2011 Fiscal Year Research-status Report
心房細動関連遺伝子の機能解析および臨床像との関連研究
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23790841
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
江花 有亮 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (60517043)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 心房細動 / ゲノムワイド研究 / cis制御エレメント / 肺静脈隔離術 / ENOX1 |
Research Abstract |
4q25領域の分子生物学的な解析については、研究背景で述べたとおり、4q25領域に3か所のcis制御エレメントの候補を同定した。サイレンサーを同定するためにヒストンH3リジン27の結合を調べたところ、更に1か所同定されたので、この3つの領域についてSNPを含めた1-2kbの周辺配列をrisk allele, non-risk alleleそれぞれのコンストラクトを作成し、レポーター・アッセイを行った。p300の結合するエンハンサー用の領域は明らかな転写活性の増強を認めなかったが、新たに同定されたサイレンサー候補領域は転写活性が抑制された。更にcis-制御機構のアレル差も認めた。しかしゲルシフト・アッセイでは明らかなアレル差を認めなかった。 また臨床研究について、現在、心房細動のカテーテルアブレーション(肺静脈隔離術)後の心房細動再発率に関して、サンプルサイズはまだ196例であり、十分な数が集まっていない。また左房の心内電位を調べてPV sleeveの心筋量を調べたところ、それぞれの遺伝子型の間で明らかな差は認めなかった。 ENOX1は細胞保護的に機能し、伸展刺激・圧負荷などにより発現が減少することで心房筋細胞障害が増大し、結果として心房筋の繊維化などの構造的なリモデリングが惹起されるものと考えられる。ENOX1をsiRNAでノックダウンしたところ、細胞死が増加することが判明した。既報によると血管内日においてはENOX1のノックダウンでp70S6K活性の低下を認めたため、調べたところp70S6K1のS371のリン酸化の低下を認めた。一方S389には変化が認められなかった。上流のキナーゼであるmTOR活性に変化が認められなかったことから、mTOR-p79S6Kとは独立した経路での関与が考えられた。ENOX1はp70S6K1の活性化を通じて細胞生存に寄与していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心房細動のゲノムワイド関連研究の結果、同定された4q25領域には遺伝子がない。解析としてはこのintergenic regionにある機能を調べることが必要であったので、当該年度はその領域の遺伝子多型についてヒストン修飾パターンとレポーター・アッセイを用いて配列自体の機能を調べた。結果、配列の持つ特徴や結合している転写因子を確認することが出来ている。これらの転写因子が周辺の遺伝子発現に影響を及ぼすことを示していくことで、心房細動の管理や発症抑制につなげていけるものと思われる。分子生物学的な解析は初年度で概ね本研究全体の目標を達成することが出来たと思われるので、更に解析を進めていく。 4q25の臨床研究(カテーテル・アブレーション治療の効果予測)については心房内・肺静脈内の電位特性についての相関は認めることが出来なかった。これは心房細動は様々な因子の絡み合った複雑な不整脈であるため、遺伝子型に応じて患者群のパラメーターをそろえてバイアスのない臨床研究にすることが必要となる。そのためにはサンプルサイズが大きくないと難しいので、今後は多施設の協力を仰ぐなどの対処が必要になると思われる。 ENOX1の分子生物学的な解析はENOX1のノックダウンによる細胞運命の変化を観察し、その経路としてp70S6K1が考えられる。このキナーゼの下流にはBadなどのアポトーシス誘導型Bcl-2ファミリーが存在し、p70S6K1はこれを抑制することが一般的には知られていることから、おおむね仮説通りに研究を進めることが出来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
4q25領域の分子生物学的管制機に関して今後は同定されたサイレンサー領域に結合するタンパク質・転写因子を同定していく予定である。そしてそのタンパク質が周辺の遺伝子領域にも結合しているかどうかをクロマチン構造補足アッセイを行って証明する。出来れば、タンパク質複合体がサイレンサーへ結合する程度にアレルの相違がかかわることを示していく。 4q25の臨床研究(カテーテル・アブレーション治療の効果予測)については研究達成の部分でも述べたとおり、心房細動は様々な因子の絡み合った複雑な不整脈であるため、遺伝子型に応じて患者群のパラメーターをそろえてバイアスのない臨床研究にすることが必要となる。そのためにはサンプルの収集が必要と思われる。また少ないサンプルサイズでも有効な統計学的な解析(Propensity scoreを用いた解析)などを検討する。 ENOX1の分子生物学的な解析はENOX1のノックダウンによる解析を進める。このキナーゼの下流にはBadなどのアポトーシス誘導型Bcl-2ファミリーが存在し、p70S6K1はこれを抑制することが一般的には知られていることから、この点を抑えるのと結局ミトコンドリアを介したアポトーシスというメカニズムが想定されるので、Bad/Baxなどの解析とともにミトコンドリアの酸化ストレスやシトクロムcの放出などを通して解析を進める。またENOX1ノックアウトマウスの作成を検討する。ENOX1は細胞保護的と考えられるので、ENOX1 KOによって心房性不整脈が出やすくなると考えられる。マウスの心電図解析と心臓へのプログラム電気刺激によって心房性不整脈の起こりやすさを観察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は昨年同様、消耗品および学会出張費に使用することとする。4q25の分子生物学的な研究への使用計画としては主にChIP解析を行うので、これまで通りクロマチン免疫沈降法のきっとであるChIP-ITと各種抗体を入手する。また使用している細胞はこれまでヒトのものを使用してきたが、今後はマウスなどの哺乳類動物を用いた研究を検討する。 4q25の臨床研究(カテーテル・アブレーション治療の効果予測)については患者および担当医師の協力によって行われている。現時点ではDNAの抽出キットが必要である。また近隣施設と共同研究を行っているので、血液検体の輸送費が必要となる。 ENOX1の分子生物学的な解析はENOX1のノックダウンによる解析を進める。ミトコンドリアの機能解析としてBad/BaxなどのBcl-2ファミリーのリン酸化を観察することと結果として起こるミトコンドリアの膜透過性の変化や脱分極変化などを解析する必要があるので、その研究費に充てる。またノックアウトマウスについてはES細胞は商品化されているので、年度に間に合えばこれを購入して施設内のマウス作成のためのユニットがあるので依頼することとする。 これらの結果がまとまり次第、学会や論文報告する。
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Research Products
(3 results)