2011 Fiscal Year Research-status Report
原爆被爆者の被爆時所在地に基づくリスク評価に関する研究
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23790694
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
冨田 哲治 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (60346533)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 原爆被爆 / 空間疫学 / 生存時間解析 / リスク地図 / 直接被爆 / 付加的曝露 |
Research Abstract |
放射線被曝はがん等の罹患・死亡のリスクを高める要因であり、その影響を定量的に評価することは重要な課題である。広島原爆被爆者における、放射線を被曝したことに起因するがん罹患および死亡のリスク評価は、主に原子爆弾が炸裂時に放出された放射線による直接的な外部被曝の影響評価がほとんどであり、残留放射線による外部被曝や、放射性物質で汚染された塵や水などを体内に取り込んだことによる内部被曝など、直接被曝以外の付加的な放射線曝露の影響は評価されていないのが現状である.間接被曝に関するリスク評価がほとんど行われていない理由の一つとして、間接被曝による被曝線量を推定することは難しく、被曝線量に基づく評価法では解析することができなかったことが挙げられる。本研究では、被曝線量に基づく従来のリスク評価法に代わる新しい評価法として、被爆時所在地毎にがん等による罹患・死亡のリスクを評価する方法を開発し、広島原爆被爆者コホートデータに適用することで、新しいリスク評価法を確立した。 平成23年度は、情報量の多い死亡に関するコホートデータに対して、確立したリスク評価法に基づき解析を行い、被爆時所在地毎に推定された死亡リスクを用いて、リスクの等値線を描くことでリスクの地理分布の視覚化を行った。解析結果から、広島原爆被爆者における死亡リスクの地理分布は、爆心から離れるにつれてリスクは減少傾向にあるものの、爆心から北西地域にリスクの偏りのある円形非対称な地理分布が確認され、黒い雨などの放射性降下物による内部被曝の可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画の概要は、(1)情報量の多い死亡に関するコホートデータを用いて、新しい評価法の有効性および問題点について検討し、必要に応じて評価法の修正・改良を行っていく。(2)データベースにおいて被爆時所在地が既に電子化(座標コード化)して登録されている被爆者(主に,直接被爆者)を解析対象に,被爆時所在地毎のリスク評価を行い、地理分布の視覚化を行う.(3)解析結果に対して、線量推定・評価の専門家らと共に詳細な分析を行う.であった。まず(1)については、統計関連学会等のデータ解析の手法開発に関する学会で発表し、改善点などのコメント等をもらい、評価法の修正・改良に務めた。(2)については、追跡期間が1970年1月1日から2009年の12月31日の大規模なコホートデータに対して、提案するリスク評価法に基づくリスクの地理分布の視覚化を行った。(3)については、広島大学原爆放射線医科学研究の線量測定・評価、疫学、地理学等の専門家とともに共同研究を行い、その成果をまとめ、国内外の学術雑誌に投稿し掲載された。また、原子爆弾後障害研究会を始め疫学や公衆衛生学といった実学分野に関連した国内研究集会および国際会議で発表し、実学の専門家からコメントを頂き、より詳細な検討を行うことができた。これより、研究は当初の計画通り順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度までの研究を引き続いて行う。平成23年度は、情報量ができるだけ多くなるように全死因をエンドポイントとしたリスク評価に焦点をあて、全体的な傾向の把握に務めた。平成24年度は、より詳細な解析を行うために、死因をがんに絞って解析する.ただし、白血病は放射線曝露から罹患に至るまでの時間が他のがんに比べて短いことが知られており、白血病を除く固形がんに関するリスク評価を行う。まず、共同利用研究を行っている広島大学原爆放射線医科学研究所の管理する広島原爆被爆者データベース(ABS)から、固形がん死亡リスクの解析のためのコホート集団を設定・抽出する。平成23年度と同様に、基本的な背景要因(性別、年齢など)を考慮したリスク地図の作成を行い、がん死亡リスクの地理分布の視覚化を行う(以下、これを地図1と呼ぶ)。次に、ABS93DとよばれるDS86に準拠した線量評価方式に基づく被爆線量の推定値を用いて解析を行い、地図1から直接被爆(原子爆弾が炸裂時に放出されたガンマ線および中性子線による直接的な外部被曝)のリスクへの影響を調整することで、直接被爆では説明できないがん死亡リスクの地理分布の視覚化を行う(以下、これを地図2とよぶ)。この際、線量効果係数の推定は、Tonda, Satoh, Otani et al. (2012, Radiation and Environmental Biophysics)と同様な多段階仮設に基づく発がんの数理モデルに基づき行う。地図1と地図2を比較し、直接被爆では説明できないリスクの原因として考えられている付加的な放射線曝露(放射性降下物を含んだ黒い雨、誘導放射線、内部被曝など)との関係について、広島大学原爆放射線医科学研究所の管理する原爆被爆関連図書などの資料や、広島市などが行った黒い雨の降雨領域に関するアンケート調査などの結果を参考に検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度に引き続き円滑に研究を進めるために、平成24年度は研究費の使用計画は以下のとおりである。消耗品費として、研究に関連した数理統計関連図書や原爆被爆関連図書等の購入費、効率的に研究を遂行するためのソフトウェアを適宜購入するためのユーティリティソフト費、被爆時所在地の電子化作業のためのGISソフトウェアおよび統計解析ソフトの機能追加パッケージのための専門ソフト費、国内外で成果発表するためのノートパソコンの購入を計画している。旅費として、研究に関する情報を収集するための国内旅費および研究成果を発表するための国内旅費および外国旅費を計画している。
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Research Products
(11 results)