝取り込みトランスポーターであるOATP1B1に着目して検討を行った。その結果、末期腎不全患者血清中には、OATP1B1を阻害する物質が蓄積していることを明らかにした。また、これは典型的な4種の尿毒症物質であることを突き止めただけでなく、生体内に存在するOATP1B1阻害物質の効果を尿毒症物質が増強する可能性も示唆している。このように、OATP1B1に関するメカニズムの解明等に多くの時間を費やした。なお、この検討結果に関しては、日本薬学会にて優秀演題賞に輝くなどの評価を受けている。 また、申請当初から、最も疑っていた尿毒症物質が横紋筋細胞へのスタチンの感受性を高める可能性についても順調に検討が進んでいる。本年度は、そのメカニズムとして、ある種の尿毒症物質が、スタチンの薬理作用であるHMG-CoA還元酵素阻害活性を増強し、アポトーシスを誘導する事実を突き止めている。以上のような研究成果を挙げていることからも分かる通りに、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果を受けて、まず、尿毒症物質の蓄積により増強される、OATP1B1を阻害する内因性物質を明らかにしたい。具体的には、コール酸などの胆汁酸、ビリルビンなどを想定している。また、そのメカニズムとして、OATP1B1の阻害を相加的・相乗的に阻害している可能性だけでなく、タンパク結合率の高い尿毒症物質とタンパク結合率の高い内因性物質によるタンパク結合置換も含んだ複雑なメカニズムを想定している。このようなメカニズムが明らかになった時点で、速やかに英文による学術雑誌への投稿を考える。 一方、横紋筋細胞におけるスタチンの感受性増強に関しては、尿毒症物質で処置された横紋筋細胞において、スタチン処置前後におけるメバロン酸量の定量を試み、直接的にHMG-CoA還元酵素活性を評価することを試みる。また同時に、この条件下において、細胞内pHの変化や乳酸の蓄積などが生じていないかについても、検討を加えたいと考えている。本研究に関しても、これらメカニズムが明らかになった時点で、速やかに英文による学術雑誌への投稿を考える。また、同時に腎不全患者では、近年、尿毒症物質が蓄積することだけでなく、バイオメタルと呼ばれる金属原子の蓄積・減少が報告されている。これまでは尿毒症物質の蓄積に着目した検討のみだったが、今後は、これらバイオメタルの変動に着目した検討も進めて行く予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の検討では、OATP1B1発現細胞を含む培養細胞に関わる経費、アポトーシス・細胞障害性を評価する実験系に関連する経費、メバロン酸の定量(LC-MS/MSを想定)に関わる経費、種々薬剤の定量に関わる経費(HPLC-UV/蛍光を想定)、横紋筋細胞の変容を評価するための遺伝子解析(mRNAの評価、蛋白発現評価、マイクロアレイ評価など)に経費がかかることを想定している。 一方で、既に示している通りに、研究成果の発表を行うことも重要な責務であると考えており、関連学会である日本腎臓病薬物療法学会や日本薬学会などにおける学会発表も視野に入れており、その旅費としても計上する予定である。また、既に投稿中の論文を含めて、研究成果については、速やかに英語論文としてまとめて学術雑誌への投稿を考えており、その際の英文校正における謝金としても使用させて頂く予定である。
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Research Products
(5 results)