2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト肝癌細胞株におけるヒ素のエピジェネティクス作用を介した発癌メカニズムの解析
Project/Area Number |
23790680
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
鈴木 武博 独立行政法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 主任研究員 (60425494)
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Keywords | ヒ素 / エピジェネティクス |
Research Abstract |
ヒ素の長期間摂取により皮膚、肺、膀胱、肝臓癌などが発症することが知られている。ヒ素による発癌には、エピジェネティック作用の関与が示唆されているが、そのメカニズムは十分に解明されていない。INK4b-ARF-INK4a locusの癌抑制遺伝子の不活化は発癌に極めて重要であると考えられている。本研究では、ヒトの細胞株を用いて、ヒ素によるINK4b-ARF-INK4a locusの癌抑制遺伝子の発現調節メカニズムをエピジェネティック作用に着目して検討することを目的とした。 当初使用する予定であったヒト肝癌細胞株においては、過去の報告と異なり、INK4b-ARF-INK4a locusの遺伝子はヒ素で発現が減少しないことが明らかとなったため、実験計画に合致する他の細胞株の探索およびヒ素曝露条件の検討から開始した。その結果、ヒト尿路上皮細胞株SV-HUC-1でp16INK4aの発現が減少するヒ素曝露条件を決定できた。FACSによる細胞周期測定から、同条件のヒ素曝露でS期が増加していることを明らかにした。p16INK4aプロモーター領域において、ヒ素によりDNAメチル化は変化しなかったが、転写抑制型のヒストン修飾であるH3K27トリメチル化のレベルが増加していることが明らかになった。それに対応して、H3K27トリメチル化酵素であるEZH2の遺伝子発現がヒ素で増加していることがわかった。一方で、ヒ素によるp16INK4aの発現低下にBMI1やCTCFは関与しなかった。また、ヒ素により、レトロトランスポゾンLINE1のORF1とORF2の発現が増加していることから、尿路上皮細胞株はヒ素によりグローバルな低メチル化状態になっていることが示唆された。以上の結果から、ヒト尿路上皮細胞ではヒ素が抑制型ヒストン修飾を誘導することによってp16INK4aの機能を抑制することが示唆された。
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