2011 Fiscal Year Research-status Report
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23790824
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
山崎 博 久留米大学, 医学部, 助教 (20529565)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
LCAP(Leukocyte apheresis)は日本発の治療法で、従来の薬物療法とは全くことなるコンセプトの治療法であり副作用もほとんどなく炎症性腸疾患(IBD)の治療として広く用いられている。しかし作用機序には不明な点も多い。本研究の最終目的は、LCAP作用メカニズムの解析によるIBDの病態の解明とLCAPの作用機序に関わるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)自体の治療応用の可能性について検討を行うことである。まず初年度は, 慢性腸炎モデルであるHLA-B27 transgenic ratを用いて、ヒトと同様な複数回のLCAP施行し有効性を確認した。その結果LCAPは、大腸炎のみならず、関節炎に対しての有効性も確認できた。次に本モデルでの大腸での内視鏡所見、粘膜血流量、組織所見、組織でのTNF-αの発現を検討した。その結果、LCAP群の内視鏡所見、組織所見、TNF-α mRNAの発現はsham群に比べ有意に改善した。LCAP群では、大腸炎により低下した腸粘膜血流の改善がみられた。またLCAP群で、大腸炎により低下した末梢血単核球から産生されるCGRPの著明な改善を認めた。さらに腸粘膜血流とCGRPは有意な正の相関を認めており、腸粘膜血流はCGRPにより調節されていることが示唆された。LCAP群の造血幹細胞数はsham群に比べ有意に増加した。また正常ratにCGRPを経静脈的に投与したところLCAP類似の白血球の上昇がみられた。そこで血管内皮前駆細胞(EPC)数や、コロニーアッセイによる造血幹細胞数について検討したところ、CGRP投与群で有意に増加を認め,CGRP投与による骨髄細胞の動員が示唆された。これらの検討によりCGRP腸管血流増加による組織再生作用だけでなく、EPCや造血幹細胞などを含めた骨髄細胞の動員による組織再生に関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はCGRPあるいはEPC併用するためのLCAPモデルとして急性腸炎モデルよりさらにヒトのIBDの病態に近い慢性腸炎モデル実験系の確立と、その有効性の検討を行った。急性モデルと比較し腸炎の程度は軽症であったためそれぞれ腸炎並びに関節炎などの症状の出現を待ち、LCAP実験を開始した。急性腸炎モデルでは、単回しか施行不可能であったLCAPの施行が慢性腸炎モデルにおいては、複数回LCAP施行が可能であり、よりヒトのLCAPに近い条件での施行が可能となった。手技的な難しさや治療終了までに時間がかかったことはあったが概ね予定通り実験は進んだ。今回LCAPによるCGRPの増加を直接測定できたため、LCAPによる腸炎改善のメカニズムの1つとしてCGRPによる腸管血流改善作用が深く関与していることが示唆された。次に正常ratにCGRPを経静脈的に投与したところCGRP単独投与でもLCAP施行に匹敵する白血球の上昇が認められたため、EPC数や、コロニーアッセイによる造血幹細胞数について検討したところ、CGRP投与群で有意に増加を認めた。それらのことからCGRPによる骨髄細胞の動員が示唆された。従ってCGRP単独投与で、障害部位の血流改善と骨髄細胞の動員による2つの作用により組織修復による治療効果が期待された。初年度はCGRPによる骨髄細胞の動員が確認されたため、CGRP単独の腸炎に対する治療効果やその機序について次年度より詳細に検討予定である。さらに当初計画に追加しヒトのLCAP施行時の採血を計画し、次年度からのCGRPの測定の準備を進めている。従って、おおむね順調に計画どうり目的を達成していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目的は、LCAP作用機序の解析によるIBDの病態の解明とLCAPの作用機序に関わるCGRP自体の治療応用の可能性について検討を行うことである。次年度は、初年度CGRP増加による腸管血流改善作用が証明され、またCGRPの骨髄細胞の動員による組織修復作用も示唆されたため、LCAPを施行せず、CGRPそのものの治療応用の可能性をさらに詳細に検討することとした。昨年度は正常ラットを用いて骨髄や末梢血の変化などの基礎的検討が中心であったため、次年度はCGRPやCGRP阻害剤を経静脈的に投与を行い慢性腸炎モデル動物に対してまずCGRP投与群における治療効果と、CGRP阻害剤を用いて腸炎の増悪を確認する。次にそれぞれの群にて組織の炎症の程度、サイトカインの濃度、炎症細胞分画の違い、腸管組織のアポトシースの程度、腸管上皮再生の違いなどの比較検討を行う。また骨髄や末梢血においてEPCや造血幹細胞のコロニーアッセイ、FACSによる表面抗原の解析により炎症組織への骨髄細胞の動員を確認する。また動物モデルでの検討でしか施行が困難な、骨髄のCGRPによる骨髄細胞の動員に関与する分子の検索をリアルタイムPCRなどを用いて検討行う予定である。さらにCGRPやその阻害剤投与時の腸管や全身の血行動態については、レーザードップラー血流計に加え、サーモグラフィーにより血流変化についても詳細に検討する予定である。一方で、当院倫理委員会承認後、ヒトのLCAPにおけるCGRP、アドレノメデュリン(ADM)の関与についても併せて検討を行い、CGRPの治療応用についてさらに詳細に検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、実験腸炎ラットを用いたCGRP自体の効果に絞っての検討を行う。急性腸炎モデル作成のため、DSS購入とLew rat購入の必要がある。また慢性腸炎モデル作成のためHLA B-27 transgenic rat購入予定である。抗体については初年度に引き続き、末梢血や骨髄の細胞表面蛋白の解析を行うためFACS用の抗体および細胞全体の蛋白解析の分離(磁石によるソーティングシステム使用)およびその実験消耗品を必要とする。CGRP,AMなど神経ペプチドについては、その拮抗剤とともに大量に必要とし費用がかかると考えられる。サイトカインの測定はELISAおよびPCRにて行い、一部のELISAについては正確性および感度の点より市販のキットを使用する。サイトカインの測定としてはT細胞由来のものおよび炎症性サイトカインを全般的に検討する必要があることより初年度に引き続き研究費用が必要と考える。またリアルタイムPCRについてもELISAで測定できないものやCGRPやADMなど神経ペプチドのアイソタイプを含め様々な種類のプライマーを準備し、測定する必要がある。その実験消耗品も含め、購入が必要である。その他、血流計による血流測定の他により多角的に血行動態の分布を把握するためサーモグラフィーによる血流測定機器の購入が必要である。さらに今回ヒトに対するCGRPなどの測定も行うため、そのためのELISAやリアルタイムPCRプライマーやその消耗品が必要となる。その他、細胞分離のため試薬、実験器具、印刷および研究協力者との研究打ち合わせ、学会発表および研究報告の費用が必要となる。
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Research Products
(2 results)