2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト肝癌細胞株におけるヒ素のエピジェネティクス作用を介した発癌メカニズムの解析
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23790680
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
鈴木 武博 独立行政法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 研究員 (60425494)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ヒ素 / ヒストン修飾 / P16INK4a |
Research Abstract |
ヒ素は長期間曝露で癌が発症することが知られている。ヒ素による発癌には、エピジェネティクス作用の関与が示唆されているが、そのメカニズムは十分に解明されていない。INK4b-ARF-INK4a locusから発現する癌抑制遺伝子の不活化は発癌に極めて重要であると考えられている。本研究では、ヒト細胞株を用いてINK4b-ARF-INK4a locusから発現する癌抑制遺伝子を中心に、ヒ素による発癌に関するメカニズムを詳細に検討することを目的とした。本年度は、ヒトの細胞株でヒ素曝露によりINK4b-ARF-INK4a locusの遺伝子発現が変化する条件を決定し、ヒ素で発現に変化が見られた遺伝子について、エピジェネティクス作用に着目して発現調節メカニズムを検討した。当初、ヒ素曝露によりp16INK4aが減少するという報告があったヒト肝臓癌細胞株HepG2を用いる予定であったが、報告の再現性が得られなかったため、実験計画に合致する他の細胞株の探索および曝露条件の検討から開始した。その結果、ヒト尿路上皮細胞株SV-HUC-1を5 μMの亜ヒ酸ナトリウムで48時間曝露するとp16INK4aの発現が減少することが確認できた。FACSによる細胞周期測定から、同条件のヒ素曝露でS期が増加していることを明らかにした。また、ChIP assayによりp16INK4aプロモーター領域において転写抑制型のヒストン修飾であるH3K9ジメチル化のレベルが増加していることを明らかにした。以上の結果から、ヒ素によりプロモーター領域のH3K9ジメチル化レベルが増加することでp16INK4aの発現が減少し、細胞増殖に向かう可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヒト肝臓癌細胞株HepG2をヒ素で曝露するとp16INK4aの発現が減少することがすでに報告されていたため、研究課題名にもあるように本研究においてもこの実験系を用いる予定であったが、私たちの追試では、曝露濃度、曝露時間などを変化させても、ヒ素によるp16INK4aの発現減少が観測されなかった。そのため、研究実施計画に入れていなかった、ヒ素でp16INK4aの発現が減少する細胞株の探索から研究を開始する必要性があったため、現在までの進捗状況はやや遅れている。しかし、ヒト尿路上皮細胞株SV-HUC-1において、INK4b-ARF-INK4a locusから発現する癌抑制遺伝子の発現がヒ素曝露により減少する曝露条件及び1つのヒストン修飾変化を明らかにすることができたため、今後の研究計画はおおむね順調に進展し、当初の研究成果は期待できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ヒストン修飾とDNAメチル化に着目し、p16INK4a遺伝子の発現調節メカニズムを検討する。まず、H3K9ジメチル化に加えて、代表的な抑制型ヒストン修飾であるH3K9トリメチル化、H3K27トリメチル化のプロモーター領域のレベルをChIP assayにより検討する。変化量が大きいヒストン修飾において、ヒストンメチル化酵素のリクルートを検討する。また、DNAメチル化状態もバイサルファイトシークエンスにより検討する。さらに、INK4b-ARF-INK4a locusから発現する遺伝子の発現調節には、CTCF やnoncoding RNAであるANRILの関与が示唆されているが、ヒ素がこれらの因子にどのように作用するかは不明であるため、ヒ素によるANRILやCTCFのp16INK4a遺伝子発現調節への関与を検討する。発癌におけるエピジェネティックな異常は、主に、癌抑制遺伝子プロモーター領域の高メチル化およびグローバルなDNA低メチル化(5メチルシトシン量の減少)が報告されている。癌抑制遺伝子p16INK4aのプロモーター領域のDNAメチル化については次年度検討するため、グローバルなDNAメチル化変化もLC/MSにより精密に測定する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も、本年度同様に、細胞培養やエピジェネティクス作用に着目した分子生物学的解析に試薬の消耗をともなう。私たちがこれまでに行ってきた先行研究・予備的検討における消耗品リスト並びにカタログ記載の単価をもとに、年間消費量を概算し、具体的には、細胞培養試薬(5万)、抗体(25万)、分子生物学的解析用試薬(60万)、一般試薬(20万)を使用予定である。さらに次年度は、新たにnoncoding RNAの関与の検討やLC/MSを用いた分析をおこなう予定であるため、これらの検討に30万を使用予定である。また、申請者の所属する国内の学会での成果発表、さらに関連分野の情報収集および人脈構築をおこなうため、申請者のこれまでの事例をもとに算出した旅費として10万を使用予定である。
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