2012 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞の血管平滑筋細胞分化・脱分化における転写機構解析と動脈硬化治療への応用
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23790840
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
早川 朋子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30420821)
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Keywords | 血管 |
Research Abstract |
マウス頚動脈結紮モデルの作製を行い、2週間観察した。alfaSMA、SM-MHCの発現は1日後から急激に低下し、その後は大きな変化はみられなかった。よって結紮後1日以内に、SMC脱分化を促進する機構があると考えられた。以上より、SMC分化誘導モデルと血管結紮モデルの双方で1日以内に正負の発現変動が見られる遺伝子を探索した。その結果、10種類のヒストン修飾酵素が発現変動していることがわかった。その中でも、特に変動が大きかった遺伝子として、Nsd1が見つかった。ラットより調整したSMCは分裂能があり、培養刺激より、すでに脱分化している。ラットSMCの分化、脱分化に対するヒストン修飾酵素の働きを調べるために、10種類のヒストン修飾酵素の発現を抑制した。Nsd1抑制によって、alfaSMAやSM-MHC、その他SMCマーカー遺伝子の発現が強く誘導され、ラットSMCが正常分化SMCへと、逆の形質転換が起こった事が判明した。Nsd1以外9種類のヒストン修飾酵素はNsd1のような作用は全く観察されなかった。ウェスタンブロッティングによってNsd1発現を調べたところ、Nsd1抑制によって発現が明白に低下していた。 Nsd1抑制を行ったラットSMCのRNA発現変動をRNA-sequence法によって解析すると、30遺伝子が変動していた。これら30遺伝子のプロモーター領域3kbを抽出し、転写因子結合サイトが有意に存在するかを解析したところ、上位3番目にV$RXRF (RXR heterodimer binding site)が存在した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の二つの実験結果に関して、達成度が高いと考えている。 Nsd1抑制によるrat SMCの分化誘導に関して Rat SMC (R518)に対して、Nsd1, Dot1l, Kdm2b, Ezh2, Nsd2, Hat1, Suv39h2, Suv420h2, Kdm6a, Setdb2 siRNA (oligo)をtransfectionし、rat SMCの分化・脱分化に対して何らかの作用があるか調べた。コントロールはnon-targeting siRNAを用いた。Nsd1 siRNAにより、day1ではマーカー遺伝子の発現上昇がわずかであったが、day2, 3では強い発現上昇が見られた。SMAは約4倍、SMMHCは約10倍、SM2は20倍だった。また、SM22alfa, Calponin, Caldesmon, Desminも2倍前後上昇していた。結果として、脱分化したrat SMCは、Nsd1の発現を抑制するだけで、抑制1-2日後に分化したSMCへ劇的に変化した。また他のrat SMC (R513, R627)を用いて同様の実験を行ったところ、Nsd1抑制により、R513と同程度にSMC分化が促進されることが分かった。以上の結果より、達成できたと考えられる。 RNA sequenceに関して Rat SMCに対しNsd1抑制を行った場合の遺伝子発現変動を調べるために、RNA sequenceを行った。Non target, Nsd1 siRNAを導入後1, 3日後のRNAを用いた。Nsd1抑制により、1日後は発現上昇した遺伝子数は22、低下したものは0遺伝子認められた。3日後は23遺伝子が上昇し、13遺伝子が低下していた。以上の結果より、達成できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
血管平滑筋細胞 (SMC)形質転換の解明は、血管病態解析とその治療法の開発に重要である。本研究では、2種類の分化・脱分化モデルを用いて、ヒストン修飾酵素Nsd1抑制により、脱分化SMCから分化SMCへと、逆の形質転換が誘導される事を新規に見出した。Nsd1は形質転換のOn/Offスイッチとして作用すると考えている。そこで、今後はNsd1と相互作用する核内受容体が結合するゲノム領域や、Nsd1酵素活性部位の同定など、詳細なメカニズムの解析を進める。 Nsdファミリーは、ヒストンメチル化活性をもつSETドメインがあり、Nsd1はH3K36Me, H4H20Me活性がある。Nsd1は核内受容体(RAR, RXR, AR, TR, ER)と結合し、正または負の遺伝子発現の制御に働く。またNsd1は精神遅滞を伴う巨頭症で知られるソトス症候群の原因遺伝子として知られ、患者はSETドメイン等に変異が見られる。さらにソトス症候群のマイナーな症状として、心奇形(20%)、腎障害(15%)がある。またNsd1ホモ欠損マウスはE10.5で重篤な成長障害が見られ死亡する。 血管障害によりNsd1が誘導され内膜肥厚等の増悪が進行するのであれば、Nsd1の阻害薬によってそれらを回避する事ができる。そこでNsd1の酵素活性部位の特定が重要になる。本研究によってSMC分化・脱分化機構を解析することで、効果的な動脈硬化治療薬を開発する事ができると期待している。 Nsd1変異は、白血病や腫瘍との関係も示唆されている。また正常な成体におけるNsd1の役割は知られていないが、Nsd1は組織障害に対して応答しているのではないかと考えている。本研究ではSMCに着目したが、Nsd1は各組織でユビキタスに発現しており、他の組織でも障害応答因子としての働きがあるのではないかと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Nsd1とRARが相互作用する事により、SMC分化、脱分化に関連する遺伝子群のヒストン修飾が決まり、これら遺伝子の発現変動がおこり、最終的にSMC分化、脱分化が決定されるとの仮説のもとに研究を進めている。今回、Rat Nsd1の抗体が見つかったので、これを用いてChIP sequenceを行い、Nsd1によって発現制御が行われると考えられる遺伝子群を解析する。また、この時、H3K36, H4K20等のヒストン修飾がみられるかを調べる。また、SRFによる調節機構の解析も手が空き次第行う。1) Rat SMCを用いてNsd1抑制を行い、Human Nsd1抗体(BL715)を用いて、ChIP sequenceを行う。ついで、H3K36, H4K20抗体を用いたChIP sequenceを行う。またNsd1がプロモーター領域に結合しているが、RNA sequenceでは発現変動がみられない遺伝子があった場合、個別にQRT-PCRを行う。これにより、発現量が低い事などが原因でRNA sequenceで検出出来なかった遺伝子を見つけることが出来るのではないかと考えている。 ついで、RNA-sequenceで得られたデータと組合わせてバイオインフォマティクス解析を行う。2) SET domainに変異を導入した発現ベクターを構築する。3) Mammalian Two-Hybrid法を用いて、Nsd1とRARが直接結合するかを確認する。4)ラットSMC(脱分化細胞)、iPS細胞より分化させたSMC(分化細胞)に対し、Nsd1, 変異Nsd1を導入し、分化・脱分化が進行するかを調べる。5) マウス頚動脈血管結紮モデルに対し、レンチウイルスを利用してNsd1抑制を行う。内膜肥厚が減少するかを調べ、組織障害時のin vivoにおけるNsd1の作用をみる。
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