2011 Fiscal Year Research-status Report
心臓におけるコルチコステロイド産生調節機構と病態生理作用の解明:糖の関与を中心に
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23790881
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
名越 智古 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (60408432)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アルドステロン / Akt / 心筋細胞 / ミネラロコルチコイド受容体 |
Research Abstract |
心不全の病態生理においてアルドステロンは中心的な役割を担っているが、その活性化の生理学的意義は未だ十分に解明されていない。一方、糖代謝におけるアルドステロンの位置づけが最近注目されてきている。我々は、アルドステロンの心筋細胞に対する直接的作用を短期と長期とに分けて考え、主にAkt signal活性化作用に焦点を置き検討を行った。仔ラット培養心筋細胞にアルドステロン刺激を加え、AktやGSK-3βのリン酸化を活性化の指標とし検討した。アルドステロン短時間刺激によりAktやGSK-3βのリン酸化は一過性に上昇した。この現象はPI3K阻害薬やNHE阻害薬で抑制されるも、ミネラロコルチコイド(MR)阻害薬やグルココルチコイド受容体阻害薬では抑制されなかった。興味深いことにこの現象は高糖濃度培養環境下でのみ認められた。グルココルチコイドの短時間刺激ではAkt-GSK3 signal活性化は認められなかった。一方、長時間持続刺激においてもこれらのリン酸化は上昇し、MR阻害薬はこれを緩和した。つまりアルドステロンはAkt signalを短期と長期とで異なったメカニズムで、二相性に活性化させる可能性が考えられた。このアルドステロンによるAkt signal短期活性化作用の病態生理学的意義を検証するため、Langendorff摘出心灌流実験の系統を立ち上げた。Preliminay dataとして、アルドステロン短時間灌流により、虚血再灌流後の左室機能の有意な改善を認めた。共に心不全において活性化されるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)と糖代謝は、危機的な状態にある心臓に対するいわば生体の防御反応的機構とも言える。その架け橋としてのアルドステロンの役割を解明することで不全心におけるRAAS活性化の病態生理学的意義を細胞内エネルギー代謝の観点から捉えることができると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
仔ラット培養心筋細胞を用いたin vitroの検討では各種阻害薬などを併用することで、アルドステロン短時間刺激によるAkt signal活性化経路を確立した。つまり、MR非依存性のNHE-PI3K-Akt経路の確立である。そして、この経路が高糖濃度培養下でのみ活性化されるカスケードであることも確認した。このカスケード活性化の病態生理学的意義を検証するために、in vitroでの過酸化水素による細胞障害モデルでの検討に対応して、ex vivo Langendorff摘出心還流装置を立ち上げ、虚血再灌流実験の系を確立した。さらに、アルドステロン短時間還流がbeneficialである可能性についてもpreliminary dataを得ることができた。以上より、当初の申請書に記載されている平成23年度研究の計画はほぼ順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
アルドステロンのAkt signal活性化作用が糖濃度依存性であることのメカニズムをさらに追究する。その一つとして、ベースラインにおけるAkt signalの活性化状況を培養液の糖濃度を変化させて検討する。また、作用のみならず、局所でのアルドステロン産生因子に関しても、高糖濃度下でアルドステロン合成酵素が誘導される可能性に関し、検討する。Langendorff摘出心還流実験では虚血再灌流に対するアルドステロン短時間刺激による心保護作用のメカニズムを各種阻害薬の併用、心組織そのものの生化学的解析を特にインスリンシグナルに焦点をあてて検討を進めていく。加えて、心組織でのアルドステロン産生機構に関しても、潅流液の糖濃度を変化させたり、すでに倫理委員会に申請が通っている糖尿病モデル動物心を用いて、そのメカニズムや心機能への影響を中心に検討を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでにも心臓においてアルドステロン産生が行われていることは証明されているが、確定的な合成制御因子は未だ同定されていない。近年、高濃度の糖負荷により、組織のRAASが活性化されることが心筋細胞を含め様々なモデルにおいて証明された。以上より、糖濃度環境は心臓アルドステロン合成に関し重要な規定因子であると考えられる。引き続き仔ラット培養心筋細胞を用い、高糖濃度培養によるアルドステロン合成増加をQRT-PCR及びウエスタンブロット法によるCYP11B2遺伝子及び蛋白発現や培養液中へのアルドステロン分泌量にて評価する。また、様々な培養糖濃度において、コレステロール(HDL)やエンドセリン他のホルモンを添加し、広範に合成因子の検索を行う。合成促進因子を同定し、心筋細胞における局所アルドステロン合成モデルを確立した後に逆に抑制因子探索研究へと繋げる。アルドステロン合成に際し、レニン阻害薬(アリスキレン)、ACE阻害薬、ARBに加え、ANP, BNPといったnatriuretic peptidesを併用投与し、組織アルドステロン合成メカニズムの詳細を検討する。Langendorff摘出心還流実験においては、アルドステロン短時間刺激による虚血再灌流に対するアルドステロン短時間刺激による心保護作用のメカニズムを各種阻害薬の併用、心組織そのものの生化学的解析を特にインスリンシグナルに焦点をあてて検討を進めていく。また、高糖濃度潅流や糖尿病モデル動物心を用い、アルドステロンの心臓組織に対する直接的な作用を特に糖代謝制御に注目して、心筋エネルギー代謝の観点から検討を進める。最終年度であることを考慮し、国内外での各種国際学会や論文化による発表を行い、公に報告していく予定である。尚、残金14,410円は計画的に使用していたうえでの微々たる端数であり、来年度の研究経費の一部として使用する予定である。
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Research Products
(6 results)