2011 Fiscal Year Research-status Report
革新的イオン化法を用いた質量分析型がん診断装置の開発
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23790619
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
吉村 健太郎 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (70516921)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | がん診断 / 質量分析 / 大気圧 / エレクトロスプレー / ベイズ統計学 |
Research Abstract |
本研究では、試料の前処理無く、大気圧下で利用可能な探針エレクトロスプレー(PESI)法を用いた質量分析による、新たながん診断法を確立することを目的とする。本法では、得られたマススペクトルパタン全体を捉え、これにベイズ理論を応用したアルゴリズムを適用して診断を行うため、従前の質量分析を利用したがん診断法のように、腫瘍マーカーの検出を必要としない。これにより、一度診断法が確立すると、あらゆる種類のがんに適応が可能である。 生きたマウス、摘出した種々のヒト組織を対象に測定を行った結果、脂質を最も効率良く検出できることが明らかとなった。さらに、スマススペクトルの検出に最適な条件の検討を行った結果、検体表面に50%エタノールを滴下することで、脂質の検出感度が劇的に向上することが判明した。これまでに、腎臓、肝臓、乳腺、リンパ節、膵臓、胆嚢、種々の消化器粘膜を対象に測定を行ったが、何れからも良好な脂質成分のマススペクトルが得られた。さらに、一般に測定が困難であると考えられていた皮膚からも、スペクトルを取得することに成功した。 現在、がん診断アルゴリズムを構築するために、複数検体のマススペクトル収集を進めている。これまでに、30検体のヒト腎細胞がん、20検体のヒト肝細胞がん、30検体のリンパ節を対象に測定を行い、約2000から成るスペクトルデータセットを構築した。このデータベースを用いて、ベイズ理論に基づく学習機械による盲験データの診断を行った結果、病理診断結果と100%一致するがん診断を下せることが明らかとなった。 現在、測定対象とするがん種とその検体数をさらに増やし、がん診断アルゴリズムによる診断正確性の向上を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
一般に、大気圧下におけるイオン化法を用いた質量分析では、各試料ごとに測定条件を工夫する必要がある。一方、本システムでは電圧や溶媒条件を詳細に検討することで、同一条件であらゆる生体組織から、脂質のマススペクトルを検出することに成功しており、これは、他のイオン化法を用いた質量分析には無い大きな利点である。 これまでに、種々の生体試料を測定し、得られたマススペクトルデータを診断アルゴリズムに入力するためのデータ処理法を確立した。腎細胞がん、肝細胞がんに於いては、既に本診断アルゴリズムを用いたがん診断に成功しており、その精度も実用化に近いものである。これまでの進捗状況を見ると、今後は当初の計画を超えた検体数、多種のがんのスペクトルデータが収集可能な見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度はマススペクトル検出条件の検討が非常に順調に進み、その分、生体試料の実測定に多くの時間を用いることができ、結果として予想を超えた進展が見られた。しかし、これまでは脂質の測定で診断が可能ながんを対象としていたため、他の生体成分の検出は不要であったが、今後は低分子化合物、糖質などを対象に測定を行うことで、さらに多くのがん種に対する診断が可能となる。24年度は、既に診断に成功した腎細胞がん、肝細胞がんの測定検体数を増やすことで、診断の正確性を向上させると供に、脂質以外の生体成分の検出を試みることで、多種のがんに適応できる診断アルゴリズムの構築を目指す。 これまでに、多くのデータが収集され、その管理や取り扱いに多くの時間が必要な状況となっている。データ管理の自動化を行うプログラムや、データのエクスポートやソーティングを補助する要員を確保し、今後の研究の推進を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脂質以外の生体成分の検出条件を検討する必要が発生したため、消耗品に係る研究費は初年度より大幅に増加する見込みである。また、探針を駆動させるアクチュエータ、質量分析機の検出器孔を交換する必要があるため、それに50万円程を要する。今後、アルゴリズム構築が本格化すると、協力先である早稲田大学への出張や、多くの検体を収集するために外部の病院の協力を得る必要があり、その打ち合わせや、検体受け取りに係る旅費が必要である。これまでの研究成果を国内外の学会で発表するためにも旅費を要する。さらに、膨大なデータの管理や取り扱いを補助する要員の確保が必須であるために、人件費、謝金に係る費用も多く必要となる。以上の事項に関して、初年度より引き継いだ研究費を合わせて工面し対応する。
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