2011 Fiscal Year Research-status Report
血清NAG活性は総死亡、特に脳心血管死の予測因子となるかの前向き疫学研究
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23790713
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
吉川 邦子 久留米大学, 医学部, 助教 (60569391)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 社会医学 |
Research Abstract |
NAGとはN-acetyl-β-D-glucosaminidaseの略で、リソゾーム中に含まれる加水分解酵素の非還元性のglucosidaseの一種である。NAGは、体内組織に広く分布し、血管内皮にも分布している。NAGの分子量は推定12万と比較的大きいため、血清中のNAGは通常尿中にはほとんど排泄されず、腎尿細管や糸球体障害で尿中に出現する。そのため、尿中NAG活性は腎病変の早期発見に有用なマーカーとして知られている。血清NAG活性は高血圧、糖尿病、腎疾患、インスリン抵抗性と関連するという報告があるが、血清NAG活性に関する疫学的意義や臨床指標はまだ確立していない。特に一般住民を対象とした大規模な前向き疫学研究の報告は、本邦だけでなく欧米においても皆無である。そこで、1982年の検診時に、1080人の一般住民に対し血清NAG活性を測定した。横断研究の結果、血清NAG活性値の分布には性差を認めなかったが、年齢とともに増加し、血圧、総コレステロール、HDLコレステロール、尿酸、肥満、ヘマトクリット値と正に関連することを認め報告した。また、7年後の1989年に行なった再検診の結果、ベースライン時に血清NAG活性が高値を示した正常血圧者は、将来高血圧に進展する頻度が高いことも認めた。さらに、この研究は約30年にわたる予後調査の結果を基に、動脈硬化と関連のある血清NAG活性が総死亡、特に脳・心血管病死の予測因子となり得るか否かを明らかにするための疫学研究である。1070人すべてに脳・心血管疾患の予後調査を行い、今年度調査を終えることができたため、データ整理および収集し、今後解析を行ってい、今研究課題を一層深めていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究を遂行する上で、住民検診を行うこと及び予後調査を行うことは欠かせないことである。まず、この検診を効果的に行うために、田主丸町および宇久町の住民課や健康対策課の協力が必要である。我々は両町の依頼に応え健康教室を行っており、依頼があれば今後も行っていく予定である。宇久町検診に関しては、毎年検診前日に宇久町住民課の依頼により、これまでの検診を受けた住民やこれから検診予定の住民を対象に検診の説明会と健康教室を行っている。次に、予後調査を行うために、住民課だけでなく、久留米市医師会および佐世保市医師会の協力も必要である。我々はすでにこれまで久留米市医師会にて田主丸検診の結果を公表し、講演会を行った。さらに、区長会議にも参加し、検診や予後調査の意義、生活習慣病などについての説明の場を設けるよう務めている。さらに、各地区の区長とは綿密に連絡を取り合い、区長から住民に呼びかけてもらい、公民館などで予後調査を実施している。このように、我々は地域に密着した検診を目指しており、検診および予後調査の協力を得やすい体制を整えている。そのため、予後調査を速やかに行えたことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
昭和57年(1982年)の田主丸検診において血清NAG活性を測定した1080名に対し、生死を含めた現在の健康状態の予後調査を行う。さらに毎年夏に行っている宇久町検診ではこれまでの検診受診者の再検診を行う。縦断研究に関しては、予後調査から血清NAG活性値と総死亡との関連を検討する。漁村である宇久町検診のデータを用い、肥満度・血圧などの身体変量、糖代謝、脂質代謝、および高感度CRP・フィブリノーゲン・PAI-1といった炎症および血管内皮機能障害を示すマーカーとNAG活性値との関連を解析し、農村である田主丸町のデータと比較し、本邦の中でも血清NAG活性が及ぼす脳心血管疾患への影響が漁村と農村で異なるものかも併せて検討する。これらの研究から得られた結果により血清NAG活性と総死亡、特に脳心血管疾患死との関連について学会発表を行うとともに学術論文を作成し、疫学的に確かめられたエビデンスとして報告する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度予後調査が完了したため、次年度の計画は、解析:宇久町検診にて血清NAG活性のサンプル数を増やすことにより、解析を行う上でより関連性が深まることが予測される。さらに、農村地区である田主丸町と漁村地区である宇久町の2地区において生活習慣の相違が血清NAG活性値との関連に果たして影響しているのか否かを様々な統計手法により分析する。発表・論文作成:横断研究および縦断研究から得られた結果により血清NAG活性との関連について学会発表を行うとともに学術論文を作成し、疫学的に確かめられた有意義なエビデンスとして報告する。
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