2011 Fiscal Year Research-status Report
In vivoパッチクランプ法を用いた脊髄掻痒シナプス伝達機構の解析
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23790652
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
歌 大介 生理学研究所, 生体情報研究系, 特任助教 (70598416)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 痒み / in vivo patch clamp / セロトニン / 膠様質細胞 / シナプス伝達 / 痛み / 脊髄 |
Research Abstract |
時に痒みは痛み以上に耐え難い感覚であるにもかかわらず、痛みに比べ脊髄における痒み情報の伝達の詳細は不明なことが多い。そこで、感覚情報の入り口である脊髄後角からのin vivoパッチクランプ法を用い、皮膚への痒み刺激により誘起されるシナプス応答を詳細な解析を行った。まず、起掻物質であるセロトニンを皮膚へ塗布しその効果を行動薬理学的に検討した。その結果、セロトニン塗布により長時間続く痒み行動が見られたが、痛み行動はほとんど見られなかった。次いで、パッチクランプ法を用いて-70mVの電位固定下に脊髄表層から記録すると、自発性の興奮性シナプス後電流(EPSC)が誘起された。皮膚へ生理的刺激を行い受容野を特定し、セロトニンを塗布すると約30%の膠様質細胞において振幅の大きな自発性EPSCの発生頻度が著明に増大した。更に、この応答は数十分にわたって持続した。この結果は行動薬理的実験で得られたものと一致した。セロトニンに応答した細胞で、電位依存性Naチャネルの阻害薬であるテトロドトキシンを脊髄表面に灌流投与するとセロトニンにより誘起された振幅の大きな自発性EPSCの増加は完全に抑制された。続いてグルタミン酸AMPA受容体の拮抗薬であるCNQXを同様に投与すると自発性EPSCは完全に抑制された。以上のことから、皮膚へのセロトニン投与によって痒み行動が誘発されること、末梢で発生した活動電位が膠様質細胞にシナプス入力し振幅の大きなEPSCの頻度を著明に増加させることが示唆された。これら脊髄におけるシナプス応答の詳細な報告は現在までになく、今後痒みのシナプス伝達機構の解明に非常に重要な結果であると思われる。尚これらの研究結果は、2011年に開催された北米神経科学会、日本神経科学会、日本生理学会など国内外の学会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、起掻物質であるセロトニンの皮膚投与によって皮内注射同様に痒み行動が誘発されることを示した。更に、in vivoパッチクランプ法を用いた実験ではセロトニンの皮膚投与によって一部の脊髄後角細胞で興奮性のシナプス応答が著明に増大することを示し、この増強効果が行動薬理学的実験で得られた結果同様に数十分持続することを見出した。次いで、記録した細胞の場所を調べると、セロトニンに応答した細胞は応答しなかった細胞に比べ有意に浅い層に分布していることが分かった。以上の結果から、皮膚へのセロトニン投与によって痒み行動が誘発されること、末梢で発生した活動電位が脊髄の表層の細胞にシナプス入力し振幅の大きなEPSCの頻度を著明に増加させることを示した。これらの結果は、北米神経科学会、日本神経科学会、日本生理学会などで報告した。現在は、脊髄表面に各種TRP受容体の作動薬をテトロドトキシン存在下に投与し、微小興奮性シナプス応答の発生頻度と振幅の変化を記録・解析し、発生頻度の増大を指標に、セロトニンに応答した細胞に入力する末梢神経の種類を同定する研究を行っている。以上のことから、おおむね研究計画通りに研究が出来ていることから順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在行っている、セロトニンに応答した細胞に入力する末梢神経の種類を同定する研究を進め脊髄における痒みの伝達機構の詳細を調べていく。更に、セロトニンに応答した細胞と応答しなかった細胞の特徴を調べるために細胞の位置、発火パターンなどの電気生理学的特性の解析などを行う予定である。次いで、応答した細胞と応答しなかった細胞がどのような生理的刺激に応答したかも併せて解析し痒みと痛みの情報伝達機構の違いなどを調べていく。最後に、期間内に可能であれば痒み刺激に応答するニューロンの形態的特徴を調べる。記録電極にneurobiotinを添加し実験を行い、痒みニューロンを染色し、その形態から膠様質細胞のislet, vertical, small islet, radialなどどのタイプのニューロンであるか、その軸索の投射部位を明らかにする。行動薬理学的解析・電気生理学的解析・組織学的解析を行い、脊髄掻痒シナプス伝達を担う基盤神経回路の同定と情報処理機構の全容を明らかにすることを目的とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品は、細胞外液、細胞内液といった溶液や痒み誘発物質などを常に使用することから試薬品を購入する経費が必要である。また本研究では動物を使用し行動薬理学的実験や電気生理学的実験を行う事からその購入経費も必要である。シナプス応答の記録に必須なパッチ電極などを消耗品として購入する予定である。電気生理学的実験から得られたデータを解析するために必要な装置とソフトウエアを購入予定である。また、本研究で得られた結果を国内外の学会で積極的に発表し、最終的には科学誌に投稿することで社会に発信していく計画である。
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