2011 Fiscal Year Research-status Report
モルヒネの効かない癌疼痛進展に対するケモカインの関与:腹膜播種モデルを用いて
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23790654
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
鈴木 雅美 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 特任研究員 (80434182)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 疼痛 / モルヒネ抵抗性 / 腹膜播種 |
Research Abstract |
胃癌細胞の腹腔内移植により、移植後4週目で、ほぼ100%の確率で腹膜播種が形成される条件をIVISイメージング法により確立した。これらの動物を用いて疼痛評価を行ったところ、対照群と比較して有意な疼痛行動が認められた。疼痛行動が認められたマウスの脊髄後根神経節を摘出し、mu-opioid receptor(MOR)ならびにsubstance P(SP)の遺伝子発現量の変化を解析した。その結果、対照群と比較して腹膜播種群において、MOR mRNAの有意な減少とSP mRNAの著明な増加が認められた。一般にMORは、SPなどの一次求心性神経末端に局在し、これらの疼痛関連物質の遊離を抑制することにより鎮痛作用を示す。そこで、脊髄後根神経節のMORおよびSP陽性細胞数をカウントしたところ、対照群では約70%のSP陽性細胞上にMORが発現しているのに対し、腹膜播種群では、MOR陽性のSP陽性細胞数がSP陽性細胞全体の約40%にまで減少していた。次に腹膜播種疼痛モデルに対するモルヒネの効果を解析したところ、急性膵炎疼痛モデルの疼痛行動をほぼ完全に抑制するモルヒネの用量では50%の鎮痛効果しか示さず、高用量のモルヒネを投与しても鎮痛効果の頭打ちが認められた。さらにこれらのマウスにSP受容体拮抗薬を髄腔内投与したところ、疼痛行動は有意に抑制された。以上のことから、がんの腹膜播種に伴う腹痛には、SPの発現増加が関与していることが考えられ、このような痛みにはSP受容体拮抗薬が有効である可能性が示唆された。また、腹膜播種病態下ではモルヒネの受容体の発現が著しく減少していることから、臨床において、モルヒネを増量してもさらなる効果が認められないこと、さらには消化器症状を訴える腹膜播種の患者に便秘などの副作用を持つモルヒネを高用量で使用することは、控えるべきであることを強く提唱できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、オピオイド受容体の機能低下と疼痛の増悪が混在する病態、いわゆるモルヒネの効きにくいがん疼痛の克服である。23 年度は、臨床像に類似した胃癌の腹膜播種疼痛モデルの病態解析を行うことにより、モルヒネ抵抗性のメカニズムを明らかにするともに、モルヒネで改善されない痛みには、SP 受容体拮抗薬が有効である可能性を見出すことができた。さらに、in vitro の実験では、本研究で用いた低分化型胃癌細胞に対して、SP 受容体拮抗薬が、抗がん剤であるドセタキセルの抗腫瘍作用を増強させることも明らかにしている。現在臨床では、抗がん剤の制吐薬として SP 受容体拮抗薬のアプレピタントが用いられているが、アプレピタントの積極的な使用は、モルヒネ抵抗性の痛みを緩和し、かつ、がんの進展を抑制する可能性も考えられることから、がんの治療早期からの使用に有用性が高く、臨床的にも意義深い知見であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に記載したケモカインシグナルの関与の解析については、腹膜播種疼痛モデルマウスの脊髄ならびに脊髄後根神経節の各種ケモカインならびにその受容体の発現変化を解析したところ、いずれも対照群と比較し大きな変化は認められなかった。これらのことから、中枢神経レベルでは、腹膜播種に伴う痛みに対してケモカインシグナルは関与してない可能性が考えられる。しかしながら、腸間膜ならびに腸管に浸潤した腫瘍の凍結切片では、腸管神経が腫瘍内に遊走している画像が捉えられたことから、ケモカインシグナルは、中枢ではなく、がんによる末梢神経損傷に直接的に関与している可能性が考えられる。そこで 24年度は、腹膜播種モデルマウスの腹腔内に局在する末梢神経におけるケモカインシグナルについて解析を進める。また、腹膜播種病態下における中枢神経の MOR の機能低下のメカニズムを明らかにし、モルヒネが効きにくい痛みとなる環境の成因を抑制できる疼痛緩和薬の探索もあわせて行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の特色は、臨床像に類似した胃癌の腹膜播種モデルを作製し、それを用いてモルヒネ抵抗性のメカニズムを解明したこと、ならびに腹膜播種による神経障害時の病態を直接的に証明したことである。腹膜播種疼痛モデルは世界で初めて申請者により樹立されたものである。モデルそのものの構築、ならびにその病態解析には少なからぬ費用を計上することとなったが、本研究費をタイムリーに得ることができたことは申請者にとって大変意義深いありがたいものであった。 次年度は、がん性腹水ならびに末梢神経組織を用いたケモカインアレイや、免疫不全動物を用いたサンプル作製、その他免疫組織染色などに使用する特異的抗体の購入に研究費を充てる予定である。
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[Journal Article] Sensation of abdominal pain induced by peritoneal carcinomatosis is accompanied by changes in the expression of substance P and mu-opioid receptors in the spinal cord of mice2012
Author(s)
Suzuki M, Narita M, Hasegawa M, Furuta S, Kawamata T, Ashikawa M, Miyano K, Yanagihara K, Chiwaki F, Ochiya T, Suzuki T, Matoba M, Sasaki H, Uezono Y
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Journal Title
Anesthesiology
Volume: in press
Pages: in press
Peer Reviewed
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[Journal Article] Sleep disturbances in a neuropathic pain-like condition in the mouse are associated with altered GABAergic transmission in the cingulated cortex2011
Author(s)
Narita M, Niikura K, Nanjo-Niikura K, Narita M, Furuya M, Yamashita A, Saeki M, Matsushima Y, Imai S, Shimizu T, Asato M, Kuzumaki N, Okutsu D, Miyoshi K, Suzuki M, Tsukiyama Y et al.
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Journal Title
Pain
Volume: 152
Pages: 1358-1372
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Establishment of novel animal models of cancer cachexia by transplantation of human gastric cancer cell lines and effects of rikkunshito, a traditional Japanese medicine, on the cancer cachexia models2011
Author(s)
Terawaki K, Yanagihara K, Sawada Y, Kashiwase Y, Suzuki M, Miyano K, Sudo Y, Shiraishi S, Uezono Y
Organizer
6 th Cachexia Conference
Place of Presentation
Italy/Milan
Year and Date
2011年12月9日
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[Presentation] ラベルフリーで細胞機能をアッセイできるシステム CellKeyTM を用いた各種 GPCR, ion channel の活性評価2011
Author(s)
上園保仁, 須藤結香, 宮野加奈子, 柏瀬陽平, 澤田祐美, 寺脇 潔, 鈴木雅美, 小柳尚史, 白石成二, 樋上賀一, 西田教行
Organizer
第 64 回日本薬理学会西南部会
Place of Presentation
福岡
Year and Date
2011年11月20日
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